14 手がかりを求めて
「で、これからどうするのだ?」
ハンバーガーを食い終わり、飲みかけのドリンク片手にマルが言う。
俺たちは公園を離れ、宇宙船内の街中を当てもなくさまよい歩いていた。
色んな星の難民を収容しているというだけあって、街には肌の色が緑だったりオレンジだったり、眼が三つや四つあったり逆に一つしかなかったりと、多種多様な外見をした宇宙人が生活していた。
この分なら、人間の姿にドラゴンの鱗を持ったマルも目立たずに済みそうだ。
「そうだな。スリサズを探すのは当然だが……」
問題はどうやって探すかだ。
宇宙船の中に広がる街は広く、しらみつぶしに探し回る余裕はないだろう。
そろそろ脱走にも気付かれる頃だ。
ならばそれを逆手に取り、俺たちを探しに来た警備員の誰かを捕まえて無理やり吐かせるか?
しかし、スリサズは地球人にとってかなりの重要機密のはず。下っ端を捕まえたところで、知らされていないかもしれない。
確実に知っているとすれば、俺たちを監禁した張本人であるゲオルグだろう。奴はこの航宙都市艦の市長だと言っていた。地位は最も高いはずだ。
しかし、奴を探す手がかりも今のところ無い。
見つかったとしても、立場上、警護は厳重だろうし、ゲオルグ本人も重力を操る奇妙な武器――フィノはマルチツールとか言っていたか――を持っている。
特に対抗策が見つかっていない現状、またあの重力に捕まれば今度こそ死ぬまで圧し潰されるかもしれない。
「残るは……フィノの方か」
フィノとゲオルグは、互いを「エージェント」と呼び合っていた。
少なくとも、下っ端の警備員とは違う何か特別な地位にあることはたしかだ。
あいつも何かと隠し事の多い奴だが、ゲオルグに比べればやりやすい相手だろう。
監禁されたのはフィノのせいでもあるし、あの裏切者をとっ捕まえて洗いざらい吐かせてやるか。
……と意気込んでみたは良いものの、フィノの居場所も分からないんだよな。
「あれ? おっさんじゃん」
考えごとをしながら街をふらついていると、ふと聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。
しかし辺りを見回しても、通行人の影はいくつか見かけたものの、声の主らしき人物は見当たらなかった。
「おーい、こっちこっち」
よくよく聞くと、声はもっと高い位置、俺の頭上から聞こえてきていた。
声を辿って上空を見上げると、工事中の高層ビルと、そこにロープでぶら下がっている人影が見えた。
「……ニューラか? お前」
声の主は、この艦に初めて来た時にジェンセンと共に別れたニューラだった。
今は砂漠の星で着ていたボロ布ではなく、ツナギのズボンにタンクトップといった服装で、手にはドリルのような工具を持っている。
ニューラは腰の金具に繋いだロープを伝って、スルスルと俺たちの近くまで降りてきた。
「よっ久しぶりだな、おっさん……と変なトカゲ」
「だーれーがトカゲだ小娘が」
シャーッと威嚇するマルを無視して、俺はニューラに尋ねた。
「お前、そんな所に昇って何してるんだ?」
「見ての通り工事だよ。ここの連中に働きたいって言ったらこの現場を紹介されたんだ。あたしぐらいの歳だったら学校に行けとも言われたんだけど、やっぱり体動かしてないと落ち着かなくてさ……そう言うおっさんは警備の仕事でもしてんの?」
俺の着ている警備員のスーツを指して、ニューラが言う。
「あー、まあそんなとこだ」
今まで監禁されててついさっき脱走してきたところだ、とは言えなかった。
事情を話したところで、少し前まで難民だったニューラがスリサズやフィノの手がかりを知っているとは考えにくい。
それに、無闇に俺たちの問題に巻き込んでしまっては、せっかく手に入れたまともな生活を壊してしまう可能性がある。
「そうだ、ジェンセンはどうしてるんだ?」
「ジジイ? んー、たしかここのお偉いさんが協力してほしいってんで、どこかの研究所で働いてるらしいよ」
「らしい?」
「それが極秘だとかなんとかで教えてもらえないんだよね。……あ、でもジジイが住んでるとこの住所ならあたしも知ってる。バカでかいマンションだからすぐ分かるよ。自分だけ贅沢なとこに住みやがってさ。気になるなら直接聞いてみたら?」
極秘の研究をしているということは、ジェンセンはこの艦の内情にある程度関わりがあるということだ。会って話せば何か情報を得られるかもしれない。
「よし、それじゃ住所を教えてくれ」
◆
「エージェント・フィノメール。巡回の報告です」
「あのね、ロジャースくん。今日だけで三回目だぞ? そんなに何度も報告する必要があるのか?」
そして仕事の邪魔をされたのもこれで三回目だ。
私はあれからゲオルグに対して何度も盗聴を試みているものの、いつもこんな感じでロジャースに邪魔されてしまう。
あまりにもタイミングが良すぎるため、これがゲオルグの狙いなのかと勘繰ってしまうぐらいだ。
「艦の規則ですので」
ええい、クソ真面目な新人め。
と内心毒づきながら、私はなんとかこの助手を引き離す方法を考える。
「SSSの監視は艦内でも例外的な極秘任務だろう。この場においては艦の規則よりも私のルールを優先してもらう」
「そういうものでしょうか……」
「というわけで今後は異常があった時だけ報告しなさい。監視がおろそかになっては本末転倒だからね」
「了解しました」
無表情なまま、淡々と答えるロジャース。
本当に了解しているのか、それとも聞き流しているだけなのか判別が難しいところだ。
『ザ……ザザ……各警備隊員は応答せよ』
その時、ロジャースの腰に下げた通信機からノイズ混じりの音声が聞こえてきた。
「こちらロジャース隊員、どうぞ」
『例の人型とトカゲ型の異星人が脱走したらしい。防犯カメラの映像から、潜伏先は中央の噴水公園と住宅街の付近だと思われる。近くにいる者から順に急行し捜索せよ』
「……」
彼は答えず、チラりと私の方を見やる。
許可が出ないと動けない、といったところか。
「あの」
「いいよ、行ってきて。それが君らの本分だろ」
「了解しました。ロジャース隊員、これから現場に向かいます」
ロジャースは通信に応答しながら私に敬礼し、足早に部屋を出て行った。
まったく、融通の利かない奴だ。
それにしても、これで面白くなってきた。
彼らの性格上、このままおとなしくしているとは思っていなかったが、これほどあっさり脱走してくれるとは。
マルチツールを持ったエージェントならともかく、警備隊員の非殺傷兵器程度ではそう簡単に捕まえることはできないだろう。
しばらく注意を引きつけていてもらおうじゃないか。




