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19 経過報告

 “フェルディナント”から脱出した俺たちは、再び暗黒の宇宙を漂っていた。


「やはりというべきか、積んであった食料や生活用品は全部ゲオルグに回収されているね。すぐにワープしてどこかの星に降りないと仲良く飢え死にだ」


 倉庫を調べていたフィノが、戻ってくるなり苦い顔をして言った。


「スリサズ、追手はどうだ?」

【半径300km以内にこちらに接近する物体は存在しません】


 振り切ったわけではないだろうが、奴らも今のところは見逃してくれているらしい。

 奴らの目的がスリサズを入手することである以上、宇宙船ごと撃ち落として俺たちもろとも破壊するような真似はしないはずだ。


「で、これからどうするのだ? また漂流生活に逆戻りではないか!」

「あそこにいたら殺されてたんだ。しょうがないだろ」

「ゲオルグのことだ、不用意には手を出してこないだろう。逃げるにしろ迎え撃つにしろ、今の内に対策を考えようじゃないか」


 言いながら宇宙船の通信機を取り出し、どこかに連絡を取ろうとするフィノ。


「待て。誰と話すつもりだ」


 俺はその後頭部に、ゴム弾のライフルを突きつけた。


「……誤解は解けてると思ってたんだけどな」

「通信機から手を離せ」


 何かを入力していたフィノは作業を中止し、両手を上に上げる。


「最初に会った時はギルドの職員だったな。次は魔王討伐軍の指揮官、その次は地球人のスパイで宇宙管理局(あいつら)の仲間と来た。そいつらさえ裏切って、今度は何に化けるつもりだ?」

「参ったねどうも。どうすれば信用してもらえるのかな?」

「吐け。お前が知っていること、俺たちに隠していること、全部だ」

「やっぱりそうくるよね。うーん……でもなあ……私にも立場があるしなあ……」

「まだシラを切れると思ってるのか」


 この期に及んで、なおも答えを渋るフィノの後頭部に、銃口をゴリッと強めに押し付ける。


「二、三発撃たれれば話す気になるか?」

「いやいやゴム弾でも頭に何発も受けたら死ぬから……冗談だよね?」


 俺は無言でライフルの安全装置を外す。

 後ろを向いてフィノにその様子は見えなかったが、ガシャッという乱暴な音が聞こえると身をすくませた。


『それは私から答えよう。ジョン・ドウ』

「なに?」


 それはフィノの声ではなく、彼女の目の前にある機械――通信機から聞こえてきた。

 ノイズがひどく、その声が男なのか女なのか、若いのか老人なのかすらも判別がつかない。


「あ……ち、長官!」

「長官?」


 ということは……この声の主がフィノやゲオルグの上司か。


『エージェント・フィノメールには許可なく機密情報を漏らさないように言ってあるのでね。結果的に君を騙すようなことになってしまったのは申し訳なく思っている』

「謝られたところで信用できないな。俺たちを追い回してたのもあんたの部下なんだろ。奴らと繋がっていないとどうして言える?」

『その窮地を救ったのも私の部下だったと思うがね』


 その言葉を聞き、フィノがふふん、と誇らしげに胸を反らす。

 そもそも捕まったのは半分ぐらいこいつのせいだった気がするのだが……


『私がフィノメールを君の惑星に派遣した目的は、SSSを地球へ帰還させること、そして魔王と化して生き延びていたアダムを始末することだった。どちらも君たちの文明には存在してはならないものだからな。だからSSSを所持する君に接触させ、アダムと戦うように誘導した』

「フン、なるほどな」


 あまり気持ちのいい話ではないが、フィノが地球人だと分かった時点で薄々は分かっていたことだ。彼女に出会ってからアダムと戦うことになるまで、偶然にしてはあまりにも出来すぎていた。

 それについては文句を言うつもりはない。スリサズの力が無ければ、地球の兵器を持ち込んでいたアダムに勝つことはできなかっただろう。


『知っての通り、君たち現地人の協力もあり、無事にとは言い難いが作戦は成功した。アダムは死亡し、SSSは亜空間転送装置により地球へと戻った。君も巻き添えに転送されていたとは聞いていなかったがな』

「……」


 フィノの方を見ると、気まずそうにあさっての方向に視線を逸らしている。


『さて、本題はここからだ。SSSが地球へ帰還したことにより、その力を手にしようと欲を出す者が局の内部に現れはじめた。我々、宇宙管理局は基本的に地球での争いは不干渉が原則なのだが、奴らは宇宙管理局とSSSの技術を融合し、地球と周辺の銀河すべてを支配しようとしている』

「それがあのゲオルグだと?」

『そうだ。さらに、その背後でゲオルグに指示を出し、バックアップしている存在がいることも突き止めている』

「長官。私たちが逃げる直前、ゲオルグが言っていました。“マッカートン財団”と」

『マッカートン財団……やはりな』

「勝手に納得するな。何なんだ、それは?」


 俺は二人で話を進めようとするフィノと長官に割って入る。


【マッカートン財団は地球で有数の投資ファンドです。世界中の企業を買収し、莫大な富を築いています】


 答えは長官ではなく、宇宙船を動かしているスリサズから返ってきた。


【そして、その創業者一族はアダム大佐の血縁でもあります】

「なんだと……!?」


 そういえばアダムの名前を初めて聞いた時、マッカートンという姓も同時に聞いていた。

 聞き覚えがあったのもそのせいだ。


 アダム・C(クリストフ)・マッカートン。

 魔王として倒したはずの男が、死してなお俺たちの行く手に関わってくるとは。

 どうやら、奴とも腐れ縁が切れていなかったらしい。

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