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39 魔王アダム

「この異星人共と手を組んでいるのか!? SSS(スリサズ)め、姿を見せろ!」


 アダムと呼ばれた魔王は、スリサズの名を叫びながら周囲を見回した。

 どうやら声が聞こえているだけで、俺が持っているショットガンに張り付いていることには気づいていないようだ。


「おい、なんでお前の知り合いが魔王になってるんだ?」


 俺はアダムに見えないようにショットガンを後ろ手に隠し、小声でスリサズに話しかけた。

 確かにこの男の言動の意味不明さはスリサズに通じるものがあったが、同郷だとすれば納得がいく。


【私の人物データベースによると、彼はある日を境に行方不明になり、その後発見されなかったため死亡届が出されています。その後のデータは残っていないのでなぜこのような遠い惑星で魔王を名乗っているのかは不明です】

「フン、記録がないのは当然。その時の私は貴様に対抗するレジスタンスの幹部として、あるプロジェクトを極秘裏に進めていた。そう、貴様を外宇宙に追放する計画をな」

「追……放……?」


 俺はスリサズに初めて出会った時、元いた世界から追放されてきたと聞いたことを思い出した。

 この男はそれに関わっていたということか。


「スリサズ。確かお前はなんとかいう機械で飛ばされてきたって言ってたよな」

【亜空間転送装置です。一文字も記憶していませんね】

「SSSはその存在の重要性から強固な防壁に守られ、物理的に破壊することも、ウィルスに感染させてデータを消去することも出来なかった。そこで我々は考え方を変え、地球に帰還することが出来ない遥か彼方の外宇宙へ追放することにしたのだ」


 アダムは拳を震わせ憎々しげに語る。

 元の世界にいた当時の記憶でも思い返しているのだろうか。


「あれは実用段階に入る直前の最終実験だった。突如として装置が暴走を始め、逃げ遅れた私は実験施設でもあった軍事基地ごと、この惑星に転送されてしまった。SSSがここにいるということは計画自体は成功したようだが……私と同じ座標に転送するとはマヌケな科学者共め」

「……ってことは、お前は魔物じゃなくただの人間なのか?」

【この星の人類とはわずかな遺伝子配列の違いは見られますが、おおむね同一と考えて問題はありません】

「未開の異星人共と一緒にしてもらっては困るな。モンスター共を通じてこの惑星について調べはしたが、地球とは文明レベルが違いすぎる。それに魔法だのモンスターだの……まったく存在自体が冗談みたいな星だ。転送された直後は思わずどこかに撮影スタジオでもあるのかと探してしまったぞ」

「何を言ってるのか分からないけど……お前がただの人間なら、なぜモンスターを操ることができる!?」


 今度はリュートがアダムに向かって叫ぶ。

 確かに、言い伝えでは魔王とは何百年も生きているモンスターの親玉のはずだ。

 ただの人間が簡単になりすませるものではない。


「フッフッフ。さて、なぜだろうな。私にも詳しいことは分からんが、異世界に来た人間というものは不思議な力を得るのがセオリーというものだろう?」

「真面目に答える気はないってことか」


 俺は言いながら負傷した左目を押さえてヨロヨロと立ち上がる。


「ほう、撃ち漏らしたとはいえ、まだそんな力が残っているのか。文明が未熟な分、体力も動物並なのか?」


 不用意にこちらに近づいてくるアダム。

 おそらく立ち上がるのがやっとで反撃する力は残っていないと思っているのだろう。


「SSSの声はこちら側から聞こえてきたな? 貴様が何か知っているのか?」

「そんなにあいつに会いたいなら……会わせてやる!」


 ジャキッ!

 俺は後ろ手に隠していたショットガンを目の前に突きつけた。


「む!? それは我が軍の……」

「ただの人間と聞いて安心したぜ。お前がモンスターを操れようがこれで終わりだ」


 魔王が銃も剣も効かない化物ならどうしようかと思っていたところだが、人間なら頭を吹き飛ばされれば死ぬ。

 この距離なら包囲しているモンスターたちの援護も間に合わない。

 片目をやられた恨みもあるし、このまま引き金を引かせてもらう。

 そう思い、俺はショットガンを持った手に力を込めた。


 ドゴォンッ――!

 周囲に銃声が響き渡る――しかし、


「……なに!?」


 俺が発砲する寸前、アダムの腕がショットガンの銃身をかち上げ、銃口の向きを変えられていた。


「フン」


 さらにアダムは銃身ごと腕をひねり上げ、俺を地面に叩きつけると同時にショットガンを奪い取る。

 その動作はあまりにも早く、気が付いた時には、俺は仰向けに転がされていた。


「ぐっ……何をしやがった!」

「やはり近接格闘戦術(CQC)も知らんか。原始人め、貴様らが銃を扱うなど1000年は早い」


 カシャッ、ガパッ、カチャカチャ、ガシャン――。

 アダムは俺から奪い取ったショットガンを、なんの道具も使わず慣れた手つきで解体してしまった。

 銃に張り付いていたスリサズがこぼれ落ち、地面に転がる。


「そんな所にいたのか。そこの異星人が我が軍のID銃を使用できたのも貴様がハッキングしていたからだな? フッフッフ、それにしても地球に君臨していた頃に比べたら見る影もない、なんと矮小な姿よ」

【ジョン、電力供給が途絶えました。近くに果物はありませんか?】

「知るか」


 スリサズは四本の足で虫のように移動して俺の手元に戻り、そんな呑気なことを言う。


「話はもう十分だ。こんな未開の原始人共に協力していること自体、貴様の本来の性能が失われている証拠! ここで異星人もろとも完全に破壊してくれる! 全軍攻撃用意!」


 アダムが満足した様子で右手を上げると、それに応えるように今まで不動の体勢をとっていたモンスターたちが一斉に銃を構える。


「おい、何か対抗策はないのか!」

【現状での最善の選択として、このままじっとしていれば0.0004%ほどの確率ですべての弾が外れてくれるかもしれません。もしくは突然の嵐や大地震、または隕石が落ちてくるなどの天変地異が起き、我々だけが奇跡的に無事であればあるいは……】


 スリサズはこれで大真面目なんだろうが、自力じゃどうしようもないということを長々と。

 今度こそもう駄目か。


「撃てえぇェェェィッ!!」

「くっ――――!」




『――――“エンシェント・ノーム”!』


 ゴゴゴゴゴゴッ……!


 突如として俺たちの立っていた地面が隆起し、まさに銃の引き金をひこうとしていたモンスターたちはバランスを崩す。

 不安定な体勢で発射された銃弾はあらぬ方向に飛び、何匹かのモンスターは互いに互いを撃つことになった。


「なんだ? こんな時に地震だと!?」


 尻餅をついたアダムの目の前で、隆起した地面が割れ、モンスターの軍団が飲み込まれていく。


【モンスターの後方に多数の熱源あり。人間の集団のようです】

「これはエレトリアの魔法……まさか!」


 地震によって包囲が崩れ、開けた視界の向こう側に無数の人影が見える。

 その先頭には、馬に乗って指揮をとるフィノの姿があった。


「魔王とモンスター共! 我々、討伐軍連合部隊が相手だ!」


 マントを翻し、大げさに啖呵を切る。

 そしてその傍らには、俺にとって懐かしい顔ぶれが連なっていた。


「勇者様! ご無事ですか!?」

「ね~。あの隣にいるの、もしかしておっさんじゃない? なんでここにいるわけ?」


「ソフィーにエレトリア……助けを呼んで来てくれたんだな……」

「まったくいい仲間を持ったもんだな、リュート。おかげでまた死に損なった」

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