08 大怪獣決戦
宇宙船はその円形の中心から発する光線で、集落の住民を吸い上げていく。
元の持ち主だった宇宙人も、ああやって他の星の人間や家畜を攫っていたのだろうか。
【よっ、まだ生きてるみたいだな】
ブリッジの映像にニューラが映り込み、こちらに軽く手を振っている。
どうやら上手くやってくれたようだ。
【監視カメラ3台と生活介助用ドローン2体が破壊されました。非常に友好的な態度で助かります】
【そ、そっちがいきなり捕まえようとしてきたんだろ。あたしは悪くない】
……よく見たらブリッジの壁や床に何本か釘が刺さっている。
「マルもそんな調子で撃ったりしてないだろうな?」
【マルって?】
「お前ぐらいの背丈で爬虫類っぽい角や鱗が生えてる奴だ」
【そんな変なの見かけたらすぐ気づくと思うけど】
【マルは清掃用ドローンが持って行ったきり行方が分かりません。船内のどこかには居るはずなので問題はないでしょう】
「まだゴミに間違えられたままだったのか」
まあ、あいつは頑丈だから多少のことがあっても大丈夫だろう、多分。
目の前の問題が片付いてからゆっくり探してやればいい。
「皆にはあの高台に集まるよう言ってある。食われる前に助けてやってくれ」
ジェンセンが鉄塔を挟んだ向こう側にある、小高い丘を指さす。
すでに住民の何人かはそこに集結していた。
「スリサズ、聞こえたな? 全員集めてさっさとこんな星から脱出するぞ」
【それでは回収する間、住民の安全を確保してください】
通信が切れると宇宙船が高台に向かって動き出し、俺たちも一定の距離を保ちながら後を追う。
ゴブリンはさっきから巨大ワームの巻き添えを恐れて及び腰だ。
戦意を失っていない者も何体かいるが、俺とフィノで十分守り切れるだろう。
問題は当の巨大ワームの方だが、こちらも地中に消えたまま出てくる気配がない。
建物やゴブリンを飲み込んで腹いっぱいになったのか、それとも単に暴れ疲れただけか。
いずれにしても、おとなしくしているなら相手にする必要はない。今の内に脱出するまでだ。
◆
そうこう考えながら宇宙船を追いかけている内に、鉄塔のある集落の中央に戻ってきた。
ワームが地中を好き勝手掘り進んだせいか少し傾いているが、天高くそびえ立つ鉄塔は今でも存在感を放っている。
「あの送電鉄塔は数十年の間ここの家々に電気を運んできたものじゃが、それも今日でお別れか」
「あれもあんたが作ったのか?」
「漂着したガラクタや宇宙船の部品を使ってな。あれのおかげでこんな星でも長生きすることができた」
ボゴンッ―――!!
その時、地中に消えたままだったワームがすぐ側から飛び出してきた。
「グルロロロ―――!!」
「まずい! ジョン、博士を!」
「ちっ、まだ食い足りないってか!」
俺はジェンセンを庇おうとするが、ワームは俺たちには目もくれず、鉄塔に巻き付きながら凄まじい速さで上へ上へと昇っていく。
「……一体どういうつもりだろう?」
身構えていたフィノがきょとんとした顔で聞いてくる。
その疑問は、昇っていくワームを目で追っていくとすぐに氷解した。
「スリサズ! 宇宙船の高度を上げろ!」
慌てて警告するが時すでに遅く、鉄塔のちょうど真上を通過するところだった宇宙船はワームの牙に捕らえられていた。
「しまった!」
食われる寸前だった住民を助けたのを見て、獲物を横取りされたとでも思ったのだろうか。
ワームは宇宙船の底部に食らいついたまま、怒り狂った様子で宇宙船を振り回す。
「グロロロロロロッ!!」
【わわわわわッ――!】
【このままでは回収ポイントに到達できません。なんとかしてワームを引き離してください】
左目の通信回線が開かれ、いつもの調子のスリサズとブリッジの椅子に必死にしがみつくニューラが映し出された。
「そっちに何か武器はないのか?」
【宇宙船に搭載された兵器のほとんどは故障しています。現状で可能なことと言えば、嫌がらせ程度の無駄な抵抗のみです】
「嫌がらせ? なんでもいい、やってみろ」
ウィーン――――。
ワームの口のすぐ近くにあるハッチが開く。
ドサドサドサドサ――――。
開いたハッチの中から、いくつもの真っ黒な袋がワームの口目掛けて投下されていった。
「……なんだあれは?」
【船内の清掃を行った際に発生したゴミです】
「本当にただの嫌がらせだな」
ワームは特に何か応えたわけでもなく、ゴミ袋をムシャムシャと咀嚼している。
何が入ってるのかは知らないが、むしろエサを貰って喜んでいるようにさえ見えた。
とにかく、スリサズの方でどうにかするのは無理のようだ。
「発電機を使え! オーバーロードさせれば全電力を鉄塔に集中させ強力な電流を流すことができる!」
ジェンセンが鉄塔の足元にある機械を指さして叫んだ。
なるほど、鉄塔を起動させれば巻き付いているワームも感電するというわけだ。
「オーバーロードってのはどうやるんだ?」
「ただ壊せばよい。機械が暴走すれば溜め込んだ電力が放出されるはずじゃ」
「いいんですか博士?」
フィノが聞き返す。
「どうせ最後じゃ、派手にやってくれ」
製作者がいいと言うのだからいいのだろう。
たとえ許可されなくてもこの状況ではやるしかないのだが。
「よし、いくぞ!」
気合を入れて、高周波ブレードの背で発電機の脆そうなところ目掛け、思いきり殴りつける。
バチィッ――――!!
金属の箱が音を立てて砕け、稲妻がワームを巻き込み、鉄塔を駆け巡った。
「ジョン! 早くこっちへ!」
電流が迸る鉄塔から少し離れた所で、フィノが例の武器でフィールドを張っていた。
俺は巻き込まれる前にフィノの後ろに転がりこむように避難する。
「グロオオオオオオッ!!」
感電し、悲鳴にも似た一際大きな鳴き声を上げながらもだえ苦しむが、それでもワームは宇宙船を離そうとしない。
「うーむ、これでも生きておるとは、恐るべきはダーク・ゾーンの魔物よ」
「他に何か手は無いのか?」
「ワシの知る限りこれ以上の威力は出せん」
宇宙船が捕まったままでは誰もこの星から脱出できない。
ついさっきまで希望が見えていたのに、あっという間に八方塞がりの状況に陥ってしまった。
「グ……グゴッ……」
「……ん?」
ワームの様子がおかしい。
電流を浴びたのだから苦しがっているのは当然だが、それだけではないように見えた。
「あの光はなんだ?」
最初に気づいたのはフィノだった。
俺たちもそれを聞いて視線を追うと、ワームの腹の辺りから一筋の青白い光が直線に伸びているのが見えた。
鉄塔に電気を流した時の稲妻ではない。もっと直線的な光だ。
ワームの内から外へ、何かの光線が放射されているようだった。
シュンッ――――。
その光は、ワームの腹を撫でるように下から上へ素早く振れていった。
「グゴゴォォッ――!!」
次の瞬間、光線に沿ってワームの腹が二つに裂け、中からおびただしい量の体液が流れ出した。
明らかに電流を浴びたことによる傷ではない。
「な、なにごとじゃ!?」
バリィッ――!
ワームの腹の裂け目から、二対の爪が飛び出した。
爪はそのまま傷口を左右に引き裂き、光線で出来た裂け目を強引に押し広げていく。
傷口が広がるにつれて、爪から腕、さらに頭が姿を覗かせた。
「シャアアアァァァ――――――ッ!!」
「あれはまさか……マルか!?」
ワームの腹を引き裂いて現れたのは青い鱗を纏った竜。
“ミスティック・ドラゴン”、マルドゥーク。
マルの本来の姿だった。
【先ほど投下したゴミ袋の中にモゾモゾと動いているものがありましたが、やはりマルでしたか。「暗い怖い」とか「誰か助けて」という音声も聞こえていました】
「それだけ具体的なら助けてやれ」
つまり、さっき宇宙船から投下したゴミと一緒にワームに食われていたのだ。
発電機を暴走させたことで体内にいたマルも電気を吸収し、ドラゴンの姿に戻れたのだろう。
ワームの腹を裂いた光線は、マルの放ったブレスの閃光だった。
「ギャ――――スッ!!」
目につく臓器や血管を手当たり次第に引きちぎりながら、体内から外へ出ようと暴れるマル。
ワームに食われたせいか、それともゴミと間違えられたせいか、相当怒り狂っているようだ。
「グロロロ…………」
マルが完全に外に出る頃には、体の大部分を失ったワームは力尽き、断末魔のうめき声をあげ倒れ込む。
捕まっていた宇宙船は拘束が緩むと同時に高度を上げ、倒れるワームの巻き添えになるのを回避した。
【すべて計算通りです】
「嘘つけ」




