40 総力戦①
「援軍だと? フン! 原始人が寄せ集まったところで何ができる! まとめて射殺せよ!!」
地震が収まり、立ち上がったアダムが号令をかけると、態勢を立て直したモンスターの軍団は討伐軍に向けて銃を構える。
「銃撃が来るぞ! 大盾部隊、前へ!」
すかさずフィノが馬を走らせながら指示を飛ばし後方に避難する。
それと入れ替わるように、人間一人をすっぽりと覆い隠すような巨大な盾を持った兵士たちが一列に並び、先頭に壁を作った。
ズガガガガッ――――!!
モンスターが撃ち出した銃弾は大盾に弾かれ、金属のぶつかる音が戦場に響き渡った。
フィノの軍勢は盾を構えたまま前進し、その後方から弓兵や魔道士の攻撃がモンスターを射抜く。
さらに十分な距離に接近すると、盾の隙間から剣や槍を持った兵士が突撃し、敵の隊列をかき回した。
「ぬうう、小賢しい真似を……」
モンスターの軍勢は徐々に押され始め、後方で指示を出していたアダムにも狼狽の色が見える。
「待たせたな、戦士殿!」
「勇者様! ご無事ですか!?」
討伐軍に気を取られて包囲から逃れた俺たちの所にフィノが駆けつけた。
エレトリアとソフィーも一緒だ。
「僕は大丈夫だ! それよりもジョンの治療を!」
「やっぱりおっさんじゃない。なんでこんなとこに……ってうわ、目無いじゃん」
「うるせえな」
「どうやら間一髪だったようだな。よし、まずは安全な所に移動しよう」
俺たちはフィノに連れられ、戦っている隊列の最後尾に移動する。
「“ヒール・ブライト”――」
ソフィーが手をかざすと俺の撃たれた傷口が光に包まれ、徐々に痛みが引いていく。
「また世話になったな」
「……ありがとうございます。勇者様を助けていただいて」
光が消えると傷は塞がり出血も止まっていた。
しかし、吹き飛ばされた左目の部分は空洞のままだ。
ソフィーの治癒魔法は傷を塞ぐことはできるが、流れ出た血を元に戻したり失われた部位を修復することは出来ない。
「傷は治療できましたがその左目は……すみません」
「俺が勝手にやったことだ。たかが目玉の2個や3個でお前やリュートが気に病むことはない」
「おっさん目玉3個あるの?」
「ない。お前は少しは気にしろ」
【普段言わない人がジョークを言ってもすぐには気づかれないものです】
空気の読めないエレトリアが口を挟んでくる。
しばらく会ってなかったがみんな特に変わっていないようだ。
成長してないとも言えるか。
「フィノ総指揮官! 敵が後退していきます!」
「うむ、あまり深追いするなよ。戦力ではまだこちらが不利だからな」
「……総指揮官? 知らない内にずいぶん出世したもんだな」
よく見ると、フィノの服装や羽織っているマントは以前にも増して豪華になっており、胸の勲章も倍以上に増えている。
「ここに救援に来る前に他の部隊の生き残りと合流したのだが、どこも隊長が死んでいるか、生きていても指揮をとれる状態ではなくてね。私が引き受けるしかなかったのだよ。出世するのはいいが、いきなり全軍の命運を握らされるのも辛いところだ。このマントの手触りは気に入ってるけどね」
言いながらフィノはこれ見よがしに複雑な刺繍の入ったマントをバサッとはためかせる。
相変わらず何を考えているのかよく分からん女だ。
「さて、あなたや勇者様を助けられたのはいいが、状況は依然として良くない。我々は壊滅状態だった各部隊をかき集めてなんとか数を揃えたに過ぎないからね。魔王側に援軍を送られれば、戦況は再び逆転されるだろう」
急に真面目な顔つきに戻ったフィノは、指揮官らしく現在の状況を俺に説明する。
「何か考えがあるのか?」
「考えと言えるかどうか、というレベルの作戦だが。退路を断たれている以上、我々も捨て身になるしかない。さらに敵の増援が来る前にここで魔王を叩く。奴が前線に出てきている今が好機だ」
「ずいぶん乱暴な話だな。魔王を倒したところで集まってきたモンスターになぶり殺されるんじゃないか?」
「いや、魔王を倒せばモンスターも力を失うはずだ」
俺たちが話しているところに、リュートが割って入った。
「旅に出る前に王様から聞いたことがある。魔大陸のモンスターは魔王の瘴気で理性を失い、魔王の命令を聞くだけの人形のようになっていると。だから魔王さえ倒せばモンスターが残っていようと世界は平和になるとも聞いた」
「リュート。あいつはそもそも魔王じゃない。アダムっていうただの人間なんだぞ。お前も聞いてただろう」
【魔王という生物が、アリや蜂のコミュニティのように何らかのフェロモンを分泌してモンスターを本能的に従わせるような性質を持っているのだとすれば、科学知識を持たないこの星の人類がそのように言い伝えとして残したのかもしれません。アダム大佐がその力をどうやって得たのかは不明ですが、彼が死ねばフェロモンの分泌も止まりモンスターの攻撃も収まるでしょう】
何を言っているのか今一分からないが、スリサズもフィノとリュートに賛成らしい。
確かにアダムと同じ世界から来たスリサズの言うことなら、少なくともただの言い伝えよりは信用できるかもしれない。
このポンコツの言葉に命を預けるのは少々気が引けるが……
【私の発言が間違っていたことがありますか?】
「胸に手を当てて考えてみるんだな。いや、お前には胸も手もないか」
【片目のない人に言われたくはありません】
「総指揮官殿! 両翼から敵軍の姿あり! 突撃してきます!」
連絡係の兵士が慌てた様子で俺たちと話していたフィノの元に駆け込んできた。
「盾の壁がない側面から崩しにかかってきたか」
「防ぎきれません! 大盾部隊を左右に展開させましょう!」
「いや、そうすると敵は次に開けた前方から銃撃を浴びせてくる。おそらく狙いはそれだろう。大盾部隊はそのままの態勢を維持! 後方部隊は応戦し大盾を守れ!」
フィノは兵士に檄を飛ばすと、意地の悪い笑みを浮かべながら俺たちの方に振り返る。
「さて、戦士殿に勇者様。助けて差し上げたのだから一仕事していただけるかな?」
「フン、言われなくてもやってやる。左右の敵を片付ければいいんだな?」
ソフィーに回復してもらって少しは元気になったところだ。
リハビリにはちょうどいい。
「総指揮官殿!」
一通り指示を出し終えたフィノの所に先ほどの伝令が戻ってきた。
「ま、まだ何かあるのか?」
「ハッ! これが地割れに挟まっていたので回収してきたのですが、いかが致しましょうか!」
伝令はなにやらロープでグルグル巻きになった物を抱えている。
「ム゛~~~!ム゛~~~!」
「……あー」
そういえばマルのことをすっかり忘れていた。




