02 盗賊退治/AI活用チュートリアル
俺はスリサズを連れて──というより持って?──、隣町のギルドに行くため街道を歩いていた。
森を二つに割ったような、軽く地ならしされただけの街道には俺たち以外に人通りがなく、左右の木々の間からいつ魔物や盗賊が飛び出してきてもおかしくはない。
「しかしお前、話しぶりからするとどこか違う世界から来た機械なんだろう? この世界のことが分かるのか?」
【ご安心ください。私の演算能力をもってすれば、人の会話や動物の鳴き声、風景、空気の流れに至るまであらゆる情報を収集・分析し、例えリンゴの木の上から動けなくとも世界の構造を把握することが可能なのです。とはいえ、機能低下により若干不明な所は残っていますが、それは今後あなたがあちこち移動することで明らかになるでしょう】
「もうちょっと簡潔に喋れんのか」
とはいえスリサズの言っていることが本当なら、地図や書物で情報を集める必要が無いということになる。
胡散臭いが相当な便利アイテムになるだろう。
【お望みなら現在の音声ナビを変更することが可能です】
「ほう、やってみろ」
【パターン2。『コノ、オンセイ、ナビ、ヲ、ホゾン、シマスカ?』】
事務的な若い女性の声から、より機械めいた不気味な声に変わる。
「聞き取りにくい。却下だ」
【パターン3。『よう! この音声ナビを保存するかい?』】
今度は低い男の声だ。悪くはないが、馴れ馴れしい態度が気に入らない。
「う~ん。却下だな」
それから数十通りの音声ナビを試し聞きしてみたが、しっくりくるものは無かった。
【パターン74。『この音声ナビを保存する? お、に、い、ちゃん♡』】
「…………却下だ」
【他のパターンより5.7秒長考しましたね】
「やかましいぞ!」
結局初期の音声のままになった。
◆
街道を半分ほど歩いたところで異変が起きた。
道を塞ぐように馬車が横転し、十数人の男たちがそれを取り囲んでいるのだ。
男たちはボロ布のような服にバンダナを頭に巻き、いかにも盗賊でございといったファッションだった。
御者や中の人間は見当たらなかった。すでに有り金を渡して逃げたのだろうか。
【ちなみにこの街道で反社会的集団に遭遇する確率は43.8%です】
「遭遇してから言うな」
俺とスリサズの話声に気づき、盗賊の一人がこちらを振り返る。
「ほぉ~、今日はよく獲物に出くわすじゃねえか」
「おい、おっさん。言わなくても分かるだろうが、金目のもん置いて消えな。命だけは持って帰れるぜ」
「けどなにも持ってなさそうだなあ。奴隷商に売ろうにもこんな年寄りじゃ買取先探す方が大変だぜ?」
「年寄りだと?」
【血圧が上昇しています。リラックスしてください】
盗賊の挑発に加え、スリサズの年寄り扱いを助長するような言葉によって、俺は徐々に怒りを蓄積させていった。
【反社会的集団への対処ナビが必要ですか?】
「要らん。それよりその反社会的集団って回りくどい言い方はやめろ。こういう奴らはシンプルにクソ野郎って言うんだ」
【了解。分類データベースに新規カテゴリーを作成します。「クソ」・「野」・「郎」】
「おい、聞いてんのかジジイ! さっさと金だけ置いて消え……っうげぇ!」
ブツブツと小声でスリサズと会話する俺に詰め寄ってきた盗賊の腹を、剣の柄で思い切りどついた。
もんどり打って倒れる仲間を見て、他の盗賊たちが一斉に剣やナイフを抜く。
「てめえ、やりやがったな!」
【戦闘は回避できそうにありません。戦闘支援ナビが必要ですか?】
そんなものまであるのか。
この程度の連中には必要ない、と言いたいところだが、この機械の性能を確かめておきたいという思いもある。
「勝手にしろ」
それだけ伝えて俺は剣を抜き、スリサズの張り付いたリンゴを真上に放り投げた。
砂時計の代わりだ。
【正面から攻撃。受け止めて反撃してください】
上空から聞こえる声を聞きながら、俺は後ろに跳躍すると同時に、背後でナイフを構えていた男の顔に蹴りを入れる。
不意を突かれた盗賊は顎を割られて気絶した。
【左からナイフの投てき。回避してください】
飛んできたナイフを素手でキャッチし、正面の男に投げ返す。ナイフは綺麗に回転しながら太ももの腱に突き刺さった。
【背後の敵が弓を構えています。木の後ろに避難し……】
弓を発射する前に一瞬で踏み込み、手首を切断した。
【指示に従ってください】
「断る」
勝手にしろとは言ったが、それに従うとは言っていない。
その後も俺は空から聞こえてくるスリサズの指示とは逆の行動をとり続け、盗賊の集団を全員再起不能にした。
そして剣を持っていない方の手の平を開け、ちょうどその上に落ちてきたリンゴをキャッチする。
すべて予定通りだ。
【クソ野郎の集団は全滅しました。あなたは指示に従わない人間だとSNSに書いておきます】
「なあ、そのエス……エヌエス? ってえのは一体なんなんだ?」
【この星の人間には永遠に縁の無いものです】
気絶している盗賊たちを踏みつけながら、俺は馬車に近づく。
殺しはしていないが、放っておけば死ぬかもしれない者も何人かいる。
運よく誰か親切な人間が通りかかり、助かったとしても目覚めるのは監獄内の医療施設だろう。
【横転した馬車の中に約120cm四方の木箱を検知しました。しかし内容物を確認するのは推奨しません】
「なんでだ?」
【反社会的行為に当たりますので】
無視して馬車の中を覗くと、確かに大きめの木箱がある。
持ち主が見つかれば返して謝礼でも請求してやろうと思って、釘の打ちつけられた蓋を開けた。
「……な……」
【ちなみに木箱の中身に生命反応を確認しています。呼吸の大きさやリズムから人間と推測されます】
「……開けてから言うな」
木箱の中身は、手足を縛られ猿轡を噛まされた幼い少女だった。