03 おっさんと新機能
「ちくしょう! 離せよクソ野郎!」
襲撃してきた少年は宙吊りになったまま俺たちを罵る。
「大人にそんな口のきき方しちゃあいかんな小僧。ついでに工具を人に向けるのもな」
少年は今、俺に片足を掴まれ逆さに持ち上げられた状態になっている。
なんとか逃れようと手足を振り回しもがいているが、子どもの体格では俺の身体には届かない。
「この釘打ち銃はスクラップから作ったのかな? この星に金属が存在するなら宇宙船の燃料が手に入るのもそう遠くなさそうだね」
「こいつには色々聞きたいことがあるが、どうする? 一旦、宇宙船に連れて帰るか?」
【いえ、その必要はありません】
……なんだ? 空耳か?
【えー、マイクテスト、マイクテスト。ジョン聞こえますか? どうぞ】
「スリサズか? どこから喋ってる?」
宇宙船で待機しているはずのスリサズの声がどこからともなく聞こえてくる。
まるで頭の中に直接響いてくるようだ。
【聞こえているようですね。マル、ちょっとこのマイクに向かって可能な限り大声を出していただけますか】
【これに向かって叫べば良いのか? よーし、スウゥゥゥゥ――――】
「なに? なんでマルの声まで……おい、ちょっとま――」
【わッッッッ――――――――!!】
キィ――――――――――――――――ン……………………!
「ぐおぉぉ……! 頭がぁぁ……!」
マルの叫び声が頭の中で反響し、俺は掴んでいた少年の足を離し、両耳を押さえて悶絶する。
「痛ッ!」
「おっと、動かないでくれよ。子どもは撃ちたくない」
砂の上に落ちた少年はすかさず逃げようとするが、フィノに釘打ち銃を突きつけられて止まる。
【遠隔音声通信のテストです。我慢してください】
「その前に聞こえるか確認してたよな?」
いまだ耳鳴りの治まらない頭を押さえ、俺はボヤきながら立ち上がった。
「お前らは宇宙船の中にいるのか? どうやって喋ってるんだ?」
【あなたが地球で手術を受けた左目の義眼は、最新のサイバネティクス工学に基づいて設計されています。神経系と接続して視力を回復させる以外にも、周波数を合わせることで音声の伝達、及び視界の共有が可能なのです】
スリサズがそう言うと左目の視界が波打つように乱れ、やがて宇宙船の船内が映し出される。
【ジョン、見てるか~? イェーイ】
マルがこっちに向かって手を振っているのが見える。
人がクソ暑い中を探索しているというのに、なにがイェーイだ。
「ったく地球人め、人の体に妙な物を埋め込みやがって」
【そのおかげで私がハッキングすることにより色々と活用することができます。他にもさまざまな機能がありますが、説明を聞きますか?】
「よし、ミュートにする機能を教えろ」
【ありません】
「ふざけんな」
「……あのおっさん誰と話してんだ?」
「さあね」
◆
「で、頭の中にまで話しかけてきてなんの用だ?」
【その襲撃者の年齢から考えて、まだこの星について十分な知識を有していないと思われます。宇宙船に拉致して尋問したとしてもこちらに有用な情報を引き出せる可能性は低いでしょう】
「ガキだから大したことは知らないだろうってことか?」
「なんだよいきなり失礼だな」
少年が不服そうな声をあげる。
どうやら、スリサズとの通信は俺以外には聞こえていないようだ。
「私から見ても分からないが、SSSとなんらかの方法で通信を行っているみたいだね。次の行動について指示をあおいでくれないか?」
「だ、そうだが」
【襲撃者の胸の辺りから位置情報システムの信号を検出しました。おそらく、服の中に仲間と連絡を取るための通信機を所持しています。取り上げて内容を確認し、潜伏先を特定してください】
「ほう、どれどれ。抵抗するなよ小僧」
俺は言われるまま、少年の外套に無造作に手を突っ込む。
「キャッ!?」
少年は突然甲高い悲鳴をあげ、慌てた様子で俺の手を振り払った。
「いいいきなりなにすんだ変態!」
「だから抵抗するなって…………キャァ?」
「なんだジョン、気づいてなかったのか?」
フィノが呆れた様子で歩み寄り、少年が目深にかぶっていたフードをめくり上げる。
「……女か?」
「悪いかよ」
砂埃で薄汚れてはいるが、そこには不機嫌に頬を膨らませる、あどけない少女の顔があった。
【ちなみにあなたがその義眼で見たものは宇宙船のデータベースに動画で保存することもできます。今の猥褻行為はそのままSNSにアップしておきましょう。犯人視点のリアルな証拠映像です】
「やかましい。釘を撃って襲ってくるようなヤツに男も女もあるか」
「まあまあ、身体検査は私がやるから」
「もう、なんなんだよこいつら……」
結局、スリサズの言う通信機はフィノが探り当て、その少年……いや少女から没収した。
「これはまた手作り感の溢れるGPSだね。位置情報のレーダーに光点が一つ……こっちのボタンは無線機かな?」
ピッ――。
『ザ……ザザ……どうしたニューラ? そっちから通信してくるとは、なにかあったのか?』
ボタンを押すと、GPSからしわがれた男の声が聞こえてきた。
声の主はかなり年老いた人物のようだ。
『どうした? 応答しろニュ――』
ピッ――。
フィノはなにも言わず、再びボタンを押し無線を切る。
「叫んで助けを呼ばれたりしても困るからね」
「こっちから会いに行くけどな。ニューラ、案内してもらうぞ」
「ふん、名前が分かったからって気安く呼ぶな変態」




