01 砂漠の惑星
「ぐっ……痛ててて……」
うめきながら身体を起こす。
超光速航法の衝撃で宇宙船が激しく揺れ、固定されていない俺の身体は上下左右、船体のあちこちに叩きつけられた。
いっそ気絶していた方がいくらかマシだっただろう。
「お~い、大丈夫か? 30回ぐらいガンガンとぶつかる音がしておったが」
「打ちどころが悪かったら死んでたかもしれないけど、ちゃんと受け身をとっているあたりは流石ジョン・ドウといったところかな」
船の中のコンテナの一つから、マルとフィノが顔だけを出して俺に声をかける。
コンテナの中には積荷を守るための緩衝材が入っていたため、それで宇宙船の衝撃から身を守ったようだ。
「お前ら自分だけ避難しやがって……」
【それよりもみなさん、現在の状況を確認してください。我々は今、とある惑星に不時着しました】
スリサズの声と共に、正面のモニターに外の様子が映し出される。
「……砂漠か?」
「まさに不毛の大地だね」
モニターに映ったものは延々と広がる砂漠だった。
見渡す限りの黄色い砂の山が滑らかな曲線を描き、水の青や草木の緑は一切見えない。
さらに砂嵐がそこら中で渦を巻き、遠方の様子を隠している。
【幸い、この銀河における恒星から太陽光に似た光を受けているためか、大気の成分は地球に近いようです。防護服がなくても外に出て活動は可能ですが、気温は50℃以上です】
「ここはそんなに暑くないが?」
マルが疑問を口にする。
たしかにこの宇宙船内は涼しい、というよりも温度の変化や風の動きといったものがなにも感じられなかった。
【空調を効かせていますので船内は快適な温度に保たれています。しかし宇宙船の動力が停止すれば空調も止まり、自動車に置き去りにされた赤ん坊のように衰弱して死に至るでしょう】
「そうなる前にこの星を脱出できないのか?」
【超光速航法には専用の燃料が必要ですが、先ほどリトルグレイから逃げる際に使用した一回で切れてしまいました。もう一度ワープを行うにはこの惑星で燃料を調達しなくてはなりません】
「……といってもこんな星じゃあねえ」
フィノが外を見ながらボヤく。
彼女の言う通り、宇宙船の外は一面が砂で覆いつくされ、燃料どころか水の一滴も見つかるかどうかといった様子だ。
「フィノ、お前の仲間に救助を頼むことはできないか?」
「さっきから通信を試みてはいるけど望みは薄いな。この星は地球からずいぶん離れた銀河系にあるようだし、宇宙管理局は基本放任主義だからね。それに新人の通信手がふざけたヤツで、たびたびサボって通信を無視するんだ。あいつがやらかさなきゃ私はそもそも君たちの星に取り残されたりしてないし、君たちに付き合ってこんな砂漠の星に流れ着いたりしてないよ」
「わかったわかった。やはり自力でなんとかするしかないようだな」
俺はそう言って、後半は愚痴混じりになってきたフィノの不機嫌な声を止める。
どうも宇宙管理局とやらもまともな組織ではなさそうだ。
【この宇宙船には精製装置が配備されています。燃料そのものが見つからなくても鉱物や植物などから必要な物質を抽出し、燃料を製造することが可能です】
「よし、まずは外に出てそれを探しに行くぞ」
【それではハッチを開放します】
ウィーン……ゴォッ――。
宇宙船の入口がゆっくりと開くと、隙間から強烈な熱風が入り込んできた。
「……じゃ、我はここで待っておるから頼んだぞお前ら」
「おい、いきなり怖気づくな」
「嫌じゃ~、あんなところに出たら干からびて死んでしまう~」
外の暑さを体感した途端、マルが宇宙船の柱にしがみついて駄々をこね出す。
「爬虫類だから熱や乾燥に弱いのかな」
「ドラゴンのくせに貧弱だな、おい」
【しかし、たしかに全員で外に出るのは効率的ではありません。私は宇宙船の制御機能をハッキングしているため、離れると機能が停止してしまいますし、この惑星に未知の外敵が潜んでいて宇宙船やコンテナの物資が狙われる可能性も否定できません。周囲の探索にはジョンとフィノに行っていただき、マルは船内で待機することにしましょう】
「こいつで船を守れるのか?」
「なんだと失礼な」
捕まってる時に電力を奪われたのか、今のマルは人間形態になっている。
電気ショックが使えるぐらいの力は残っているかもしれないが、戦力になるかは微妙なところだ。
【ご心配なく。いざという時には最後の手段として宇宙船の電力を注入して強制的にドラゴン形態に戻します】
スリサズが言うと、どこからともなく機械のアームが降りてくる。
先端は針のように尖っており、なにやらバチバチと火花を放っていた。
外敵がいるとしてもそのアームで撃退すればいいんじゃないのか? と一瞬思ったが、マルを無理やり連れ出して道中で倒れられても迷惑だ。
「まあいい。じゃあ外には俺とフィノで行くぞ」
「宇宙船の燃料のことなら私にも知識がある。それらしいものが見つかったら教えるよ」
こうして元の星に帰るための俺の冒険が再び始まるのだった。




