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12 ゴーレムと機関銃

 地下牢を脱出し階段を上ると、上階は警備兵の詰所になっていた。

 俺は息をひそめてドアの横に立つと、中から話声が聞こえる。


「おい、下でなにか物音がしなかったか?」

「気にすんな。看守がいつもみたいに囚人いじめてんだろ」

「それより、外で騒ぎがあったそうじゃないか。俺たちは行かなくていいのか?」

「ここを留守にするわけにはいかねえだろ。行きたきゃお前だけで行けよ」

「それに今の俺たちにはこっちの戦場が……おお~っと! またまた俺様の一人勝ちだぜ! ガハハハ!」

「チッ、バカヅキ野郎が」

「ZZZzzz……」


 どうも真面目に勤務している奴はいなさそうだ。


【ドアの向こう側に警備兵が五人、一人が食事中、一人は居眠り、三人はサイコロでギャンブル中です。また、夜勤続きのため判断力が30%低下しています】


 案の定、脱獄するには好都合だ。

 俺は勢いをつけてドアを蹴破った。


「な、なんだお前……ぐはっ!」


 看守から奪った警棒で、詰所にいた警備兵全員を瞬く間に気絶させる。

 元々持っていた剣は、捕まった時に押収されないようマルに預けておいたままだが、長くて振り回せる物であれば問題はない。


「悪いな。恨むなら俺に濡れ衣を着せたクソガキを恨んでくれ」

【脱獄の上、暴行および公務執行妨害の罪が加わりました。この町には数年は立ち入らない方が良いでしょう】

「誰のせいだ、誰の」


 詰所の裏口を開け町の通りに出ると、警備兵の言っていた通り外がなにやら騒がしい。

 怯え、逃げまどう人々の流れに逆らい通りを歩くと、騒ぎの元は広場にあることが分かった。


【町の広場で戦闘が行われているようです。それと、この星ではあり得ない音が聞こえてきます】

「あり得ない音?」


 耳を澄ますと、町人の悲鳴や警備兵が怒鳴るように指示を出す声、武器がなにか固いものにぶつかる音など、さまざまな音が聞こえてくるが、その中に一つだけ俺の聞き慣れない音があった。

 小気味のよい、渇いた音。形容するなら、「タタタタ」「ドタタタ」といった音だ。


【あれは銃声です。それも信じられないことですが、小型のマシンガンの発射音に近似しています】

「マシ……なんだって?」


 スリサズから意味不明な単語が出てくるのはいつものことだが、その意味不明な物がこの先にあるということか?


【本当にマシンガンがこの星に存在するのであれば、広場には行かずこのまま町を離れることを推奨します】

「それは武器の名前なのか? どんな武器だ?」

【この星の文明レベルに最適な説明文を構築します。火――金属――塊――魔法――高速。想定可能な文明レベルの下限を超過しています】

「早くしろ! このポンコツ!」

【では銃の基本的なことだけ説明します】





 広場にたどり着くと、倒れている警備兵たちの中央にそびえる人型の影を発見した。


「だ、駄目だ! 退け! 退けーッ! うぐっ……」


 俺が広場に着くのと入れ替わるように、指揮をとっていた隊長らしき男が退却を命じ、身を翻して逃げようとする。

 その直後、影の腕が点滅するように数回光ると、隊長の背中がなにかに貫かれ、いくつもの小さな穴から血が吹き出した。そのなにかは隊長の体を貫通して地面に当たり、砂埃を巻き上げる。

 まだ動ける警備兵たちはそれを見て、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


「あれが鉄の弾丸……なのか? まったく見えなかったぞ」

【通常、人間の神経伝達速度では銃弾を視認・回避することは不可能です】


 砂埃が晴れると、巨大な影が鮮明に俺の目に映し出された。


「……ゴーレムか」


 体全体が土で作られた巨人、モンスターの中ではそう珍しいものではない。

 しかし胴体を覆う金属の鎧と、右手の先端が細長い筒状になっている奇妙な造形は俺の知らないものだった。

 そもそも鎧を着たゴーレムなど見たことも聞いたこともないし、こんな町中に現れるという情報もない。


「あの右腕がマシンガンとかいう武器か?」

【私の記憶している同兵器に比べるとデザインに難がありますが、形状から見て間違いないでしょう】


 ゴーレムは俺に気づき、右腕を上げ先端の筒をこちらに向ける。

 殺す相手が他にいなくなったからだろうか、今度は俺を標的にしたようだ。


【今すぐ左に退避してください。なぜかを説明する時間はありません】


 俺は即座に左に跳び込み、レンガの塀に身を隠した。

 それとほぼ同時に、ゴーレムの右手から例の小気味良い音が聞こえ、俺の元いた場所を銃弾が風を切って通過していった。

 その速さは、見えなくても当たればただでは済まないことが容易に想像できる。


【銃口の前には立たないようにしてください。銃口とはあの小さな筒に空いた穴のことです】

「そこまで言わんでも大体分かる」


 レンガの塀から少しだけ身を乗り出し、ゴーレムの様子を探る。

 あまり知能は高くないのか、俺を見失い、土で出来た頭をキョロキョロと動かしていた。

 頭に付いた一ツ目が瞳孔を拡大縮小させながら辺りを見回す。


【あの人形に取り付けられているのはマシンガンだけではないようです。頭に取り付けられた視覚センサーも地球の技術です】

「言われてみればお前の目と似ているな」

【一緒にしないでください。あれは何世代も前の化石のような構造です。この星にとってオーバーテクノロジーであることには変わりありませんが、私と比較したら雲泥の差、提灯に釣鐘です】

「分かった分かった」


 分かってないが、いずれにしろスリサズが元いた世界の装備を持ってるということだ。


「それじゃあ、お前ならあれの弱点とか知ってるんじゃないのか?」

【データベースから類似の設計書を検索します。全てを検索するには数分かかります】


 それまで奴に気づかれなければいいんだが。

 俺がそう思い、塀を伝ってゴーレムから離れようとした時だった。


 ズダダダッ――! ダダダダッ――!

 再び例の音、マシンガンが発射された音が聞こえた。


「見つかったか!」


 俺は身をかがめ、ゴーレムの方を見た。

 しかし、巨人の目は俺を見ておらず、右腕の銃口もあらぬ方向を向いている。

 見つかったのでなければ、どこに向けて撃ったのか――


「キャアァァァーーーーッ!!」


 ゴーレムの見ている方向から女の叫び声が聞こえた。

 ……どうやら隠れているわけにはいかなくなったようだ。





「た、助け、助けてください……!」


 逃げ遅れた女は子どもを抱きかかえ、怯えきった目でゴーレムに命ごいしていた。

 しかし、モンスターに言葉が通じるはずもなく、無情にも銃口を女の頭に向ける。


「ひっ……!」

「おいデカブツ、相手が違うぜ」


 マシンガンが火を噴く直前、俺は横から銃口に蹴りを入れ、さらに警棒で頭に付いた一ツ目をぶん殴る。金属の目から火花が散り、一時的に視界を失ったようだった。

 ターゲットを逸らされたマシンガンは、あらぬ方向に銃弾をまき散らし、女のすぐ隣の木に穴を空けた。


「早く逃げろ!」

「あ、ありがとうございます……あ、あとできたらこの子のこともお願いします!」


 女はそう言うと抱きかかえていた子どもを俺に向けて差し出す。

 子どもはフードとマントですっぽりと覆われており、顔を見ることができない。


「あんたの子じゃないのか?」

「はい、たまたま同じ場所に隠れていたんですが、どこの子か分からなくて……」

「ジョ~~ン~~~ッ!!」


 聞き覚えのある声で泣き喚きながら、その子は俺に抱きついてきた。


「マル!?」

「早く脱獄して来んか! 殺されるとこだったぞ!」


 相変わらずムチャクチャを言う奴である。


「お知り合いですか? それにその角や鱗は……?」

「説明してる暇はない。あんたは早く逃げろ」


【ゴーレムの視覚センサーが回復します】


 怯んでいたゴーレムが体勢を立て直し、こちらに銃口を向ける。

 俺はマルを抱えて近くの塀に逃げ込み素早く身を伏せると、頭上を無数の弾が飛び去っていった。


「なんなのだあの変な魔法は! 警備兵がまるで歯が立たんかったぞ!」

【魔法ではなくマシンガンです】

「マシ……? なんだそれは」

「そのやり取りはもうやった。弱点はまだ分からんのか」


 ゴーレムは右腕を構えながらゆっくりとこちらに歩いてくる。

 撃ってくるのも時間の問題だ。


【検索結果を出力します。あのゴーレムの装備に一番近い設計書はおよそ200年前の暴徒鎮圧用無人兵器のものです。対処法をオペレーションしますので指示に従ってください。くれぐれも指示には従ってください】

「なんで繰り返す?」


 俺は訝しみながらもマルから剣を受け取り、スリサズを懐に入れてゴーレムの前に飛び出した。

 土の巨人はすぐさまこちらに銃口を向けマシンガンを乱射してくるが、弾はギリギリのところで当たらず近くをかすめていく。


【先ほどの視覚センサーへの打撃により、反応が遅延しているようです。横方向へ移動し続ければ照準が外せるでしょう】


 指示通り、俺はゴーレムの周囲を円を描くように走りながら、徐々に近づいていく。

 そして土で出来た巨体を駆け上がり、背中の鎧にしがみついた。


【体に取り付けば関節の角度から計算して銃口を向けることはできなくなります。あの装甲は背面の接続部が脆弱になっており、隙間から板などを差し込めばテコの原理で剥がすことができます。テコの原理を説明する時間はありませんので、その剣を差し込んだら体重をかけて引き倒してください】


 しがみついた体と鎧の間に剣を差し込み、体重をかけて思いきり引っぱる。

 ベギィンッ――!

 激しい音を立てて装甲が剥がれ、中にある無数の歯車やネジがむき出しになった。

 こうなったら後は指示を聞くまでもない。


「おおォっ!!」


 俺は短く気合の雄叫びを上げると、むき出しのまま回り続ける歯車に剣撃を何度も叩き込む。

 内部の機械をバラバラに砕かれたゴーレムの目はやがて光を失い、その場に崩れ落ちた。


【指示遂行率は63%でした。あなたなら上出来と言えるでしょう。SNSには記録更新と書いておきます】

「今回はちゃんと全部従ってやっただろうが」

【装甲を剥がしてから正規の機能停止手順があったのですが、それを無視しました。なぜ地球の技術がこの星にあるのか解析したかったのですが、あなたがメチャクチャに壊したせいでそれも不可能になりました】

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