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04 砂漠の集落

 砂漠で出会った少女ニューラに案内され、宇宙船を出てから歩くことおよそ一時間。


「おい、デタラメな方向に案内してるんじゃないだろうな」


 いつまでも変わらない砂ばかりの景色に不安になり、俺はそう尋ねた。


「いや、ジョン。彼女から預かった通信機が受信している信号には確実に近づいているよ」

「こんな状態で今さらそんなことするかよ」


 ニューラは後ろ手に縛られ、犬に着けるリードのようにロープの先をフィノに握られている。

 さらにフィノは空いた手に奪った釘打ち銃(ネイルガン)を持っており、背後から常に銃口を突きつけている。

 子ども相手にここまでする必要があるのか? とも思うが、いきなり襲ってくるような奴だ。やり過ぎということはないだろう。


「本気で撃つつもりはないけど、物のはずみってこともあるから妙な動きはしないように気をつけてね」

「それあたしがマジで強力に改造してるからやめろよ。骨ぐらいなら軽く貫通するから」

「この星の人間はみんなお前みたいに物騒なのか?」


 だとすれば、ニューラの仲間に会いに行くのも少し覚悟しておかなければならない。

 まあそのための人質でもあるのだが。


「着いたぜ。ここがあたしらの(ウチ)だ」


 ニューラが両手を縛られているため顎で促す。


「これは……谷か?」

「まるでクレーターだね」


 そこには四方を砂山に囲まれ、円形に窪んだ土地があった。

 その土地の中心に、黒や灰色の建物が太陽に反射してまばらに光って見える。

 村、というほどの大きさもない小さな集落のようだった。


「鉄クズを組み立てて家を作ってるのか」


 近づくにつれて、集落の様子がより詳しく見えてきた。

 さびてボロボロになった金属の板を貼り合わせたような長屋が、狭い窪地に寄せ集まるように建っている。

 集落の住人だろうか、ニューラと同様に全身を外套で包んだ人の姿もちらほらと見える。

 こちらに気づいた者も何人かいるようだが、とりあえずいきなり攻撃してくるような雰囲気はない。


「見ろ、ジョン。電気まで通っているようだ」


 フィノが指さした先を見ると、集落の中央には鉄塔のようなものが建っており、そこから各家に向かって電線が伸びていた。

 粗大ゴミ置き場のような景観だが見た目よりいい暮らしをしているのかもしれない。


「ニューラよ」


 集落の入口には、一人の老人が待ち構えるように立っていた。

 総白髪の長髪に同じく真っ白な髭をたくわえ、年齢は80を越えているように見える。


「げ、ジジイ……いや、長老」

「さっきの無線はどうした? 送電塔の修理は済んだのか?」

「無線はあたしじゃねえ。これ見りゃ分かんだろ」


 悪態をつきながらニューラは縛られた両手を見せる。


「……ふむ。あなた方は一体?」


 老人は軽く眉をひそめ、俺たちの方に振り向く。

 ニューラとの関係は詳しく分からないが、仲間が縛られている状況を目にしている割には冷静な態度だ。


「私たちは、えーと……そう。宇宙船が故障してこの星に不時着したのです。よかったらここについて教えていただきたいのですが」

「言っておくが先に手を出してきたのはそっちの小娘だからな」


 フィノは努めて友好的に振る舞おうとしているが、ニューラを縛ったロープや釘打ち銃(ネイルガン)を持ったままではかなり絵面が悪いので、俺も一応フォローのつもりで口を挟んでおく。


「ああ、墜落するところはここからでも見えておった。なるほど、ニューラのことじゃ。おそらく部品や積荷を漁りにでも行ったのだろう」

「だって長老。宇宙船が必要だってこの前言ってたじゃんか」

「馬鹿もの。そんなことのために釘打ち機を持たせたのではないぞ。……申し訳ないがこの子は少々血の気が多くてな。どうか放してやっていただきたい」

「どうする? ジョン。悪い人たちではなさそうだけど」


 言われて俺は辺りを見回す。

 外を歩いている他の住民を見ても、こちらを遠巻きに眺めてひそひそと話をしているだけで、武器を携帯している様子もない。ニューラを解放しても危険はなさそうに思える。

 それに、第一目的は宇宙船の燃料を入手することだ。ここで変にゴネて話をこじらせるのは得策ではないだろう。


「そうだな、放してやれ」


 フィノが掴んでいたロープを手放すと、ニューラはよろめきながら長老の元に駆け寄る。


「おい、釘打ち銃(ネイルガン)も返せよ」

「調子に乗るな。これはお前がいなくなってから他の誰かに返す」

「ニューラ、しばらく自宅謹慎じゃ。帰って大人しくしていなさい」

「ちぇっ、覚えてろ! バーカ!」


 捨て台詞を残してニューラは走り去って行った。

 あの様子では反省することはなさそうだ。


「さて、質問があるのだったな。付いてきなさい。ここを案内しよう」





「お前さんたちも見た通り、この星は砂漠に覆われておる。わずかな植物は生えているが、基本的に生命が育つ環境ではない」


 集落の中を歩きながら、長老はゆっくりと話し始めた。


「しかしここには特殊な重力のような力が働いておるようでな。定期的に宇宙から様々な物体が引き寄せられて来おる。宇宙船の残骸や宇宙ゴミ(スペースデブリ)、そして人間もな。この星はまるで漂流物が流れ着く無人島のような所じゃ」

「人間……ってことはあんたたちもここで生まれたわけじゃないのか?」


 俺がそう問いかけると、長老は頷いた。


「ここにいる者はみな、なんらかの理由で流れ着いた者たちじゃ。お前さんたちと同様にな。ワシらは協力し合い、廃材から家を造り、墜落した宇宙船に積まれた水や食料を頼りに生きながらえてきた。中央の鉄塔も、宇宙船のエンジンを解体して発電機に造り変えたものじゃ」

「ご老人、あなたは科学者なのですか?」


 今度はフィノが尋ねる。

 たしかに造るとか造り変えるとか簡単に言っているが、なんの知識もない人間にそんなことができるとは思えない。


「かつて元の星にいた時は、その道の第一人者としてもてはやされたものよ。しかし今はこの通り、自分や仲間の生活を守るだけで精一杯じゃよ」


 長老は感慨深げにそう言うと、鉄塔の近くの物置小屋に入っていった。

 しばらくして小屋から出てくると、その手には小さなバケツが提げられていた。


「ほれ、お前さんたちの目的はこれじゃろう」


 バケツの中には、ほのかに紫色の光を放つ、尖った石の結晶がいくつも入っていた。


「なんだこりゃ?」

「なんじゃ、宇宙船の乗組員のくせに知らんのか?」

「これは……ネブラタイト鉱石だ。宇宙船の燃料になる石だよ」

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