13 地球の技術と魔大陸
【せめてマシンガンだけでも解析しましょう。腕から取り外してください】
「って言われても、これどうやったら外れるんだ?」
膝をつき動かなくなったゴーレムの金属製の腕を、俺は探るようにカンカンと叩く。
【……コノ…ワクセイ……ガイ…ノ……ギジュツ…ヲ……ハッケン…シマシタ……シレイカン…ニ……ホウコク…】
「? スリサズなんか言ったか?」
【今のは私ではありません。私の音声合成ソフトウェアは全世界の言語、音階に対応しており、人類と寸分違わぬ音声を出力できます。あんな片言棒読みで喋るなどSNSに90年代の旧型ロボットのモノマネを投稿する時ぐらいです】
スリサズの例え話は意味不明だが、ならば一体誰が……?
俺がゴーレムの方を見ると、頭に付いた一ツ目が点滅し、消え入りそうな音を発していた。
次の瞬間、淡い光と共に周囲の空間がねじれ、その中心にいたゴーレムの姿が歪む。
「うっ……なんだ?」
【亜空間フィールドの生成を確認。危険です、離れてください】
俺が咄嗟に飛び退くと、一瞬、土の巨体が激しい光に包まれ、バシュンと音を立てて消失した。
辺りを見回すが、ゴーレムの姿は影も形も無くなっていた。
「……あれもお前の世界の魔法か?」
【あの光は間違いなく亜空間転送装置の転送フィールドです。私をこの星に追放した忌まわしい機械の呼称です。座標を把握していれば転送したものを呼び戻すことも可能なので、あのゴーレムは装置の元へ帰還したと思われます】
以前、スリサズはどこか遠い世界からここに追放されたと言っていた。
ということは、あのゴーレムもどこかから飛ばされてきたということか?
しかし武器や装甲はともかく、ゴーレム自体はこの世界のモンスターだ。
「まったく、お前を拾ってから変なことばかり起こる」
【それにはなんら関係性はありません。私と出会わなかった場合の5200万通りの未来をシミュレーションしましたが、あなたが現在に至るまで凶悪な顔をした高齢失業者であることは全てのパターンで共通していました】
「今からでもぶっ壊して試してやろうか」
◆
俺たちはこの町のギルドに呼び出されていた。
町人や警備兵を大勢殺したゴーレムを倒したということで、謝礼が出るらしい。
牢屋に放り込まれていたこともうやむやになり、犯罪者から一夜にして英雄扱いだ。
「戦士様! この度は本当に助かりました。我々ではまったく歯が立たず、あなたがいなければどうなっていたことか!」
町長らしき男がしきりにお礼を言ってくる。
脇に立っている警備兵には俺が脱獄する際に気絶させた奴もいたので、視線を合わせないでおいた。
「ふふん、まあ苦しゅうないぞ」
「お前はなにもしてないだろ」
「痛ッ」
胸を張るマルの後頭部を小突く。
「いざとなったら我の電撃で助けてやろうとしておったのだ!」
【よほど高出力の電撃でなければ、過電流対策をされた地球の機械をショートさせることはできません。マルの発電能力では逆にゴーレムに電力を与えるだけでしょう】
「うぬぬ。ドラゴンの姿にさえ戻れればあんな土人形など敵ではないというのに……」
「まあまあ戦士様。感謝は尽きませんがとりあえずお納めください。2000ゴールドです」
「おお……」
いきなり船代を一気に稼ぐことができ、思わずマルとハモって感嘆の声を上げる。
もちろん、飯代や宿代などの生活費もそこから出ることになるから、港町に着く頃にはもう少し必要になるだろうが、とにかく少額の報酬をやり繰りしていた俺たちにとっては大きな進歩だ。
【町長を人質にすればさらに推定3.8倍報酬を上乗せすることが可能ですが】
「黙ってろ」
なんでこいつは俺を犯罪者にしたがるのか。社会性とやらはどこへ行った?
「あー、ところでああいうゴーレムは頻繁に現れるのか?」
スリサズを道具袋の奥に押し込みながら町長に聞いてみる。
「とんでもない。あんなことは初めてです。この辺のモンスターなんてゴブリンとかワーウルフとか、小さいものばかりですから。ましてやあんな武器を持ったゴーレムなんて聞いたこともありません」
「そうだろうな」
「あのゴーレムは、広場のなにもない虚空から突然現れたんです。夜だったから人は少なかったのですが逃げる暇がなく、あの奇妙な飛び道具の力もあってかなりの被害が出ました」
【亜空間転送装置によるものと思われます】
「実は、他の町でも似たような被害が出ているとの報告があるのです。突然、町のど真ん中に現れたモンスターが暴れ回り、そのモンスターは見たこともない武器や鎧を身に着けていたとか。あまりにも奇妙なものですから、奴らはかの魔大陸からやって来ているのではないか、という噂です」
「また魔大陸か……」
以前訪れた村がゾンビだらけになっているのも、そこの住民が魔大陸から持ち帰った草が原因だった。
危険な場所だということは昔から言われているが、人間の暮らす場所に被害を広げてくることは今までなかったはずだ。
なぜ今になって、こんなにも異変に遭遇することになるのだろう。
「……本当にお前は関係ないんだろうな?」
【母星の技術が何者かに悪用されていることは事実ですが、個別の事案についてはコメントを差し控えさせていただきます】
「なんじゃその回りくどい言い方は。はっきり答えんか」
【ツーツー。おかけになった担当者はただいま席を外してトイレでスマホを弄っております】




