22 再会の予感
「マル! 凄いじゃないか。どうやったんだ?」
俺は、蛸壺を投げ込んだ後も海をしばらく眺めていたマルに駆け寄り、素直に称賛を述べる。
「ん? いやいや大したことではない。下等なモンスターなら我でも少しは言葉が分かるからな。船底でタコの子どもを見つけた時、もしやと思ったのだ」
【確かに、私の音声センサーでも、マルと巨大タコの間に微弱な音声震動を感知していました】
マルは謙遜した口ぶりだが、胸を張り、明らかに自慢げな得意顔で解説していた。
「ま、いくらでかいとはいえ所詮はタコであるからな。我のドラゴンとしての気品? とか徳? オーラ? みたいなものを感じ取ったのだろう。威厳に満ちた説得を聞いてすごすごと退散していったわ。ハッハッハ」
【先ほどの会話を人類の周波数に変換して再生します。――『グェッヘッヘッヘ! こいつの命が惜しければ大人しく帰るのだ。さもないと……』】
ベシャッ。
マルの足がスリサズを張り付いていたリンゴごと踏んづけたことで、再生が中断された。
【……】
「……あ、あー、つまりその、我の威厳に満ちた説得がだな……」
「グェッヘッヘッヘから始まる威厳に満ちた説得があるか」
あの大ダコもよくそれで退散してくれたものである。
激怒して船を沈められても文句は言えなかったんじゃないか。
「まあいずれにせよ助かったよ。物資は少し減ってしまったが、無事に航海は続けられそうだ」
俺たちの会話を聞いていたフィノが割って入った。
「それにしても、その子はドラゴニュートだったのか」
「黙っていたのは悪かった。だがそいつに害はない」
「もちろん分かっているさ。助けられたばかりだからね、マルちゃん」
そう言いながらマルの頭を撫でる。
「なにがちゃんだ。我は愛玩動物ではないぞ」
マルは煩わしそうだったが、振り払ったりしないあたりまんざらでもないようだった。
「だが戦士殿、魔大陸に着いたら、しばらくはこの子の正体を隠しておいた方がいい。そこの喋る機械も同様だ」
しばらく穏やかな顔でマルを撫でていたフィノが突然、真面目な顔になり俺に向かって言った。
元より、目立ちすぎるから積極的にマルやスリサズの姿は見せないようにはしてきたが、あらたまって忠告されるのは珍しい。
「なぜだ?」
「我が魔王討伐軍は長い間モンスターと戦い続け、機械の武器にも苦しめられている。そんな中にいきなり姿を現したら、いきなり攻撃を受けてもおかしくはない」
「物騒な話だな」
「魔王討伐のために雇った冒険者は他にも大勢いるが、ドラゴンと鉄の魔物を連れたパーティーなんていないだろうからね」
パーティー……? 長いこと聞いていなかった単語だ。
俺は多目にまばたきをしながら、マルとスリサズを交互に見る。
「……俺たちパーティーだったのか?」
「我は人間と徒党など組まん。群れに帰るために護衛させておるだけだ」
【失業者に対する再就職支援エージェント契約のことをこの星の言葉でパーティーと呼称するならそうなのでしょう】
「だ、そうだが」
「うん、言ってることは分からないが、実に息の合ったパーティーのようだな」
なんでそうなる?
この女の考えていることもいまいち読めん。
◆
「パーティーといえば、戦士殿たちに出会う少し前に、気になる冒険者を見かけた。別の諜報員がスカウトした者だが、なんでも北の王から聖剣を賜った勇者であるとか。機械のモンスターに通用するかは疑問だがね」
「! 勇者…………か」
【心拍数の上昇を感知しました。その単語に強い思い入れがあるようです】
フィノの言葉を聞き、俺は思わず苦い顔を見せた。
なにを隠そう、その勇者パーティーこそが俺の元いた古巣であり、勇者は俺をクビにした張本人だったからだ。
本人はあまり呼ばれたがっていなかったが、俺やかつての仲間たちがからかい混じりによくそう呼んでいたのを覚えている。
そうか、あいつらも魔大陸に……考えてみれば当然のことだ。
冒険者にとって、魔王討伐は最大級の名誉なのだから。
あいつらならそれも可能かもしれないと思わせる実力もあった。
良い別れ方ではなかったが、今さら恨みがあるとか女々しいことを言うつもりはない。しかし、
「……気まずいだろうなあ」
もしもあいつらに再会することになった時、俺にはただそれだけが心配だった。




