25 討伐軍第6分隊
「流石は戦士殿。また助けられたな。やはり私の見立てに間違いは無かった」
フィノが喜色満面の笑みを浮かべ、戦闘の疲労で座り込んでいる俺に話しかけた。
討伐軍の正装なのか、以前の簡素なローブとは違う、紋章の付いた豪華なマントを羽織っていた。
「このマントが気になるかな? 先の指揮官が部隊を窮地に追いやった責任で失脚し、さらに戦士殿の加勢が評価されたことで、あなたを連れてきた私が新しい指揮官に任命されたのだ。これはその証というわけさ。ハッハッハ」
俺の視線に気づいたらしく、フィノは自慢げにマントを翻しその場で一回転した。
出世できたのが嬉しいのかすこぶる上機嫌に見える。
「そんなにコロコロ指揮官が変わっていいのか?」
「我々、第6分隊は北の大陸との補給路を守るための部隊で最前線から最も離れている。実力のある者は他の分隊に取られ、戦闘経験の少ない者しか残っていないから、指揮官なんて誰がやっても同じだと思われているのさ。前の指揮官だって、できるだけ安全な所にいたくてここに赴任していたようなものだ」
言われてみればと周囲の兵士たちを見ると、どことなく士気が低いというか、悪く言えば軟弱そうな者ばかりだ。
ゴブリンの軍団を撃退したというのに勝ちどきも上がらず、ただ厄介ごとが去ったことへの安堵のため息が聞こえるのみだった。
それとも俺が知らないだけで、今の若い連中というのは大体こういうものなのだろうか。
【――】
「なんだ? 言いたいことがあるなら言え」
【ジェネレーションギャップを感じるのは高齢化の証拠――】
「やっぱり黙ってろ」
「……そんな我々がゴブリンの襲撃を受けたということは、かなりまずい状況にあるわけだけどね。冷静になると、嫌な時に指揮官になってしまったものだよ」
フィノが上機嫌な態度から一変して、困ったような顔で肩をすくめる。
彼女の説明によると、魔王討伐軍は第1~6分隊に分かれ、最前線から近い順にそれぞれ駐屯地を築き、戦線を維持しているらしい。
つまり最も安全な位置にいる第6分隊が襲われたということは、さらに前線にいる部隊が突破されたということだ。あるいは単に守りの薄い迂回ルートが見つかっただけかもしれないが、いずれにしても状況が悪いことには変わりがない。
「しかし戦士殿、このタイミングであなたが来てくれたのはまさに不幸中の幸いだ。我が部隊は先ほどの襲撃で受けた被害から態勢を立て直すため、しばらく動けそうにない。我々の代わりに撤退したゴブリンの足取りを追い、他の分隊の様子を見てきてくれないか」
なんで俺が……と言いたいところだが、マルを巣に返すために南へ行くには、戦場となっている魔大陸の各地を横切るしかない。
じっと待っていてはいつまでも横断はできないということを見越しての提案だろう。
「戦士殿の戦力は単身でも我が軍の一個小隊、いや中隊に匹敵するものと見ている。我々がモンスターからいくら奪っても使えなかった謎の武器も、あなただけは使用できるようだしね」
フィノが俺の持っている弾切れのショットガンを指さす。
そういえば、スリサズが利用者登録がどうとか言っていた。
「他の武器は使えるようにできないのか?」
【この銃はIDの改ざんは容易ですが、正規の手続き以外で登録が変更された場合、セーフティーロックが働いて使用不能になるようプログラムされています。継続して使用するには私の電極を通してセキュリティを妨害し続けなければなりません。他の武器も同様の処理がなされていると思われます】
「分かるように言え」
【今のように私が張り付いた状態でなければ使用できません】
「だそうだが」
「うーむ、今まで奪った武器がすべて使用できれば一気に形勢逆転も可能だったかもしれないが仕方ない。となるとやはり戦士殿に働いてもらわなければならないな」
逆に断れない流れになってしまった。
しかし、弾が無いのではショットガンもただの鉄の棒と変わらない。
「お~い」
今までどこに隠れていたのか、マルが手を振ってこちらに歩いてくる。
その手には、なにか見慣れない大きめの腰下げ袋が抱えられていた。
「なんだそれは?」
「ゴブリンの死体から拾ったのだ。片腕が無かったからもしやと思ってな」
袋を開けると、細長い筒状の物体がいくつも入っていた。一つ一つの透明な容器の中には、さらに黒い粒のようなものが詰まっているのが見える。
【それがショットガン用の弾です。今後も利用するなら確保しておいてください。リロードの練習もしておくと良いでしょう】
「他の武器は持って行かなくていいのか?」
【この星の知能レベルでは一度に何種類もの兵器を使いこなすのは不可能です。どれか一種類を使用するのであれば、現在持っているそのダブルバレル・ショットガンを推奨します】
「その理由は?」
【動画映えが良いので】
その言葉の意味は分からなかったが、どうせろくな理由ではないということだけは分かった。
しかし、一度に知らない武器をいくつも使用するのは無理、ということも事実だったので、ここは今持っているショットガンを携帯していくことにした。
俺はスリサズに言われる通り、銃の後ろ側を開け、空いた二つの穴に弾を押し込む。
なるほど、弓矢などよりはずっと持ち運びやすい造りになっている。
スリサズも銃からわずかに電気を取れているようで、張り付かせていればわざわざ果物を持ち運ばなくてもよくなった。
「逃げたゴブリンの足跡はこの先にある小さな町に続いている。あそこは既に廃墟になっているが、第5分隊が拠点として再利用していた所だ。準備ができたらすぐに向かってくれ」




