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14 乗合馬車

「ところで今どのくらい持っておるのだ?」


 次の町へ行く街道を歩いている道中、ふとマルが切り出した。


「なんの話だ?」

【マルはちょっとジャンプしてみろと言っています】

「違うわ! ちょっと今の所持金が気になっただけだ!」

「ああ、金か。ええと、さっきの報酬も含めて2030ゴールドだ」

「思ったより貯めておらんかったのだな」

【SNSの投票式『付き合いたくない男』ランキングでは『金を浪費する男』は三位にランクインしていました。ちなみに一位は『金払いの悪い男』です】

「なんだその矛盾したランキングは」


 スリサズのたわ言はともかく、思わぬ臨時収入が入ったおかげで金銭的にはかなりの余裕ができたのは確かだ。船代に消えると考えると気は重いが、当面の生活に心配はない。

 港町に着くまでに多少予算オーバーしたとしても、よほど無駄遣いしない限りは現地で補充できるだろう。


「おお! あそこの屋台からうまそうな匂いがするぞ! 買っていこう!」

【私のグレープフルーツ電池が傷んできました。交換が必要です】

「……」


 そう、無駄遣いさえしなければ。



「おお、あれはなんだ?」


 屋台の串焼きを頬張りながら、またしてもマルがなにかに目をつけた。

 港町に近づくにつれ、殺風景な街道沿いにもチラホラと小さな商店や、地べたにシートを敷いて品物を並べている行商人などが目に付くようになり、それが珍しいようだった。

 そんなマルが指さしたのは、二頭の馬にロープが結びつけられた、車輪の付いた大きな箱。


「あれは乗合馬車だな。馬に後ろの箱を引かせて人を運ぶんだ」

【自動車も鉄道もないこの星においては、徒歩以外の数少ない交通手段ですね】

「ふ~む、我も小さい頃、ドラゴンの仲間に重い岩を括りつけられて引かされたことがあったが、同じようなものか?」


 それはイジメの一環だ。

 と思ったが本人がそう思ってないようだから黙っておこう。


 その馬車が停まっている場所は停留所になっており、近くに料金の書かれた看板が立っていた。

 どうやら他の町を通過して港町にも一気に行けるらしい。


「乗車賃は一人200ゴールドか」

「ということは600ゴールド必要なのだな……」

「人外は計算する必要ないだろ」

「ということは、我もタダで乗れるのか!?」


 なんだか既視感があるぞ。この会話。


「おーい、もうすぐ出発時間だよ。あんたたち乗るの? 乗らないの?」


 御者の男が馬に乗ったままこちらを振り向く。


「金がもったいない。歩いて行くぞ」

「いやじゃ~。乗りたい乗りたい~」


 子どもか。

 いや、子どもの姿をしているとはいえドラゴンだろお前。


【人間の形態になったことで脳の容量も縮小した可能性があります】


 結局、駄々をこねるマルに押し切られる形で馬車に乗り込むことになった。



「うひょ~、速い速い!」


 馬車の窓から高速で後ろに流れる景色を見てはしゃぐドラゴンの雛。


「ドラゴンのお前ならもっと速く飛べるんじゃないのか?」

「それとこれとは別なのだ」

【この馬のペースなら三時間で港町に着きます。着いたらなにか仕事を探して不足分を補充しましょう。400ゴールド程度であれば荷物の積み下ろしなど、単純作業でもすぐに稼げます。剣を振る以外に資格も特技もないあなたでもすぐに見つかるでしょう。年齢制限に引っ掛かる可能性はありますが】

「あ~うるさい。マルと一緒に景色でも見てろ」


 久しぶりに聞いた気がするこいつの皮肉だが、相変わらず半分も理解できないしこの先も理解できそうにない。


 馬車が走る震動に身を任せながら軽く目を閉じて仮眠していると、ふと、マルのはしゃぐ声が聞こえなくなっていることに気づいた。

 片目を開けて様子を見ると、マルは外の景色を眺めるのをやめ、うつむいて口元を押さえている。


「う……気持ち悪いぞ……なにかの病気にかかったかもしれん」

【乗物酔いのようです。「動揺病」や「加速度病」とも呼称されますので病気といえば病気と言えます】

「ホントにドラゴンか? お前」


 顔を覗き込むと、確かに顔色が悪い。

 ドラゴンが吐いたらなにが出てくるんだとか、ブレスでも出るんじゃないかとかいう興味もあったが、他の客の迷惑を考えると我慢させるのが得策だろう。


【こういった場合はなにか別のことを考えて気を紛らわせるのが良いでしょう。群れにいた頃の楽しかった記憶などを思い出してください】

「群れにいた頃の思い出……虫のたくさん入った袋に入れられて紐で縛られた……うっ! ますます気持ち悪くなってきた……」

「イジメられた記憶しかないのかお前は」


 その時、一際大きな揺れが俺たちを襲った。

 馬車が急停止したようだ。


「!? ○×△☆♯□※!?」


 マルはますます顔色が悪くなり、頬を膨らませてうずくまる。もうそこまで出かかっているという感じだった。


「どうした? なにがあった?」


 俺は馬車の窓から顔を出し、馬を操縦している御者に尋ねる。


「ま、前にモンスターが壁を作ってるんだ! 馬が怯えて止まっちまった!」


 前方に目をやると、数匹のモンスターの集団が街道のド真ん中に陣取っていた。

 鋭い爪を持った四本足に、発達した牙、黒目のない混濁した瞳。

 外見は犬やオオカミに似ているが、あれはバンダースナッチと呼ばれるモンスターだ。

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