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21 親と子

「我々、魔王討伐軍の戦況ははっきり言って芳しくない。前線基地では本国との補給路が断たれ、人員も物資も不足している」

「それでこんな海賊から横取りするようなやり方で補給しているのか?」

「恥ずかしながらその通り。北の国……あなたたちがいた大陸のことだ。そちらにも協力を要請しているのだがどうも消極的でね。北は魔物の被害が軽微なためか、あまりやる気がないらしい。攻め込まれてからでは手遅れだというのに」


 フィノは船の舵を取りながら、魔大陸の状況を俺たちに説明する。

 舵からは手を離さないが、すくめるように肩を縮めた。


「ま、お上ってのはそういうものだからな」

【高齢者らしい達観、いえ諦観した意見ですね】

「やかましい」

「上陸した当初は明らかにこちらが優勢だった。しかし、魔王の居城である中央の塔に進軍した時のことだ。塔の中から鉄を纏ったモンスターの大群が現れた。奴らの奇妙な武器や魔法に我々は薙ぎ払われ、兵の多くを失い撤退を余儀なくされた。今では奴らが魔大陸の外に出ないよう持ちこたえるだけで精一杯さ」


 その話を聞き、俺は先の町で現れたゴーレムのことを思い出していた。


「その武器ってなにかこう……小さな鉄の塊が飛んでくるヤツか?」

【マシンガンです】


 いちいち正式名称を呼ばせようと訂正してくるスリサズ。

 伝わるか分からないんだから仕方ないだろ。


「確かにそれだけではない。爆発を起こすものや、手から火を放つモンスターもいた」

【地球の兵器だと仮定するとグレネード弾や火炎放射器である可能性はあります】


 スリサズの世界にも爆発や炎を生み出す魔法みたいなものはあるということか。

 しかしそうなると、この世界の魔法なのか、スリサズの元いた世界の技術なのかは判別がつかない。


「幸い、北の大陸からギルドを通じて冒険者を派遣するよう協力は取りつけてある。正直、そこまで期待はしていなかったのだが、おかげで戦士殿のような凄腕に会うことができた」

「おい、俺は加勢するとは言ってないぞ」

「魔大陸に行けば嫌でもそうなるさ。南の大陸に行くには再び戦況を逆転させるしかないんだ。もちろん魔王を倒してくれとまでは言わない。船が出せるようになるまで戦線を上げることができれば、本国への連絡船であなた方を送り届けよう」

「……それなら港町で待たせてくれれば良かったんじゃないのか?」


 その問いにフィノは答えず、代わりにニヤリと口角を上げた。

 どうやら文字通り乗せられたらしい。俺も配達する物資の一部ということか。


「戦いたくなければ強制はしない。しかし南に行けるのはいつになるか分からないがね」

「分かった。どうするかは着いてから考えさせてもらう」


 話を切り上げて、船室に戻って休もうとしたその時。


 ガクン!

 と、船が一度大きく揺れ、そのまま停止してしまった。



「なにがあった?」

「分からない。急に船が動かなくなった」


 フィノは舵を回そうとしているが、びくともしないようだった。


 俺は船室の窓から外を見ると、月の光が反射する水面は大きく波打っているのが見えた。風が止むどころか、むしろ海は荒れ気味のようだ。

 にもかかわらず、この船だけがなにかに固定されたかのように動かなくなっている。

 これは明らかに異様だ。


「暗礁に乗り上げたのかもしれない。すまないが、船底を見てきてくれないか」


 俺は頷くと、操舵室を離れて船底へと向かった。


「こ、今度はなにがあったのだ!?」


 船底に向かう途中、廊下をうろついていたマルが話しかけてきた。


「お前なにしてたんだ?」

「気持ち悪いから部屋でずっと寝ておったのだ。うぅ……人間の乗物なんぞ二度と乗らん」


 船酔いもするのかこいつは。


【船酔いには船室に引きこもるより、甲板で風を浴びることを推奨します】

「外は水がかかるかもしれんから出たくない。海の水は我らミスティック・ドラゴンには毒なのだ。昔、兄弟が海に落ちたらそのまま浮かんで来なくなった」

【海水は電解質になっているため、帯電体質のミステイク・ドラゴンには体内の電気が散って有害のようです。もちろん機械にとっても塩水は危険な存在ですが、私のボディは防水・防錆対策が完璧に施されています】

「なんの自慢か知らんがどうでもいい。お前も来い」


 俺はマルを連れ、階段を下りて船底に急ぐ。

 最下層にある船倉に辿りつくと、そこにはさらなる異様な光景が広がっていた。


「なんだ、これは……?」

【タコの足のようです。少々サイズが大きいですが】


 船倉の床にはところどころ穴が空けられ、そこから何本ものタコの触手が突き出していた。

 酒場にもタコの化物がいたが、それのさらに何倍もでかい。この触手が船を丸ごと絡めとって動きを止めているようだ。

 こいつを追っ払って穴を塞がなくては、船が沈んでしまう。


「はぁっ!」


 俺は剣を抜き、触手の一本に斬りつける。

 が、やはり粘液のせいで手ごたえがなく、刀身がぬめった表面を滑ってしまった。


【あなたには学習能力がないとSNSに書いておきましょう】

「うるさい。同じタイプのタコか試してみただけだ」


 酒場のタコと同じであればフィノの火炎魔法で対処可能かもしれないが、彼女は操舵室にいる。

 連れて来る間に船底が破壊されては元も子もない。


「ぎゃあぁぁぁ~~ッ!!」


 どうしたものか考えていると、マルが触手に絡めとられた。

 触手はマルを縛ったまま、海中に引きずりこもうとする。


「は、離せえぇ~ッ!!」


 恐怖で感情が昂り、電撃を放つマル。

 海水で濡れた触手に稲妻が走り、力を失ったようにマルを離して海底に逃げていった。


【少量であれば塩水は逆に電気を良く通します。あのタコにとっては弱点と言えるでしょう】


 他の突き出していた触手も反撃を受けるとは思わなかったのか、次々と穴から引き抜かれて逃げていく。

 それと同時に、大量の水が船倉に流れ込んできた。


「まずい!」


 俺は近くの板や貨物で穴を塞いで応急処置をする。

 なんとか海水の浸入を止めると、フィノに報告するために再び上への階段を駆け上がった。


「痛たたた……なんじゃ今のは……ん? あれは……」



 船の上に出てフィノを探すと、彼女は操舵室を離れ甲板に出ていた。


「戦士殿! あれを!」


 フィノが俺に気づき、海の方を指さす。


「……凄いなありゃ」


 俺は見たものについて、そうとしか言えなかった。

 フィノの指さした先では、巨大なタコの両目が俺たちを見据えていた。

 おそらく船底に穴を空けた触手の本体だろう。頭以外は海に隠れてはいるが、足を合わせればこの船と同じぐらいの体長はありそうだった。


「確か甲板の下に砲台があったはずだ。私が引き付けるから戦士殿はそれを動かして奴を狙ってくれ」


 そう言うと、フィノの手に炎が集まり、タコの化物も彼女を狙って触手を伸ばす。

 双方が攻撃に移ろうとしたその時だった。



「待ていッ――!」



 幼い、しかし良く通る声が甲板に響き渡った。


「……マル?」


 声のした方を振り向くと、遅れて来たマルがそこに立っていた。

 よく見たら、赤ん坊を抱くように蓋のついた大きな壺を抱えている。

 どこかで見たことのある壺だった。そう、あれは酒場で密輸品の取引をしていた時に見た、タコのモンスターが入っていた壺だ。


 マルは壺を巨大タコに見せつけるように高く上げ、海に投げ落とした。

 巨大タコはそれを拾い上げると、触手で器用に蓋を外す。その中からは、サイズをそのまま一回り小さくしたような、小型のタコが現れた。

 どうやら巨大タコの子どもらしい。


 二匹は揃って海底へ沈んでいき、そのまま船を離れてどこかへ行ってしまった。


【あの巨大タコは子どもを取り戻そうとしていたようです。マルが船倉であの蛸壺を発見し、親へ返したことで敵意が無くなったのでしょう。マルがどうやってそれに気づいたのかは不明ですが、親からはぐれた生物同士、シンパシーを感じたのでしょうか。爬虫類と魚介類では感動的なシーンになるかどうか分かりませんが、SNSに書いておくことにします】

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