31 VS合体ウーズ
「マル、さっきの電撃もう一回使えるか?」
洞窟の地面を埋め尽くす無数のウーズから目を離さないまま、俺は後ろのマルに聞いた。
「うむむ、疲れるからあんまりやりたくないのだが」
「よし、5秒経ったら地面に向かって撃て」
「少しは気を遣わんかまったく……」
ブツクサ言いながらもマルは地面に両手を添える。
鍾乳洞になっている洞窟内は常に湿気を帯びており、そこら中に水たまりが出来ている。
電気はよく流れることだろう。
「3、2、1……今だ!」
言うと同時に俺は天井から生えている鍾乳石に掴まり、地面から足を離す。
「おりゃあああァァッ!!」
気合の雄叫びと共にマルの体が発光し、地面一帯に幾重にも稲妻が走る。
水たまりを伝った電撃は、まず先頭の一匹のウーズを感電させ、そこからさらに他のウーズにも伝播し、全体に広がった。
【この生物の体はほとんどが取り込んだ生物の水分で出来ています。真水より伝導率も高いでしょう】
パァンッ――!
電撃を受けたウーズの体表は沸騰するように泡立ち、次々と破裂していく。
洞窟内を埋め尽くしていたウーズの群れは一匹残らずバラバラに四散した。
「ハァ~~~、つ、疲れた……しばらく電撃は使えん」
肩で大きく息をし、へなへなと力なくその場にへたりこむマル。
「よくやった。先を急ぐぞ」
「鬼かお前は。我はしばらくここを動かんぞ。人権、いや竜権に基づいて労働条件の改善を要求する」
座り込んだままよく分からない抗議をしてくる。
たいまつの明かりがどれくらいあるか分からない以上、長居はするべきじゃないのだが。
「いいから立て。お前のために南へ行こうとしてるんだろうが」
「む~り~、我もうつ~か~れ~た~」
無理やり引っ張り上げようとするが、駄々っ子のようにイヤイヤをして立とうとしない。
まったく、少し活躍したと思ったらこれだ。
【お取込み中のところ申し訳ありませんが、先ほどの不定形生物の生体反応はまだ消えていません】
「ん?」
割り込んできたスリサズの言葉に、俺はマルから手を離し、消滅したウーズのいた方向を見る。
急に手を離され、地面に落ちたマルの「うげっ」という声が聞こえた気がしたが、それどころではなかった。
先ほど爆裂四散したウーズの体が再生を始めていたのだ。
再生……いや違う。
小さな粘液状の体が一匹一匹再生しているわけではなく、今度は飛び散った粘液が全て一ヶ所に集まっている。
それらは次々と積み重なり、やがて俺が見上げるほどの巨大な一匹のウーズとなった。
そのあまりの大きさたるや、洞窟の地面や壁、天井を覆い尽くし、さながら半透明の壁がそこに建築されたかのようにも見えた。
【スライムの合体を現実で確認できるとは。今の録画はSNSにアップしておきましょう】
「……いいから立て。逃げるぞ」
「そ、そうじゃな!」
さっきまでの疲れたアピールはなんだったのか、マルは素早い動作でシャキっと立ち上がると、俺よりも早く洞窟の奥に駆け出して行った。
ズズズズズ……!!
半透明の壁となったウーズは巨大な身体を引きずり、俺たちに迫ってくる。
その図体にもかかわらず移動速度は思ったよりも速く、走って逃げる俺たちの後ろにピッタリと追随して来ていた。
それどころか、徐々に距離を詰められているようにも見える。
「くそっ!」
ドパァッ――!!
俺は巨大ウーズの方を振り向き、手に持ったショットガンを撃ち込む。
しかし、川に石を投げ込んだようなしぶきが上がるだけで、すぐに元通りに再生してしまった。
巨大ウーズはショットガンのダメージをまったく意に介さず、俺たちを追ってくる。
駄目だ、時間稼ぎにもなりゃしない。
このままでは出口に着くまでに追いつかれて食われてしまう。
【あの巨大アメーバの体内に、一部未消化の物体を発見しました】
「未消化だと?」
ウーズの半透明な巨体を見渡すと、体の中心辺りにいくつか黒っぽい塊が浮いているのが見えた。
金属の球形に何本かの溝が掘られ、なにか果物のようにも見える。
【あれは未使用のグレネード弾です。捕食されたゴブリンが所持していた物でしょうか】
「グレネード?」
また知らない言葉が出てきた。
【今の状況を鑑みて簡潔に説明しますと、要は爆弾です】
「なるほど簡潔だな」
なんだか分からんが、あの巨大ウーズの体には爆弾が埋まっているらしい。
どうにかして一つだけでも爆発させてやれば、他の爆弾も一斉に誘爆して、あのデカブツを倒せるかもしれない。
【グレネード弾は本来、専用のランチャーから発射して着弾の衝撃で爆発するものですが、弾だけとなると外部から衝撃を与えて起爆させるしかありません】
「衝撃か……」
と言われても、ウーズの粘液の壁に守られている今の状態では衝撃を与えるのは容易ではない。
迫りくる半透明の壁から逃げながら方法を考える俺に、火の点いた比較的新しいたいまつが目に入った。
……上手くいくか分からないがやってみるしかないか。
俺はたいまつを手に取ると、剣の刀身が赤くなるまで火で炙った。
スライムのような不定形のモンスターは物理的な攻撃は通用しない反面、火や電気など、いわゆる属性攻撃ならば効く。
さっきのマルの電撃を見ればそれは説明するまでもないことだが、本人のしばらく使えないという言葉を信じるのであれば期待はできない。
魔道士でいえば魔力切れの状態だ。
しかし、俺のような物理攻撃しかできない戦士だけでも倒す方法はある。
その方法の一つが、今のように剣を炙り、その熱でスライムを溶かしてしまうやり方だ。
言うなれば簡易的な火の魔法剣といったところか。
もちろん、こんな文字通りの付け焼き刃で、バカでかいウーズの体を多少溶かしたとしても、大したダメージは与えられないだろう。
だが、粘液の中に浮かんでいる爆弾に届かせるだけなら十分だ。
「食らえッ!」
俺は火に炙られ真っ赤になった剣を、半透明の壁の奥にある爆弾に向け、真っ直ぐに突き刺す。
剣は粘液の壁を溶かしながら突き進み、先端が爆弾に触れた。
ガキンという金属がぶつかり合う音が聞こえ、剣がそこで止まる。
まだ衝撃が足りないようだ。――ならば、
「これならどうだ!」
ウーズに突き刺さったままの剣から手を離し、ショットガンを抜く。
そのまま剣の柄頭に狙いをさだめ、躊躇なく引き金を引いた。
ドゴンッ――!!
銃弾に押し込まれる形で剣の先端が金属の表皮を突き破り、爆弾の中に埋まる。
俺はそれを確認する間もなくウーズから離れると、近くの窪みにマルを連れて逃げ込んだ。
……ズドドドドォォォ――――ンッ!!
一瞬の静寂の後、閃光で視界が白く照らされ、爆発の轟音が洞窟内に響き渡った。
飛び散った大量の粘液が雨のように洞窟中に降り注ぎ、俺たちが隠れている窪みを横切っていく。
それからしばらくして、爆発音と洪水がおさまってから外の様子を覗くと、洞窟内を天井まで覆っていた巨大ウーズは影も形も無くなっていた。
そこら中に飛び散った粘液のしぶきも、核を失ったためか再生することはなく、岩肌に染み込んで消えていった。
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