21 帰還
宇宙船のワープが完了し、俺たちの目の前に青く美しい惑星が姿を現した。
「帰ってこれた……のか?」
念願の故郷に帰ってきたというのに、あまり実感がわかない。
「まあ、君は亜空間転送装置でそのまま地球に飛ばされたからね。宇宙から自分の星を見るなんて初めてだろう?」
「ああ。地球に似ているとは聞いていたが、これほどとはな」
地球の方も実際に見たことがあるわけではないが、テレビや本で宇宙について調べている内に、地球の写真や映像を見たことならある。
目の前の俺の母星は、その地球によく似ていた。
「そんなことどうでもよいわ。こんな所でぐずぐずしてないでさっさと降りるのだ」
故郷への帰還を待ちきれない様子でマルが急かす。
【それでは、これより降下しますので衝撃に注意してください】
「……衝撃?」
ギュンッ――!
スリサズがアナウンスすると宇宙船が急加速し、強烈な重力が俺たちの身体にのしかかる。
「うおおおッ!?」
【宇宙船を目撃されないための措置です。この速度で降下すれば人間には視認できず、仮に誰かが見上げていたとしても隕石が降ってきたようにしか見えないでしょう】
「隕石でもそれはそれで注目されると思うんだが!?」
宇宙船は降下ではなく落下と言ってもいいスピードであっという間に大気圏を突き抜けた。
外の景色を確認する余裕もなく、見る見るうちに地面が迫って来る。
「一応聞いておくけど、このスピードのまま地面に激突したとして私たちは助かるんだよね?」
【……………………】
「おい黙るな!」
ドゴオォォォォンッ――!!
こうして俺は何の感動も感慨も抱く暇もないまま、故郷の土を再び踏むことになった。
◆
「うぐぐ……ポンコツめ、何を考えてやがる」
「まあまあ、案の定生きてたし良かったじゃないか」
宇宙船の墜落で作られたクレーターから、俺たちは体を引きずってなんとか這い出す。
墜落した場所はどこかの山林のようで、墜落の衝撃で周囲の木々がなぎ倒されていた。
「ここはどの辺りだ? そもそも本当に俺の星なんだろうな」
【それは間違いありません。人目を避けるために立ち入りの可能性が低い山奥に着陸させましたので、見覚えがないのはそのためでしょう】
スリサズはそう言うが、視界には密集した木々がどこまでも続いており、景色からはこの場所に関する情報が何も入ってこない。
せめて、もっとゆっくり宇宙船を降下させていたら、空の上からここや周りの位置関係を観察できたのだが。
「おおおおっ! お前ら、これを見てみろ!」
マルがどこかから大声で俺たちを呼ぶ。
いつの間にか俺たちより先に穴から出ていたらしい。
「これは……モンスターの骨か?」
声を頼りにマルの元へ駆けつけると、見上げるほど巨大なモンスターの骨が横たわっていた。
肉や内臓だけが綺麗に取り除かれたその骨格から、生前はかなり大型のモンスターであったことがうかがえる。
「たしかに異様だが……これがどうかしたのか?」
「ふっふっふ……人間のお前らには分からんだろうが、これは我の母上や兄弟たちが狩りをした跡なのだ!」
「ほう」
俺にはただのモンスターの死骸にしか見えないが、元々ドラゴンの群れの中で暮らしてきたマルには本能的に分かることがあるらしい。
「そうと分かればこうしてはおれん。我は母上たちを追いかけるぞ」
「長官の指令はどうするんだい?」
「そんなもん知るか。そもそもお前らが勝手に巻き込んだだけであろう。人間どものいざこざにつき合ってやる義理などないわ」
「で、お前の親兄弟がどっちに行ったのかはこれだけで分かるのか」
「当然であろう。えーと……」
マルは目を細めてモンスターの骨を観察し、かと思えばおもむろに匂いを嗅いでみたり、骨の周りをぐるぐる回ってみたりと忙しなく動き回る。
それが10分ほど続いた後、俺たちのところに戻ってきた。
「……ま、もう少しだけ一緒にいてやってもいいぞ。お前らも我がおらんと心細かろう」
「分からなかったんだな」
「ちち違うぞ! あの骨からは今はまだ我が帰るべきではないという深いメッセージがだな……」
往生際が悪い。
なんだか本当にドラゴンの狩場だったのかまで疑わしくなってきた。
「とりあえずは下山して人のいそうな村や町を探すしかないんじゃないかな。アダムの死体がある旧魔大陸から、ここがどのくらい離れてるかも分からないわけだし」
「旧……魔大陸?」
聞き慣れない言葉に反応して、俺はフィノに聞き返す。
「ああ、君はアダムを倒した直後に転送されたから知らないんだね。魔王が消えてあの一帯も平和になったから島の名称も変えようってことになったんだよ」
「そういえば、フィノは俺が地球に飛ばされてからもしばらくこっちに滞在してたんだったな」
「不本意ながらね」
ということは、俺よりも地球人のフィノの方が詳しい部分もあるのかもしれない。
この星の出身としては複雑な気分だ。
「まずは山を下りなければ始まらない。詳しい話は移動しながらにしようじゃないか」




