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07 竜人マルドゥーク

「我らミスティック・ド(神秘竜)ラゴンの群れは冬を越すために、毎年この季節になると南へ移動するのだ。しかし我だけはぐれてこの山に取り残されてしまった」


 とりあえず角から剣を抜いて落ち着かせ、マルドゥークから事情を聞き出す。

 途中まで入れた切れ込みが痛々しいが、そのうち再生してくっつくものらしい。


「だからここで通りかかる商人や積荷を襲ってたのか?」

「今日はせっかく馬肉にありつけると思ったところをお前らが邪魔してきたのだ! 我のサンダーブレスで消し炭にしてやろうとしたら……したら……あれ? 何をされたんだっけ?」

【脳神経に信号を流した影響で一部記憶に欠落が発生したようです】

「よく分からんが恐ろしい攻撃だな」

「とにかく! この姿になってしまっては餌を獲ることも群れに追い付くことも出来ん! どうしてくれるのだ!」

「親や仲間が迎えに来てくれたりしないのか?」


 俺はそう言った瞬間、その可能性に気づき慌てて周囲を見回した。

 雛であるこいつでもあのサイズにあの強さだ。成長したドラゴンが集団で襲ってきたらおそらく勝ち目はない。


【ご安心ください。半径300m以内に大型の熱源は感知されていません】

「わ、我は一族から信頼されておるからな! 誇り高きドラゴンは仲間を頼るなど軟弱な真似はせんのだ!」

【電極を接続した際に取得した記憶情報によると、マルドゥークと名乗るこの個体は全21頭の集団の中で一番最後に生まれ、母親は他の兄弟に構いきりでないがしろにされてきたようです】

「な、なんでそのことを……! あ、いや、違う! 我はないがしろになんかされてないぞ!」

【ちなみに後頭部にある円形脱毛の痕は兄弟からのイジメによるものです】

「わあぁぁぁッ! やめろおぉ~~~ッ!」


 マルドゥークは耳を塞いでうずくまってしまった。

 人間の俺には知るよしもないが、モンスターの社会というのもそう単純なものではないらしい。

 こいつも色々と苦労してきたのかもしれない。


【他者の不幸な点に共感を抱くのは推奨できません。負の循環(スパイラル)に陥りますよ】

「まだなにも言ってないだろ」


 お前だって星から追放されて来たはぐれ機械のくせに。



「コホン、とにかくお前らのせいで我はこのままでは生きていけん。なんとかしろ。今なんとかしろ。すぐなんとかしろ」


 置かれてる立場の割に偉そうだな、このミステイク・ド(失敗竜)ラゴン。


「そもそも俺はお前を討伐しに来たんだが」

【討伐証明に角一本と言わず、生首を剣の先端に刺してギルドまで持参してはいかがでしょうか。後々の箔がつきます】

「ひええ」


 スリサズの脅しを聞き、近くの岩陰に隠れるマルドゥーク。

 このポンコツに限って脅しで言っているわけではなさそうだが。


「するか。どんな箔をつける気だ」


 そもそも人間の、しかも子どもの姿をした生き物をそう気楽に殺れるもんじゃない。それがドラゴンだと分かっていてもだ。 

 しかし、このままでは賞金が貰えるのか怪しくなってきた。

 半分くらい切り込みを入れた角も、竜形態に比べてずいぶん縮んでしまっている。

 これを持って帰ったところでドラゴンの角だと信じてくれるだろうか?


「とりあえず町に戻ってから考えるぞ。ええと……」


 俺は商人が逃げる時に放り出した荷物の中から、何枚かの衣類を見つけた。

 こいつを連れていくには、角やら鱗やらドラゴンの部分を隠す必要がある。


【火事場泥棒の瞬間ですね。SNSに上げておきましょう】

「捨てていった物を拾うだけだろ」


 荷物の中には男用、女用、または男女兼用の様々な服や下着が入っていた。


「ところでお前、オスなのか? メスなのか?」

「女王の雛だと言っておろうが」

【女王の雛という言葉には「将来女王になる雛」の他に、単に「女王から生まれた雛」、という解釈が可能です。その場合はオスでも成立します】

「ま、そういうことだ」


 マルドゥークが本来何歳なのかは知らないが、今の人間体である子どもの姿では、少年か少女か判別できなかった。

 あとはアレとかソレとか、性別を表すものが付いてるかどうかなのだが、都合の悪いことにそういった部分はすべて人外の青い鱗に覆われている。


【ジェンダーフリーと性犯罪防止の観点からその質問に回答することは推奨できません。私の人物データベースによると、ジョンのような人相の男は55%が幼児性愛者で25%が異性に暴力を振るう傾向にあります。残りの20%は同性愛者です】

「そ、そうなのか……?」

「そんなデータは今すぐ消せ」


 性別に関する質問はスリサズがたびたび邪魔をしてくるのでうやむやになり、結局、全身を隠せるフード付きのマントを着せることになった。


「とりあえずこれでいいだろ。行くぞ、おマル」

「んな、なんじゃその変なアダ名は! 高貴なフルネームで呼ばんか!」

【そのニックネームは排泄物を思わせるので好ましくないようです。排泄物を連想しない上品な呼称をSNSで募集してあげましょう】

「説明せんでいいわ! 排泄物連呼するな!」


 かくして俺とスリサズ、そしてマルドゥークことマルのはぐれもの三人旅が始まるのだった。

 人間は俺しかいないのだが。

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