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50 魔王の謎

「ハァ……ハァ……。くそ……アダム……!」


 銃で受けた傷は熱を帯び、全身に広がる。

 撃たれた足だけでなく、身体中が熱病におかされたように力が入らなくなっていた。


「無理をするな。アキレス腱を撃った。貴様の片足はもう動くことはない。フフフ……まあこの星にアキレスはいないだろうがな」


 起き上がろうともがく俺を、アダムは嘲るように笑みを浮かべて見下ろす。


「さて、貴様はたしか、ジョンと呼ばれていたな。地球では実にありふれた名前だが、それが転じて名前の分からない者、例えば身元不明の死体などが発見された場合などには一時的にジョン・ドウ(John Doe)と呼ぶことがある」


 いきなりなにを言い出すのか、アダムが奇妙な話を始める。


「……それがどうした。お前の世界のことなんか興味ない――」


 パァンッ!

 銃の破裂音と共に、俺の右手の二の腕に穴が空いた。


「ぐあッ!!」


 俺は持っていた高周波ブレードを手から落とし、アダムがそれを部屋の隅に蹴飛ばす。

 武器を失い足も動かず、文字通り手も足も出なくなってしまった。


「貴様もこれからそうなるという意味だよジョン・ドウ。SSS(スリサズ)の力を借りていたとはいえ、未開の異星人ごときに追い詰められたという事実は私にとって非常に屈辱的なことでな。貴様にはこの星を代表して私の気が晴れるまで苦痛を受けてもらう」

「……けっ、地球の人間ってのはみんなお前みたいに悪趣味なのか?――うぐッ!」


 せめて口だけでも動かそうと悪態をつく俺の腹にアダムの蹴りが入る。


「ジョン・ドウ、この期に及んで挑発的な態度は賢くないぞ。焦らずとも気が済めばすぐに殺してやる。死んだ方がマシなほど苦痛と絶望を与えた後になるだろうがね」

「このクソ野郎……があッ!」


 撃たれた腕を踏みにじられ、苦悶の声をあげる。

 アダムはとことん俺をいたぶるつもりのようだ。


「貴様を殺し外の連中も殲滅すれば、我が軍を止められるものはもはや存在しない。この星を隅々まで侵略し、すべてを我が物としてくれる」

「……お前は本物の魔王じゃないんだろう。なぜこんな真似をする? 世界の支配者にでもなりたいのか?」

「支配だと? こんな小惑星を支配したところで私にとって大した意味は無い。私の目的にはまだまだ先がある」

「先……だと?」

「いいだろう。原始人とはいえ私は貴様を優れた兵士であると評価もしている。死ぬ前に知っておく程度の権利はあるだろう」


 アダムは俺の腕を踏みつけたまま、語り始めた。


「私は地球では誰よりも優秀な軍人だった。スリサズの追放に協力したのも、その後の世界でさらなる権力を得られる確信があったからだ。圧政に耐えかねて暴発した負け犬共とは違う」

「できれば要点だけ教えてほしいんだがな……ぐっ」


 俺は息も絶え絶えになりながら精一杯言葉を返すが、アダムは気に障ったのか踏みつけている足に力を込める。


「亜空間転送装置が暴走したあの日、私には脱出可能な時間が十分あった。だが何者かが実験施設に鍵をかけ、私は閉じ込められてしまったのだ。誰がやったのかは分かっている。スリサズ打倒のビジョンが現実的になってきた頃、AIの支配が無くなった地球では誰がどのように権力を握るのか? という争いがすでに始まっていたからな。私を邪魔に思う勢力はいくらでもいただろう」


 つまり、アダムも事故でこの世界に飛ばされたわけではなく、スリサズと同じように追放されて来たということか。

 当時の記憶が蘇っているのか、アダムの口調には憎しみがこもっていた。


「この場所に転送された時、私は死にかけていた。水や食料を探さねばならなかったが、外はファンタジーの化け物で溢れ、私は同じく転送されてきたこの軍事基地から一歩も出ることができなかった。しかし限界だった私は意を決して基地に隣接した古い塔に入ることにしたのだ」

「……それが魔王の塔か」

「装置が暴走していたせいもあったのだろう。軍事基地がまるごと転送された衝撃で、周囲は地形が変わるほど破壊されていた。塔もその余波を受け、今にも崩れそうになっていた。だから化け物がいたとしてもすでに逃げ出していると思ったのだ。予想した通り中には誰もおらず、私はなんの危険もなく塔を捜索することができたよ。食料は見つからなかったがな」

「それならどうやって生き延びた?」

「塔の最上階にさしかかった時、私は一匹の化け物の死体を見つけた。おそらく逃げ遅れたのだろう、瓦礫に押し潰され、尖った石が心臓の辺りを貫き、青い血を流していた。今思えばそいつはずいぶんと豪華な衣装を着ていたな」

「まさかそれが……」

「貴様らが呼んでいる魔王、ということだろうな。フフ、建物の倒壊で死ぬ魔王というのもマヌケな話だが、神話や物語で大げさに語られる者ほど得てしてその正体はくだらないものだ」


 アダムは機嫌よく、饒舌にその時の様子を語る。

 勝利の余裕からかひどく無防備に見えたが、身体の自由を奪われた今の俺にはなにもできない。


「さて、水と食料を探しに塔に入ったのに何も見つからない。目の前にはよく分からん化け物の死体が一つ。ジョン・ドウ、貴様ならどうするかね?」

「俺なら……?」


 いきなり話を振られ、反射的に素直に考えてしまう。

 水や食料のない場所、目の前に死体が一つ。

 俺でなくとも、人間や動物ならとにかく生き延びようとするだろう。

 ……そう、たとえ死体を食らってでも。


「……お前、まさか!?」

「そう、その死体を食ったのだよ。肉を食らい、体液を飲んだ。さすがに生ではなく、基地に持ち帰って焼いたり、血をろ過したりはしてみたがね。美味いとはとても言えなかったが、なんというか癖になる味ではあったぞ」


 本物の魔王がすでにアダムに殺されているという可能性は考えていたが、まさか食われているとは……。

 だからあの塔にもどこにも姿が見えなかったのか。


「死体の肉は私の空腹を満たすだけではなかった。外にうごめいていた化け物の群れが私に服従し始めたのだ。蜂やアリなどのようなフェロモンを発しているのか、それとも本当に魔法的な力が作用しているのかは分からんが、とにかく死体を食ったことで私にその能力が移ったのだと理解した」

「モンスターに銃を持たせて軍隊にしたのもそれが理由か……!」

「この軍事基地はスリサズに対抗するための兵器工場も兼ねている。放っておいてもあと10年は製造ラインが稼働し続け、銃火器を自動的に供給してくれるのだよ。問題はその武器を扱える兵士の数だけだったが、化け物共のおかげでそれは解消された。本当に偶然の連続だったが、私はこの遠い星で無限の兵力を手にすることができたのだ」

「だから魔王になりきってこの世界を支配しようってのか……?」

「言ったはずだジョン・ドウ。それは私の最終目的ではない」


 アダムは俺の腕から足を外すと、机の上の機械を操作し始める。

 すると、白い壁になにやら映像が浮かび出した。

 どこか別の部屋の様子らしいが、中央に天井まで届きそうなバカでかい機械が置いてある。


「これが亜空間転送装置だ。この星に転送されてきた時点で壊れてしまったのだが、テストと再調整を重ね再び使用できる段階まで修理が完了している」

「テストだと?」


 俺は魔大陸に来るまでの町でマシンガンを持ったゴーレムと戦ったことを思い出した。

 あの時、町の人間はゴーレムが瞬間移動するように突然現れたと言い、スリサズはそれを亜空間転送装置によるものだと言っていた。


「惑星内の短距離転送により、モンスターを各地にけしかけ、物資を略奪して帰還させる。フフフ、試験と実益を兼ねた効率的なプランだと思わんかね?」

「その装置で地球に帰ろうって腹か……モンスターの軍隊を手土産にして……」

「手土産になどするものか。この星は小規模とはいえ、地球に近い大気を持ち、資源もほぼ同じものが採れる。人口が飽和し、資源が枯渇した地球にとっては相当な価値があるだろう。だが私はみすみすそれを分け与えてやるような真似はしない。この星で得た軍事力と資源を用いて地球へ侵攻し、今の権力者たち、私を追放した奴らに思い知らせてやる! 真に地球の支配者になるべき者が誰かということを!」


 復讐――その二文字が俺の頭をよぎった。

 長々と演説しているが、要するにアダムの目的は追放した者たちへの復讐だ。

 俺たちの世界はアダムの恨みを晴らすためだけの道具にされようとしている。


「フフフ、さてジョン・ドウ。私がここまで長話をしたのにはもう一つ理由がある。これを見たまえ」


 アダムは再び机の上の機械を操作すると、壁の映像がまた別の場所を映し出す。

 それは建物の外、魔大陸のどこかを映しているようだった。


「我が軍の戦闘ヘリにはカメラが付いていてな。ここでモニターできるようになっているのだよ」

「あれは……リュート!?」


 映像の場所は、先ほどまで俺がいた戦場だった。

 しかし俺がいた時とは違い、討伐軍の兵士たちはモンスターの大軍勢に包囲されている。

 基地に潜入する前に見た増援部隊だ。

 兵士やドラゴンの死体はさらに増え、生き残っている者も、傷と疲労で今にも倒れそうになっていた。

 リュートやエレトリア、他の仲間たちもかろうじて戦いを続けているが、全滅は時間の問題だった。


「ふーむ、やはりまだ死んではいないか。仲間の死体を見せてやりたかったのだが、そのためにはもう少し演説を続けるべきだったか。なあジョン・ドウ?」

「や、やめろ……!」

「フハハハ! いい反応だぞジョン・ドウ。そうやって憎悪や絶望の顔を見せてくれなければ拷問のしがいがない」


 青ざめる俺を見て、ニヤニヤと嘲笑しながらアダムは言う。


「アダムッ!!」

「む?」


 俺は弾かれたように起き上がり、武器が無いことにもかまわずアダムに殴りかかる。


「ほう」


 しかし、振り上げた拳はあっけなくアダムの片手に受け止められた。

 そのまま引き倒され、またも地面に這いつくばらされる。


「く……そ……ッ!」

「怒りで思わず身体が動いたか……だが今のパンチ、まるで力が入っていなかったぞ。フフフ、貴様の身体能力にはずいぶん手こずらされたものだが、もはや限界のようだな」


 奴の言う通り、無理に身体を動かしたせいで撃たれた足だけでなく、失った左目やその他の傷口も開き、まとわりつくような発熱はさらに悪化していた。


「まあ、そろそろ遊びは終わりにするとしようか。拷問途中で死なれるのが最もくだらん結末だからな」


 アダムはそう言うと、手に持っていた銃の弾倉を外し、俺に見せつけるように一発だけ弾を込める。


「思えば私が狙撃に失敗したことが貴様との因縁の始まりだった。ならば、その残った右目ごと頭を撃ち抜いてやるのが我々にふさわしい幕切れだと思わんかね?」


 笑いながら銃口を俺の右目に合わせる。

 しかし、負傷して体の自由が利かない今の俺にはそれを阻止することはできない。


「ククク……さらばだ。ジョン・ドウ」


 目を見開いた俺の前で、アダムの指がゆっくりと引き金を引く様が見えた。







 カチッ――。

 だが弾は発射されず、空撃ちの乾いた音が部屋に響いた。


「…………なに?」


 カチッ――カチッ――。

 何度も引き金を引くが、弾は出てこない。


「馬鹿な! 不発弾などあり得ない!」


 アダムは持っていた銃を投げ捨て、さらに別の銃に持ち替え引き金を引く。

 カチッ――。

 しかし、同じように虚しく空撃ちの音が響くだけだった。


「ど、どういうことだ……?」


 ここに来てから今までずっと余裕の態度をとり続けていたアダムが、初めて狼狽の表情を見せた。


「どうしたアダム。俺を殺すんじゃないのか?」

「ジョン・ドウ! 貴様、何をした!?」

「さあな。原始人の俺にお前らの機械をどうこうできるわけないだろ?」


 ザザザザ――――。

 俺がそう言うと、戦場を映していた壁の映像が乱れ始める。


「だから、それは()()()に聞いてくれ」


 しばらく砂嵐のような映像が続いたあと、また別の場所が映し出された。


「……リンゴ?」


 映ったのは、皿の上に置かれた真っ赤なリンゴが一つ。

 今までに出てきた映像とはあまりにも雰囲気が違っている。

 だが、俺にはこれが何を意味するのか分かった。

 ……あの馬鹿、こっちは死にかけてるってのに何やってやがる。


【おや、カメラはこちらでしたか】


 聞き慣れた声と共にリンゴがひとりでに回転すると、四本足で張り付いている鉄の虫が姿を現した。


「SSS……だと――ッ!?」

【兵器製造ラインのハッキングが完了しました。今後、基地内にある全ての兵器のID登録情報は私の管理下に置かれます。すでに使用中の兵器であっても私の許可なく発砲することはできません】

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