37 最前線
「ギィアァッ!」
ドガガガガッ――!!
ゴブリンの一匹が雄叫びと共に小銃を乱射する。
俺は身をかわしながらゴブリンに詰め寄り、至近距離からショットガンの一撃を見舞った。
「グゲッ」
ゴブリンは頭を失いながら、衝撃で他のモンスターを巻き添えに吹っ飛んでいった。
「いいかリュート。こいつらが構えた時の目と腕の動きをよく見ておけ」
銃と呼ばれる武器を何度も相手にし、自分でも使ってみたことで気づいたことがある。
それは、この武器を使う動作として「構える・狙う・撃つ」という三段階の動きが必要になってくるということ。そして、銃の引き金は意外と重いということだ。
その射程距離と弾速のせいで誰もが恐怖してしまうが、前動作を考えるとそこまで速くはない。
要は弓矢と同じだ。
使い手の直前の動作をよく見ておけば、狙いをつけられる前に身をかわして射軸をずらすことも出来るし、距離が近ければ引き金を引かれる前に接近して倒すことも出来る。
もちろん、この動作が恐ろしく早い達人もどこかにはいるのかもしれないが、このモンスター共の中にはそこまでの使い手はいないようだ。
俺やリュートの実力なら十分に対処できる。
「ジョン、来てくれて言うのも悪い気がするんだけど敵の数が多すぎる。1対100が2対100になったところで状況は変わらないよ」
俺が得意気になっているところに、何匹目かのモンスターを斬り伏せたリュートが弱音を吐いてきた。
空気の読めない奴だ。こいつには昔からそういう所がある。
「そんなことはない。一人あたり50倒すだけで良くなったと考えろ」
と強がってはみたものの、俺も正直なところ特に何か作戦を立てているわけではない。
今、俺たちが戦っている敵は数十体程度だが、この戦場全体ではその何倍、何十倍ものモンスターの軍勢が今もうろついているはずだ。
そして、その総数は100なんてはした数ではないだろう。
いくら対応できるとは言っても、四方八方から銃撃を浴びせられれば、流石に全てを回避する自信はない。
「おいスリサズ、何か言うことがあったら聞いてやる」
【物を頼む態度としては非常に不適切ですが、戦闘支援を要求していると解釈しました】
「ジョン、誰と話してるんだ? まさか歳のせいで幻聴が……」
「お前にも聞こえてるだろ。こいつだ」
俺はショットガンに張り付いたスリサズをリュートに見せてやる。
混乱させるかと思って見せないでいたが、この先何か聞くたびにボケ老人扱いされるよりはマシだ。
「これは、機械の……虫?」
【初めまして。よろしければSNSのフォロワー水増しにご協力をお願いします】
「????」
「真面目に聞くなよ、頭がおかしくなる。で、何かあるのか?」
【予測では今から三分程度で周囲のモンスターが戦闘に気づき、ここに集まってきます。援軍が来る前に現状の敵をすみやかに殲滅しなくてはなりませんが、飛び交う銃弾を避けながら一匹一匹相手をしていては間に合わないでしょう】
となると、この数を一度に全滅させなきゃならないわけだが……
ドォンッ!!
「おっと」
モンスターの撃った銃弾が脇をかすめ、近くの水たまりに当たりしぶきを上げた。
――――水?
「リュート、お前の聖剣は確か水を出すこともできたよな」
俺はリュートの持つ聖剣を指さして言った。
勇者と呼ばれる証でもあるその剣は、リュートの意思で様々な魔法の力を帯びることができる。
所持者の体力や気力によって力の大きさは左右されるが、リュートが心身ともに充実した状態ならエレトリアの大魔法と同等以上の威力を発揮する。
「? うん、でも色々な属性を試したけど水は一番効果が無かった。それに今の僕じゃそこまで強力な魔法は引き出せないと思う」
「奴らに水をぶっかける程度でいい。とにかくお前は水担当だ」
「よく分からないけど……“アクアブランド”!」
リュートのかけ声と共に聖剣が青白く光ると、剣先から噴出した水が鞭のようにしなりモンスターの集団を弾き飛ばした。
しかし水の勢いで倒れはしたものの、ダメージを受けた様子はなくすぐに起き上がってしまう。
「ゲッゲッ」
その程度かとでも言っているつもりなのか、モンスター共は嘲るような声で鳴いている。
【威力としては消防隊の放水車ぐらいでしょうか。水圧はありますが外傷を与える程ではないようです】
「やっぱり効いてない! 起き上がってくるぞ!」
「それでいい、後はこっちでなんとかする。確かこの辺に……と」
俺は近くの積み上がった瓦礫の山に腕を突っ込むと、隠れていたそいつを引きずり出した。
「出番だぞ電気ウナギ。いつまで隠れてるつもりだ」
「誰がウナギじゃ! 離せ! あんな危なっかしい所に出ていけるか! おい何を大きく振りかぶってあ゛あ゛あぁぁぁ――――ッ!!」
俺は首根っこを掴まれ喚きたてるマルを、そのままモンスターが密集した位置に勢いよく放り投げた。
モンスターたちはさっきのリュートの攻撃でずぶ濡れになっている。
バチィッ!!
「ギャア゛アア゛アアァァァ――――ッ!!」
濡れた身体を通して感電したモンスターの群れは悲鳴を上げながら次々と黒焦げになって倒れていった。
【この戦法も少々マンネリ化していますね。動画の再生回数があまり稼げなくなってきました。ちょっとF5を連打しておきましょう】
「ならお前が別の方法を考えろ」
◆
「え~と……ジョンは魔物使いにでも転職したのかい?」
リュートは目に?マークを浮かべたままスリサズとマルを交互に見ている。
戦闘中から戦闘が終わった後もずっとこんな調子だ。
「おい人間、あんまり無礼なことを抜かすな。我がこやつらを使ってやっておるのだ」
「その割にはずいぶんとぞんざいな扱いを受けてたように見えたけど……」
「うるさい! こいつらが非常識すぎるのだ! 貴様も元仲間なら責任を取れ責任を!」
【世間話は社会生活を送るにあたり大変有意義なものですが、今は増援が来る前にここから避難するべきでしょう】
「世間話で片付けるな! 少しは苦情を真面目に聞け!」
「そうだ、そもそもジョンはどうやってここに?」
不毛な会話を続けるマルとスリサズを置いておき、リュートは俺の方に向き直る。
「ああ、この近くに地下に通じる入口があってな。お前の仲間が危機を知らせに来てくれたんだ。あいつに感謝するんだな」
「きっとカナベルだ。上手く逃げ延びられたんだな。エレトリアとソフィーにも会ったのかい?」
「いや、一人だった」
「そうか、途中ではぐれたのか、それとも散り散りになって逃げたのかな? みんな無事だといいけど」
「仲間よりもまず自分の心配をするんだな。地下を通れば、討伐軍の分隊が駐留している町に戻れる。運が良ければそこで仲間に会えるかもしれん」
俺たちとリュートだけで戦い続けたところで、もはや戦線は維持できまい。
討伐軍にとっても、勇者を無駄死にさせるよりは帰還させて再起を図る方が得策だろう。
「……そうだね。悔しいけどここは逃げるしかないみたいだ。それに、ジョンには聞きたいことが多すぎる。落ち着いたらちゃんと聞かせてもらうからな」
そう言うとリュートは後ろを向き、足早に歩き始めた。
俺たちも慌ててその背中を追って来た道を引き返す。
「お前、地下道の場所知ってるのか? 俺が案内す……」
俺は言い終わる前に、赤い小さな光点がリュートの背中を照らしていることに気づいた。
ここに来る前の町で何度も見た光だ。あれは確か――
スナイパーライフル。
スリサズに聞かされた武器の名前が脳裏に再び浮かび上がった。
「伏せろリュートッ!!」
「え……?」
ドウッ――。
咄嗟に飛び出した俺はこめかみに一瞬だけ衝撃と熱さを感じ、目の前が真っ赤に染まった。
ジョンの馬鹿野郎。
何が――仲間よりも自分の心配をしろ――――だ――――――――。
「う、うわあああああぁぁぁ――――ッ!!!」
消えゆく意識の中で、かすかにリュートの叫び声が聞こえた。




