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34 昔話②ニーズヘッグ討伐

 俺たちが四人でパーティーを組んでしばらくした後、とあるモンスター討伐の仕事を請けた。


 ターゲットは地を這う巨竜、ニーズヘッグ。

 手足のない長い胴体だけの体。その両方の端に頭部を持つ双頭のドラゴンだ。

 地中を掘って大陸中を移動し、毒のブレスを吐いて出現した土地の人や動物を襲う。

 今までに何人もの冒険者が討伐の名乗りを上げたが、全て返り討ちに遭っており、手に負えそうな者はもはや俺たちぐらいしかいないって状況にまで深刻化していた。


 ニーズヘッグがとある森林の沼地に潜伏していることを突き止めた俺たちは、その近くにあった町で情報を集め酒場で作戦会議を行うことになっていた。


「やあジョン、時間通りだね」

「どうも」


 俺が酒場に到着した時、中にはリュートとソフィーが先に着いていた。


「エレトリアはまだ来てないのか?」

「彼女なら少し買い物に行くから遅れると言っていました」


 ソフィーが無表情のまま、淡々と俺に告げる。

 掴みどころのない彼女の態度は、今でもなにを考えていたのかさっぱり分からないが、リュートを信頼していることだけは確かだった。


「リュート、あいつには財布を持たせるなっていつも言ってるだろ」

「まあ、生活に困るほど使い込んでるわけじゃないからいいかなって」

「どこかで止めさせないと一生無駄遣いし続けるぞ」


 俺たちパーティーはおおむねうまくやっていたとは思うが、お互い長い間組んでいると多少なりとも不満が出てくる。

 その中の一つがエレトリアの浪費癖だ。

 派手好きの彼女はなにかにつけて高い宝石や装飾品を買いたがり、少し汚れたという理由だけで同じ装備を何度も買い替える。

 老朽化した装備を交換するのは珍しくはないが、基本的に後方で魔法攻撃をするポジションにいる魔道士の杖やローブはそう簡単に壊れるものではない。


「ヤッホー、みんなお待たせ」


 30分ほど遅れて、エレトリアがやって来た。


「そのイヤリングはなんだ? それに前の町で買ってたネックレスはどうした?」

「やだ、あたしがいちいちなに着けてたとか観察してるの? キモいんですけど。大体、おっさんだっていつもみんなよりお酒飲んでるじゃない」

「それとこれとは額の桁が二つか三つぐらい違うだろ」


 その頃の俺とエレトリアはことあるごとに金の使い方で口論になり、傍から見てもあまり仲が良いとは言えなかった。

 今にして思えば、俺も年長者ということでみんなに対して口うるさい面があったのかもしれない。


「二人とも、その話は後でいいじゃないか。これから強大な敵を倒しに行くんだから、協力し合わなきゃ」

「フン、バーカバーカ」

「子どもか……」


 俺とエレトリアの口論に、リュートが仲裁に入る。それがパーティーの恒例となっていた。

 ソフィーは相変わらず無表情のまま、そのやり取りをただ眺めていた。



「うえ~、ジメジメしてて気持ち悪」

「魔女ってのはこういう雰囲気が好きなもんだと思ってたがな」

「おっさんの古いイメージで物を語るのはやめて欲しいんですけどー」

 

 湿地帯の森は腐った草木や動物の死骸が土に溶け込み、踏みしめる度に足が深く沈んだ。

 地中に潜って移動するというニーズヘッグならば、これほど快適な環境もないだろう。

 今歩いている地面の下には、すでに奴の長い胴体の一部が埋まっているのかもしれないのだ。


「足場が悪いな……前衛の僕たちだけでは守り切れるか分からない。エレトリアとソフィーも奇襲に注意してくれ」

「自分の身は自分で守ります。勇者様こそお気をつけて」


 作戦会議の結果、結局のところやることは変わらないという結論で一致し、俺たちはニーズヘッグの巣がある森林へ足を踏み入れた。

 リュートと俺が正面から敵を引きつけ、それをソフィーが回復や身体強化の魔法でサポートし、エレトリアの攻撃魔法を詠唱する時間を稼ぐ。 

 詠唱が完了したら、今まで蓄積させたダメージと合わせて、強力な魔法の威力で一気に片を付ける。

 俺たちパーティーがこれまで何度も行ってきた基本戦術だ。敵が多かろうがデカかろうが破られたことはない。

 頭が二つある地竜が相手でもそれは変わらないだろう。


「いたぞ……寝てるのか?」


 森林の奥地に入ったところで、毒々しい紫色をしたドラゴンの頭がこれ見よがしに横たわっていた。

 胴体部分には沼の水や泥が被っており、全身をうかがい知ることはできない。


「寝てるなら楽勝じゃない。起きる前にここから魔法で吹っ飛ばしましょ」

「そうだね。エレトリアはここで詠唱を始めてくれ。僕たちは近づいて調べてみる」


 俺とリュートは息をひそめ、目を閉じ静かに寝息を立てるニーズヘッグに近づく。


「ホントに寝てるみたいだ……こんな近くに来ても目を覚まさない」

「妙だな。大陸中の冒険者が返り討ちに遭ってきたはずだが、余りにも無防備すぎる」

 

 俺はふと、後方で詠唱を続けているエレトリアの方を向く。

 目を閉じて魔法を唱えているエレトリアと、それを見守っているソフィー。

 その背後の木々の間に、妖しく光る二つの目が見えた。

 ニーズヘッグのもう一つの頭だ。


「こいつ、片方だけ狸寝入りしてやがった! 避けろ!」


 その言葉を聞いてニーズヘッグはもう演技するのは無意味だと判断したのか、もう片方の頭も目をギョロりと見開き、俺たちに向かって大きく口を開けた。

 二つの頭は俺たちを挟み込むように一直線上に捉え、同時に猛毒のブレスを放射した。


「“ホーリー・ウォール”!」


 ソフィーの神聖魔法により毒を無効化する障壁が張られる。

 ドラゴンの頭部の目の前にいた俺たちも瞬時に跳び退ってソフィーの結界に入り、ブレスの攻撃を凌いだ。


「……“エア・サウザンド”!」


 続いて詠唱を完了したエレトリアの魔法によって生まれた風の刃が、ニーズヘッグの頭を切り裂いた。


 ――ギイィアアアァァァァァッ!!


 致命傷ではなかったが、無数の切り傷を作ったニーズヘッグは苦悶の悲鳴を上げる。


「うおおおぉッ!」


 その隙を逃さず、リュートは聖剣を構えて突っこんで行った。


「……ハッ!? えっ? なになに!?」


 エレトリアは奇襲を受けたことに今頃気づき、戸惑いながら辺りを見回す。

 以前、本人から聞いた説明によると、強力な魔法になるほど集中力が必要になり、一度詠唱を始めたら発動するまでなにも目や耳に入らなくなるらしい。


「驚いてるところ悪いが、こっちにもう一発頼む。出来ればさっきよりデカいのをな」

「もう! 人遣い荒いんだから!」


 俺は背後から奇襲してきたもう片方の頭に向かい合い、角や牙の攻撃を受け止めていた。

 悪態をつきながらもエレトリアは再度詠唱に入る。

 ニーズヘッグは剣一本でどうにかなる相手ではないが、ソフィーの強化魔法が加われば攻撃から仲間を守るぐらいは出来る。


「――“太陽風”!」


 魔法が発動し、超高温の熱風がニーズヘッグに降り注ぎ、その表皮を溶かす。

 俺は熱さに悶え苦しむ地竜の喉から剣を突き刺し、息の根を止めた。


「ジョン、大丈夫か?」

「ああ、こっちも終わった」


 反対側で戦っていたリュートがこちらに駆けつけて声をかける。

 見ると、もう一つの頭は脳天から頭を真っ二つに割られて絶命していた。


「さすが聖剣の力ってところか。だがあんまり派手にやるなよ。討伐証明が取りにくくなる」

「ジョンの方だってそんなに綺麗じゃないだろ?」


 喉から血を流している黒焦げになった地竜の頭を指してリュートは言った。



――――――――

――――

――



「ニーズヘッグか。奴のことは知っておるぞ。最近見ないと思ったら退治されておったのか」


 それまで黙って話を聞いていたマルが口を挟む。


「ドラゴンは異種族同士でも交流があるのか?」

「兄弟の間では我を奴に丸呑みさせてもう片方の頭から吐き出させる遊びが流行っておった。この世におらんのならもうあれをされる心配はないのだな」

「……」


 虐待の発想が豊かな兄弟である。

 ここまで来ておいてなんだが、そんな兄弟の元にこいつを返して本当にいいものだろうか。


【すでに1時間が経過しました。まだ話は続きますか?】

「ああ、この先は正直話したくはないがな。乗りかかった船だ」


 俺はコップに少しだけ残った酒を一気にあおった。

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