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26 地雷の町

 俺はマルとスリサズを連れ、撤退したゴブリンの痕跡を辿り平坦な野道を歩いていた。

 元は街道だったらしく、その名残がところどころに見えたが、モンスターの侵攻で整備するものがいなくなったのだろう。大昔に敷かれたと見られる石畳は割れ、隙間からは雑草が生え放題になっている。

 マルは第6分隊の駐屯地に預けていっても良かったのだが、ドラゴンの雛なんて危なっかしくて置いておけるか、連れてきたモンスターは飼い主が責任を持って管理しろとの兵士たちの言葉で、そのまま連れていくことになった。

 俺は魔物使いじゃないんだが。


「まったく無礼な奴らめ。我は悪いドラゴンではないというのに」

「初めて会った時は人を襲ってたはずだが?」

「あの時は食い物が必要だったのだから仕方あるまい。大体、襲ったのは人間じゃなくて馬の方なのだ。人間は兄弟に無理やり食わされたことがあるが、あんなものはまずくて食えたものではない」


 馬ならいいというものではないような気もするが、マルの機嫌が悪化しそうなので聞き流しておく。

 そうこう話している内に、第5分隊が基地を築いているという町の入口に差しかかった。

 廃墟になっているとの前情報通り町は荒れ果てており、散在する民家は壁のレンガが崩れ、外からでも内部の構造が見えている。


「ま、またゾンビでも出るんじゃなかろうな……?」


 マルが怯えた様子で俺の後ろに隠れ、服の裾を握る。

 以前に通りかかった村でゾンビに襲われたのがトラウマになっているらしい。


【あなたが川に投げ込んだことが心的外傷の主な原因と思われますが】

「さて、そんなことがあったかな」

「あ! トボける気か! このひとでなし!」

【物忘れの常態化は老化現象の兆候が――】

「ああ分かった分かった。覚えてるよ。俺も牢に入れられたんだからいいだろうが」


 口々に非難するひとでなし二匹の声を振り払い、町の中に歩を進める。

 俺たちの騒々しいやり取りにもかかわらず、人間はおろかモンスターの一匹も姿を現さなかった。

 

 カチッ。 

 なにかがおかしいと思った次の瞬間、足元から妙な音が聞こえた。

 俺の足元ではない。音がしたのはわずかに後ろの方からだ。


【ビーッ! ビーッ! 動かないでください! 動かないでください!】


 突然スリサズが耳障りな大音量で騒ぎ始めた。


「わっ! ど、どうした!? いつも以上にやかましいぞ!」

【マル、足を離さないでください。地雷が埋まっています】

「……ジライ?」


 マルの右足の先を見ると、なにか金属の円盤のようなものを踏んでいる。


「なんじゃこりゃ?」

「おい! 足を離すな!!」


 俺はスリサズの態度にただならぬ気配を感じ、呑気に足をどかそうとするマルを怒鳴りつけた。

 それを聞いたマルは、ビクッと一瞬肩を震わせて体を硬直させる。


「これがなにか説明しろ」

【これはプッシュアンドリリース方式の対人地雷です。踏んだ者が再度足を離すと爆発し、対象者に危害を加える兵器です。大きさから火薬の量を推測すると、マルが足を離した瞬間、膝から上ぐらいを吹き飛ばす程度の火力はあると思われます。あくまで人間の耐久力を基に試算した場合ですが】

「ヒェッ……!」


 説明を聞いたマルは短く悲鳴を上げ、震えあがる。


「これもお前の世界の武器か。ったく次から次へと……」

「ど、ど、どうすればいいのだ? まさか一生このままなのか……?」


 マルは震えながら泣きそうな顔で俺たちに助けを求める。

 その動揺ぶりは、パニックを起こしてうっかり足を離してしまわないか心配になるほどだった。


【私が起爆装置を解除します。そのまま動かないでください】


 スリサズは俺のショットガンから離れ、カサカサと地面を這ってマルの足元に移動すると、地雷に張り付き、目を赤や黄色にめまぐるしく変化させる。

 ショットガンを使用できるようにした時にも見た光景だが、おそらくはあれがスリサズの世界における封印を解く儀式みたいなものなのだろう。

 この手の武器をなんとかするのに、さっきから頼りっぱなしになっているのは癪だが、この世界の物でない以上なんの知識もない俺たちではどうすることもできない。


「は、早くなんとかしてくれぇ……」


 マルはすっかり怯えきった様子で、震えながら地雷を解除するスリサズを凝視している。


【あ――】

「ヒィィッ!? なな、な、なんじゃ!? どうした!?」

【言ってみただけです。今の狼狽した声は録音してSNSに上げておきます】

「からかってる場合か」


 まったく、緊張感のない奴らだ。

 少し離れた場所でその様子を見ていた俺も気が抜けてしまい、思わず嘆息する。


「……ん?」


 ふと周囲の建物を見回すと、民家の壁に小さな赤い点が見えた。火の玉……というよりは、赤い光の点だけがそこにポツンと存在している。

 その光の点は、微かに震えながら徐々に俺たちの方に近づいてきていた。

 ――なんだか嫌な予感がする。


「……おい、本当に早くしろ」


 目で追っていくと、光の点はマルの体を上り、やがて額のところでピタリと静止した。

 まずい。なにかがまずい。

 理由は分からないが、考えるより先に身体が動いていた。


【解除完了しま――】

「許せよマルッ!」


 俺はスリサズの声を聞くや否や、マルの背中を思いきり蹴っ飛ばした。


「ぎゃんッ!?」


 悲鳴と共に吹っ飛んでいくマル。幸い解除は間に合っていたらしく、爆発は起こらなかった。


 キュゥンッ――――!

 その直後、羽音のような風を切る音と共になにかが俺の足をかすめ、背後にあった町の看板を粉々に破壊した。


「ぐっ……!」


 俺はつま先に鋭い痛みを感じ、転倒して足を押さえる。

 親指の爪が剥がれ、血が噴きだす。指ごと持っていかれなかったことだけは幸運だった。


【スナイパーライフルのレーザーサイトです。直ちに身を隠してください】

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