04 ドラゴンズマウンテン
【ミステイク・ドラゴンの討伐に向かう前に買い物をおすすめします】
スリサズの中では完全にミステイク・ドラゴンで登録されたらしい。
訂正しそうにもないので放っておくことにする。
「そうだな。一人でドラゴン退治するには今の装備じゃ心もとないし」
【それもありますが、まずは八百屋さんに向かってください】
「八百屋だあ? 食料には困ってないぞ」
【先ほども言いましたが、私の張り付いているリンゴが傷んできており、電力供給に支障が出ています。このままではあと約45分で省電力モードに移行し、全機能が仮停止状態になるでしょう】
「あー……つまり生きてられないってことか?」
【理解力の向上が見られますね。SNSで褒めておいてあげましょう】
「見殺しにしてやろうか」
うっとうしい声が無くなるのは歓迎だが、この機械が教えてくれる情報のおかげで当座の金が手に入り、トントン拍子に仕事にありつけたのも事実だ。
俺はしぶしぶ代わりの果物電池?を探すために八百屋に向かった。
「買うのはリンゴじゃなくてもいいのか?」
【基本的には果物なら問題ありません。果物以外では例えばジャガイモからも電力は取れます。どれでもいいから早くしてくだ…サイ。…時間が…あり…ま…セン】
スリサズの声がザラつき、尻すぼみに小さくなっていく。なるほど、本当に弱っているようだ。
俺はとりあえず目についたレモンを買ってみた。
深い考えはなかったがリンゴより軽いから持ち運ぶには便利だろう。
【私をリンゴから取り…外したら…12秒以内に電極を…交換用電池…に刺しこんでく…だ…さ…い】
「ん……こうか?」
俺はリンゴに刺さっている虫のような四本の足を引っこ抜き、買ったばかりのレモンに一本づつ刺し直していく。
【システムの再起動を行います】
急にスリサズの声が明瞭になり、白いボディに埋まった目玉が点滅しながらグルグルと動く。
【電池交換に要した時間は17秒でした。あなたのおかげでストレージ内の一部にある某国の核開発に関する最高軍事機密情報が消去されました】
「それはなによりだな」
【これは褒め言葉ではありません】
◆
俺は誘拐少女の父親から貰った謝礼金を使って武器や消耗品を調達し、いよいよドラゴンのいる山の麓へやってきた。
【この山の標高は1,152M、それほど高くはありませんが今の季節は霧がかっていて登山には不向きです。交易路に使われているコースから逸れると、遭難の危険が高まります】
「ドラゴンが出るのはどの辺だ?」
【ほぼ山頂付近の霧が濃い場所です。あなたの年齢であれば休憩や水分補給の時間を平均より多くとることを推奨します】
「俺は年寄りじゃない」
俺は足早に山を登り始めた。
【ペースを落としてください。指示に従わなければ山岳遭難発生件数の高齢者の項目に加算することになりますよ】
「うるさい、黙ってろ」
ますます年寄り扱いしてくるスリサズの言葉にムキになって、さらに高スピードで登り続ける。
おかげで予定より早くドラゴンの目撃された地点である山頂付近までたどり着くことができた。
「ゼェゼェ……どうだ、ポンコツ」
【あなたの年齢の平均必要時間を大きく下回っていますね。身体能力のデータを再入力しておきましょう。それと、あなたは天邪鬼な人間だとSNSに書いておきます】
俺は水筒の水をラッパ飲みしながら、周囲に目を配る。
山頂付近は静寂に包まれ、視界は霧で霞んでいたが、ドラゴンのような巨体が通りかかればすぐに分かるだろう。
【周囲に巨大な熱源は検知されていません。小動物は何匹かいるようですが】
「そうか」
視界が利かなくてもこれならドラゴンに不意打ちを食らうこともないだろう。
いちいち癪に障る物言いを気にしなければ、これほど便利なアイテムもない。
【但し、我々のいる反対側、下りの方から複数の熱源が集団で山頂に向かって来ています。人間が四人と馬が一頭、馬の呼吸の荒れ方から約150kgの貨物を積載していると思われます】
「なんだと?」
スリサズの口ぶりから、おそらく商人のキャラバンのようだった。
ドラゴンが出るって聞いてないのか?
いつ現れるか待ち構えているところだというのに、通りかかるのは危険すぎる。
運んでいる荷物の中に食料があれば、なおさら格好の獲物だ。
「場所を教えろ」
【このまま直線距離で約300m先です。しかし気をつけてください。まだ遥か上空ですが巨大な熱源の存在を感知しました】
俺は手遅れにならないことを祈りながら、商人の一団を止めるために山の反対側へ走った。