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17 エージェント・フィノメール

 結論から言うと、フィノの奴はあっさり見つかった。

 倒した警備兵の通信機には発信者の座標が残っており、ジェンセンから貰ったタブレットの地図と照らし合わせると、地下にある一つの倉庫をはっきりと指し示していた。

 その場所は、以外にも俺たちが最初に幽閉されていた休憩室のすぐ近く。脱走した際に逃げた方向と真逆の位置にあった。

 逆方向に逃げていれば最短で見つけることもできたというわけだが、何の情報も持っていなかったあの時では知るよしもなかっただろう。時間のロスを悔やんでも仕方がない。


「やあジョン・ドウ。来るのが早かったね。いやホント、あと5分ぐらい遅れてくれれば良かったのに警備は何をやってるんだか……」

「逃げる暇をやれなくて悪かったな」


 部屋に押し入った時、フィノは机の上でトランクに何やら書類の束を詰め込んでいた。逃げる準備中だったのだろう。

 そのトランクの中には、透明なカプセルに入ったスリサズの姿もあった。四本の足でリンゴに張り付いた、なんとも懐かしい格好だ。


「おいスリサズ! 返事しろ!」

「無理だよ。このカプセルは特殊なガラスで出来ていて外部との一切の干渉が出来なくなっている。私かゲオルグのマルチツールでロックを解除しない限りね」

「それじゃさっさとやってもらおうか。今なら二、三発、顔面をへこますだけで済ませてやる」


 俺はゴム弾のライフルをフィノの眼前に突きつける。


「おいおい、レディの顔を人質に取るとは乱暴だなあ」

「誰がレディだ。やらないなら本気で撃つぞ」

「できれば話し合いの場を持ちたかったんだけど、そういう空気じゃなさそうだ……ね!」


 カッ――!

 フィノの腕輪――マルチツールが光を放ち、一瞬、目の前が真っ白に染まる。


「ぐっ!」


 反射的に閉じた目を再び開いた時、フィノはすでにスリサズの入ったトランクを抱え、倉庫の入口のドアを開けていた。


「くそ、目くらましか!」

「じゃ、そういうことで」


 しゅた、と俺に向けて軽く片手を上げ部屋から出て行こうとするフィノ。

 だがこの程度ならこっちも想定済みだ。


「マル! 捕まえろ!」

「……はっ!?」


 俺が叫んだのと、それに呼応して荷物の隙間から飛び出す影にフィノが気づいたのは、ほぼ同時だった。


「どおりゃあああッ!」


 フィノが逃げ出すことを考え、マルを入口近くの物陰に隠れさせておいたのだ。

 少しでも触れることができれば、電撃でおとなしくさせることができる。


 べしゃっ――


「うげっ」


 しかし、マルの体は見えない壁に激突したかのように空中で止まり、フィノに触れることなく地面に落ちた。


「危ない危ない。君がいたのを忘れてたよ」


 マルに一声かけると、フィノは(きびす)を返し廊下へと走り出す。


「おい起きろ。追いかけるぞ」

「ぐぬ~」


 分かってはいたことだが、やはり奴の魔法()()()は敵に回すと厄介だ。

 それでも、ここまで来て逃がすわけにはいかない。





 不思議なことに、フィノはどんどん人気(ひとけ)のない方向に逃げて行っているようだ。

 逃げ切ることを考えるなら、警備員の集まっている場所に誘導して俺たちの邪魔をさせればいいはずだが、今のところ誰ともすれ違っていない。まるでわざと警備員に遭遇しないルートで逃げているかのようだ。

 廊下には手動の警報装置も見かけたが、逃げているフィノがそれを鳴らすこともなかった。

 どこか目的地があるように、脇目も振らず一目散に駆けていく。

 俺やマルの方がおそらく足は速いはずだが、奴が艦内の構造を熟知しているためか、なかなか追いつくことができず、見失わないだけでも精一杯だった。


 そうこうしてフィノを追い続けている内に、俺たちは見覚えのある広い部屋にたどり着いた。


「ここは……宇宙船の格納庫か?」


 この都市艦に初めて来た時、ゲオルグにスリサズを奪われ、拘束されることになった最初の場所だ。俺たちが乗ってきた宇宙船もそのままになっている。


「ハァ……ハァ……そ、そろそろ対話する気になったかな?」


 フィノは宇宙船の近くで立ち止まり、肩で息をしながらこちらを向いた。


「鬼ごっこは終わりか? こっちはまだまだ続けられるがな」

「最初から体力で君たちに勝てるとは思ってないよ……あー横腹が痛い」


 俺は銃を構え、脇腹を押さえて息を切らせているフィノにゆっくりと近づく。

 油断のならない奴だ。まだ何か隠しているのかもしれない。


「まあ聞いてくれ、ジョン。実はここに来たことには理由があるんだ」

「理由だと?」

「それは――」


 フィノが何かを言おうとしたが、それは背後から聞こえてくる無数の足音でかき消された。

 格納庫のゲートが開き、そこから大勢の警備員がどかどかと押し入って来る。


「そこまでだ。逃亡犯」


 警備員たちの人垣の間から、ゲオルグが姿を現した。


「……なぜ俺たちがここにいると分かった?」

「君がロジャース隊員から奪った通信機は常に自身の位置情報を発信している。SSSを探すためだったのだろうが、おかげで簡単に居場所が特定できたよ」


 なんてことだ。

 せっかくフィノを追い詰めたのに、これでまた形勢逆転されてしまった。


「さて、君たちはできれば故郷の星へ帰してあげたかったのだが、ここまで艦内の秩序を乱されては仕方ない」


 ゲオルグが片手を上げると、控えていた警備員たちが一斉に俺に向けて銃口を向ける。


「敵対傾向にある宇宙人はこの場で射殺することにした。ああ、もちろん彼らの銃はゴム弾なんかじゃないよ」

「ずいぶんと残酷なことを考えるじゃないか。そっちが()()()の本性か?」

「フフ……文化も習慣も違う異星人の難民を秩序立てて生活させるというのは、なかなか大変なことなんだよ。反社会的な存在は秘密裏に宇宙の塵となってもらうのが一番手っ取り早い。幸い、宇宙にはゴミを捨てるスペースが無限にあるからね」

「フン、地球人の考えそうなこったぜ。フィノがここに俺たちを誘導したのも、人目につかずに始末できるからだな?」

「へ? いや、それは違――」

「おのれ貴様、見損なったぞ!」


 なぜか戸惑っているフィノにマルが罵声を浴びせる。


「フッ、今だに彼女が正義の魔法使いだとでも思っていたのか? 冗談は君たちの惑星だけにしてもらいたいものだが……まあいい、そろそろお別れとしよう」


 警備員の持つ銃の引き金に力がこもる。

 ゲオルグの合図があればすぐにでも実弾が発射されるだろう。


「――撃て」


 ズドドドドドッ――!

 構えた銃が次々に火を吹いた。

 破裂音と共に放たれた銃弾は、俺とマルの身体中を蜂の巣にする……はずだった。


「……なんだと?」


 銃弾は俺たちを撃ち抜くことはなく、その全てが目の前で重力を失ったように静止していた。


「やれやれ、しょうがないな君たちは。だから話を聞けと言っているのに」


 フィノの方を見やると、手首のマルチツールが光を放っていた。

 例のシールドで俺たちを助けたのだ。


「……エージェント・フィノメール。自分が何をしているか分かっているのか?」

「悪いなゲオルグ。実は私は正義の魔法使いなんだ」

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