49 アダムの罠
金属の壁に囲まれた無機質な廊下をさらに進んでいくと、つき当たりに一つの扉を見つけた。
中央に付いた大きめのハンドルは固く閉められており、金庫のように扉の向こう側を厳重に守っている。
「むっ……ぐぐ」
ゴゴゴ……ガゴン。
俺は重いハンドルを力いっぱい回すと、扉はゆっくりと開いた。
鍵が掛かっているわけではなかったようだ。
「これは……?」
細長い廊下とはうって変わって、中は高い天井のある広間になっていた。
壁沿いに均等に並んだ棚には、俺が今までに苦しめられた数々の銃器が所狭しと立て掛けられている。
マシンガン、ショットガン、スナイパーライフル……その他、見たことのない武器も数多く並んでいた。
「おいスリサズ、なんだここは?」
【――】
「……と、今は喋れないんだったな」
聞かなくとも大体想像はつく。ここは敵の武器庫だ。
アダムはここの銃器をモンスター共に持たせて戦わせていたのだろう。
これも地球の技術、というよりは地球からそのまま持ってきた、と言う方が正確だろうか。
地球ではないこの世界で、0からこんな基地や数々の銃を作り上げることは不可能だ。
奴はこの基地ごと転移してきたからこそモンスターに武器を支給し、規格外の軍隊を生み出すことができたのだろう。
俺は試しに手近にあった銃を掴み、壁に向かって引き金を引いてみる。
カチッ――。
弾は込められているようだが発射されず、引き金が乾いた音を返すのみだった。
おそらくスリサズが言っていたID登録というものだろう。
どういう仕組みなのかは知らないが、アダムや配下のモンスターでなければ使うことはできない。
『地球の銃火器がそんなに珍しいかね?』
銃を調べていると、突然、頭上から男の声が響いた。
『やはり追ってきたのは貴様だったな。SSSの所持者よ』
「アダム……!」
俺は身構えて声のした方を見るが、奴の姿は見えない。
どうやら声は天井に付けられた機械から聞こえてくるようだ。
「お前の方から声をかけてくるとはな。どこかに隠れて震えてるかと思ったぜ」
『この私が原始人一人に恐れをなすとでも思ったかね? 珍しい物を見る度に足を止められてはこちらも待ちくたびれてしまうのだよ』
アダムの言葉を裏付けるように、機械から響く声は尊大で自信に溢れていた。
「それなら姿を見せたらどうだ。臆病者め、ドラゴンを見て逃げた奴が強がるなよ」
『私に会いたければ貴様がここに来るがいい。この武器庫の端にもう一つドアがあるだろう。私はその中にいる』
周囲を見回すと、広い倉庫の隅にさらに一つ、小さな扉が見えた。
ドアの上に付いた標識には「OFFICER ROOM」と書かれている。
俺は部屋の前に立ち、注意深くゆっくりとドアに近づく。
なにせ、アダムが自分から案内して俺を誘い込んでいるのだ。
罠の可能性は高い、というより確実に罠だろう。
『どうした、早く入って来たまえ。私は逃げも隠れもしないぞ。フフフ、はたして臆病者はどちらかな?』
「……」
俺は部屋の前に立ったまま、黙ってアダムの挑発に耳を傾ける。
中に入らないわけにはいかないが、奴の声から少しでも罠のヒントが得られればと思ってのことだ。
『貴様は私がなにか企んでいるのだろうと警戒しているのだろうが、のんびりしているとお仲間が危険なのではないかな? 私を追ってきたのなら、我が軍の増援部隊が基地を出ていくところも見ているはずだぞ』
「……チッ」
バンッ!
意を決して勢いよく扉を開ける。
「ようこそ、ここが真の魔王の間だ。……とでも言っておこうか。フッフッフ」
中に入った俺を待ち受けていたのは、小さな机を挟んで椅子に座り、片手に収まる大きさの銃をこちらに向けているアダムだった。
部屋の中には他に武器らしいものはなく、モンスターが潜んでいる気配もない。
罠といえば罠かもしれないが、なんのことはない。アダムがただ一人で待ち伏せているだけだった。
「……確かに警戒するほどじゃなかったな。そんな小さな銃で俺を止められると思ってるのか?」
「ならばかかってくるといい」
アダムはこちらに銃を向けながら、さらに俺を挑発する。
おかしい。
この程度の罠だとしたら、なぜここまで余裕を見せていられる?
アダムは俺たちの実力を戦場で思い知っているはずだ。
あの時は戦闘ヘリや機関砲など、さらに強力な兵器を持っていたにも関わらず、俺たちに追い詰められていた。
しかし今、奴が持っている銃は片手に納まるほどの小さな物だ。
とても戦場で見せた兵器より威力があるとは思えない。
そもそも手前の武器庫にいくらでも強力な銃があるのに、なぜそんな物を選んだのか?
今までの経験から考えても、アダムは正々堂々と戦うような男ではない。
間違いなくなにかを企んでいる。
「まだ躊躇しているのか? あれだけ我が軍の兵器をかいくぐってきた貴様が一丁の拳銃を恐れて手を出せないでいる。面白いと思わないかね?」
「言ってろ」
挑発に乗って、先に仕掛けるのは危険だ。
アダムも一発で仕留めなければやられるということは理解しているだろう。
狙ってくるとしたら頭か心臓。
奴の射撃の方が素早かったとしても、片腕で急所をガードすれば次の発射までに隙ができる。
その隙を突いて接近し、逆に首を斬り落としてやる。
そう作戦を決めたところで、俺はゆっくりと手に持った高周波ブレードを構えた。
お互いにらみ合ったまま、数秒の時が過ぎる。
「かかってこないのなら――ここで死ね」
狙い通りアダムはしびれを切らし、銃を持つ手に力を込める。
俺はすかさず床を蹴り、アダムに斬りかかった。
パンッ――。
小さな破裂音が背後から聞こえてきた。
「な……――!」
同時に右足に鋭い痛みを感じ、俺は立っていられずに床に倒れ込む。
足には小さな穴が空き、血がとめどなく流れ出していた。
「うぐっ……!」
「フ……フフフ……フフフハハハハハ!!」
目の前のアダムが高笑いすると、その姿が幽霊のように掻き消えていく。
一体なにが起きている?
「ククク――。こんなくだらん仕掛けに騙されるとは、笑いをこらえるのに苦労したぞ」
倒れた俺の背後、入ってきたドアの方から足音と共にアダムの声が聞こえる。
俺は倒れたまま振り向こうとするが、撃たれた足に力が入らない。
「原始人の貴様に理解できるかは分からんが、今のは私を投影した立体映像、まあ幻覚のようなものだ。貴様は今まで幻の私とにらみ合っていたのだよ」
「なんだと……」
こいつ、逃げも隠れもしないと言っておきながら……。
もちろんそんなことを信じていたわけではないが、未知の技術が相手ではいくら警戒しても見破ることはできない。
スリサズの機能を封じたのも、この罠を看破されないためだったのか。
「ヘリを奪って追跡してきたと気付いた時から、貴様はここでなぶり殺しにすると決めていた。即死させることもできたが、足を撃って動けなくしたのはそのためだ。フフ、なるべく長く楽しませてもらいたいものだな」




