42 おっさんと高周波ブレード
「シャァッ!」
スケルトン・ウォーロードが振りかぶると四本の腕が鞭のようにしなり、それぞれに持った長剣から同時に斬撃が繰り出される。
通常、スケルトンの身体の構造は人間一人分の骨格そのものと考えればいい。
しかしウォーロードは何人分もの骨が組み合わさり、一匹の巨大なモンスターの姿を成している。
そのため関節の数も通常の動物より多く、人間には不可能な腕の曲げ方でより多彩な角度からの攻撃を可能としているのだ。
だが俺もウォーロードと闘ったことがないわけではない。
「甘い!」
キキィンッ!
俺は上下左右から飛んでくる斬撃を一本の剣でまとめて叩き落とす。
そして剣を弾かれガラ空きになったウォーロードの足元にスライディングするように突進し、滑り抜ける瞬間に両脚を斬りつける。
ベキィッ!
という骨がへし折れる音と共にウォーロードが膝をついた。
俺が持っている剣では骨を切断することまではできないが、叩き折るぐらいなら十分に可能だ。
「グガッ!」
ウォーロードはバランスを崩しながらも関節を異常な角度に曲げ、背後の俺に再度斬りかかる。
スライディングしたまま身を捩じって剣をかわし、俺はなんとか間合いの外に出た。
俺は起き上がり再び奴の方向に振り向くと、剣の一本を杖にして立ち上がるウォーロードの姿が見える。
足の骨も人間より多い分、一本ぐらい折れても動きが鈍ることはないようだ。
【戦闘支援が必要ですか?】
「必要じゃない、終わるまで黙ってろ」
スリサズの世界の兵器が相手ならいざ知らず、上級種とはいえ普通のモンスターを相手するのに助言は必要ない。
それに、奴の剣はもう見切った。
さっきと同じように足元への攻撃を繰り返し、さらに何本も折ってやればいずれ立っていられなくなるだろう。
「シャアァッ!」
先ほどと同様、ウォーロードは四本の腕を振りかぶりながら突進してくる。
「無駄だ!」
俺は再び斬撃を弾こうと剣を構える。
ブゥゥン……――。
「う!?」
飛んでくるウォーロードの剣先から微かに妙な音が聞こえ、嫌な予感を覚えた俺はとっさに半歩身を引いた。
キンッ――ガラン……――。
斬撃の一つを受け止めた俺の剣が根元から折れ――というよりも大した抵抗もなく切断されて――刃の部分だけが地面に落ちた。
「これは一体……うおぉッ!?」
残りの腕から繰り出される攻撃を転がりながら回避し、俺はウォーロードの間合いの外に出る。
一瞬、何が起こったのか分からず呆然としていたため、避けきれなかった剣先が俺の頬をかすめた。
「おいスリサズ! なんだ今のは!?」
【おや、先ほど助言は必要ないとか黙ってろとか聞いた気がしましたが。録音を再生してみましょうか】
「分かった分かった俺が悪かった。いいからさっさと教えろ」
【あれは地球の技術で高周波ブレードと呼ばれる兵器です。刃を超高速で振動させることにより、その摩擦で触れた部分の分子結合を弱めることで、通常の刀剣を遥かに超える切断力を持ちます。おそらく、この惑星上では切れない物体は存在しないでしょう。最初の攻撃を受け止められたのは、敵がまだ起動スイッチを入れていなかったためです】
相変わらずよく分からん説明だが、普通の剣では歯が立たないということか。
せっかく久しぶりに普通の魔物と闘えると思っていたが、そう甘くはないらしい。
それに、今の攻撃で俺は武器を完全に失い、形勢は一気に不利になった。
いくら剣筋を見切ったとはいえ、素手ではウォーロードの変則的な剣の振りを捌ききる自信はない。
まったく地球とかいう所はなんでこう意地の悪い物ばかり作っていやがるのか。
「ウシャァ――ッ!!」
丸腰の俺に考える暇を与えず、再びウォーロードが襲いかかる。
リュートや他の仲間たちは爆弾を抱えたヘルハウンドで手一杯で、助けは期待できない。
なんとか逃げ回りながらその辺落ちてる武器を探すしかないか。
しかし、受けることができないのでは武器があったとしても意味はないのかもしれない。
そう後々のことを考えながら攻撃をかわそうと身構えた時だった。
「うおおおぉぉぉッ!!」
ドガッ!!
後方からウォーロードの背骨を突き破り、一本の槍の穂先が顔を出した。
正確には槍ではなく、中心に槍のような棘の付いたスパイクシールドだった。
何者かが盾ごと背後から体当たりしたのだ。
「グガァッ!」
不意を突かれたウォーロードは骨の破片をまき散らしながら派手に転倒する。
激突した衝撃で腕が一本折れ、俺の正面に転がった。
「戦士様! ご無事ですか!?」
聞き覚えのある声が俺に呼びかけるが、身長をすっぽりと覆い隠す大盾のせいで姿は見えない。
「ああ、助かったが……誰だ?」
「あ! これは失礼しました!」
気合の入った声で謝罪した後、声の主は大盾を横にずらすと、中から鎧姿の若く小柄な戦士が姿をあらわした。
怪我をしているのか体のあちこちに包帯を巻いている。
その姿に、俺は見覚えがあった。
「お前は確か地下洞窟にいた……」
「カナベルです! あの時はありがとうございました!」
そうだ、確かそんな名前だった。
負傷した体を引きずりながら俺にリュートの危機を伝えに来た若者だ。
「体の方はもう大丈夫なのか?」
「はい! 僕一人だけ休んではいられませんので!」
洞窟での消え入りそうな声と違い、若い戦士は辺りにも響くような快活な声量で俺に返事をする。
おそらくソフィーに回復してもらったのだろうが、こんなに早く戦線に復帰するとはいい根性だ。
俺の後任にリュートが選んだだけのことはある。
ヒュン――ッ!
ウォーロードが倒れたまま剣を振るうと、カナベルの持っていた大盾が瞬時に両断された。
あれが高周波ブレードの威力か。
「うわぁ!」
カナベルに刃は当たらなかったが、盾がいきなり真っ二つになったことで驚き、尻餅をつく。
ウォーロードはそのまま骨を軋ませながらゆっくりと立ち上がった。
スパイクシールドの激突で腹に穴が空き、全身の骨にもヒビが入っているが、動けなくなるほどのダメージではないようだ。
「野郎、やはりまだ生きてたか」
ウォーロードの持つ高周波ブレードの前では、並の剣や盾では意味がないらしい。
しかし今、奴の折れた腕が俺の目の前に転がっている。
その手には例のブレードが握られたままだ。
「よし、後は俺に任せろ」
【ID変更はすでに完了しています】
俺は骨の手からブレードを引き剥がし、軽く素振りしてみた。
スリサズの説明は理解できなかったが、要は何でも切れるすごい剣。
早速試させてもらおうか。
「これで条件は対等だな。骨野郎」
「ウガァッ!!」
残った三本の腕でなおも斬りかかるウォーロード。
だが、この剣の切れ味ならわざわざ攻撃を受け流す必要もない。
「ハァッ!」
俺は剣を握っているウォーロードの手首を狙って刃を疾らせる。
食い込んだ刃はほとんど手応えを返さず、分厚い骨の層をあっさりと斬り飛ばした。
「ギャヤアァァ――ッ!」
スケルトンにも痛覚があるのか、それとも三本の腕を一瞬で失ったショックからか知らないが、ウォーロードは悲鳴のような叫び声を上げる。
さらに畳みかけるように頭蓋骨から背骨にかけて一気に身体を両断すると、ウォーロードはついに動かなくなった。
「まったく骨の折れる奴だったぜ」
【――】
「ジョークじゃないからな」
【まだ何も言っていませんが】




