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10 万ボルト

 村長のゾンビは首を失ってもしばらく俺の体にしがみつきジタバタと暴れていた。


「くそ、離せ!」


 俺は腹に蹴りを入れてまとわりつく死体を部屋の外へ叩き出す。

 村長の胴体は首無しのまま手足をばたつかせ、次第に動かなくなっていった。

 ゾンビは頭を潰すか胴体と切り離せばいずれ死ぬが、人間に比べて動きが止まるまでが長く、戦士一人で相手をするのは効率が悪い。

 近接戦闘を生業とする俺のような戦士にとって、そのグロい外見に触らなければならないことも相まって、ゾンビは戦いたくないモンスターの上位に位置する。

 パーティーにいた頃は仲間の魔道士が炎の魔法で一網打尽にしてくれたものだが。


【業界の慣例に基づき、彼の体内には接触感染性のウィルスが繁殖しているようです。爪で引っかかれた場合の感染確率は23%、噛みつかれた場合は57%です】


「ああ、けどなんとか倒した。これで終わりだ」

【それは正確ではありません。私の母星ではこのような諺があります。『ゾンビを一匹見たら――】


「ギャアアァァァァッ!!」


 聞き覚えのある竜の咆哮のような悲鳴が廊下から近づき、スリサズの講釈が中断された。


「な、なんじゃこいつらはあぁぁッ!」


 そちらを振り向くと、マルが後ろに何匹ものゾンビを引き連れて向かって来ていた。

 マルはダイブするようにこの部屋の中に飛びこ……もうとしたところを無数の手に掴まり、ゾンビの群れの中に引きずり込まれ見えなくなった。


「……ドラゴンもゾンビになるのか?」

【人間ほど事例は多くありませんが、比較的ポピュラーな部類と思われます】

「いだだだだッ! はぁ~なぁ~せぇ~ッ!」


 思ったより元気そうな声が群がるゾンビの山の中から聞こえてきた。

 ゾンビの隙間から時折見えるマルの様子は、あちこち噛みつかれてはいるが、硬いドラゴンの鱗や角が邪魔で歯が通らないようだった。逆にゾンビの歯が欠けている。


「離せと……言っておろうがぁッ!!」

【マルの体温が急上昇しています】

「なに?」


 その時、突如マルの体が発光し、廊下一面に稲妻が走った。

 マルに群がっていたゾンビたちは一斉に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた後も痙攣して動かなくなった。


 これもドラゴンの力の一端だろうか。

 山の草木を薙ぎ払ったサンダーブレスとは比べものにならないが、それでも大した威力だ。今まで隠してたのか?


「わっ、今なんかでた」


 不本意か。

 声には出してないが褒めて損した。


【体内に蓄積した電気を放出できるようですね。黄色いネズミには私から謝罪文を送っておきましょう。FAXで】



「おい、大丈夫か?」


 体中の鱗や角が歯型だらけになったマルに手を差し伸べる。

 マルは俺の手を振り払うと地力で立ち上がり、地団駄を踏んだ。


「なにが大丈夫かじゃ! 見殺しにしおって!」

【ミステイク・ドラゴ(失敗腐敗竜)ンゾンビになる心配はなさそうです】


 頑丈な奴である。ひょっとしてゾンビになる危険があるのは俺だけか?


「し、しかし力が抜けたぞ……竜の姿に戻る日が遠のいていく……」


 マルはぜえぜえと息を切らせ、電気を消費したことを嘆いている。


【無計画な浪費は社会性欠如の表れです。蓋のない貯金箱の利用をおすすめします】

「やかましい! お前が電気を奪わなければこんなジリ貧にならずに済んだのだぞ!」


「……おい、言ってる場合じゃなさそうだ」


 俺は廊下の向こうを指さした。

 不毛な言い争いを聞きつけ、再びゾンビの集団が行列を作って迫ってくる。


【第2ウェーブのようですね。目視だけでも前回の2.5倍の人数を計測しました】

「逃げるぞ!」


 バテているマルの手を引き、俺はゾンビ共と反対側へと走り、窓を蹴破って外へ飛び出した。

 どこに隠れていたのか、外もいつの間にかゾンビだらけになっており、俺たちに気づいて追跡を始めた。


「ハアハア……こ、こいつら結構速いぞ!」

【最近のゾンビ事情では走る個体も珍しくはありません】


 マルが息を切らしながら背後を見る。

 追ってくるゾンビはメチャクチャなフォームながら俊敏な動きで俺たちを追いかけ、なかなか距離を離すことができなかった。

 追われている間にもその数は増え続け、100体はゆうに越えているように見えた。


「どういうことだ!? この村の住人だけじゃないぞ!」

【通りかかった旅人や冒険者を襲い数を増やし続けていたようです。このままでは私たちもお友達の輪に加わることになるでしょう】


 村から離れてもまだゾンビは追ってくる。

 やがて、逃げまどっている俺たちの目の前に広い川が現れ、さらにその向こうには第一目的地である町が見えていた。


「行き止まりだぞ! どうするのだ!?」

「いや、川を渡ろう。ゾンビもまさか泳いでは渡ってこれないはずだ」

【川の水深はせいぜい膝丈程度です。ゾンビを溺死させることはできません】

「いいから渡れ!」


 俺たちは川底の泥に足をとられながら、ザバザバと川を渡る。

 ゾンビたちも続いて中に入り、川の水流を受けて転ぶ。しかし完全に足を止めることはできず、転んだゾンビを踏み台にしながら、後続がゾロゾロと川を越えようとしていた。


「ま、まだ追いかけて来るぞ! 町に逃げ込むのだ!」

【それは推奨できません。ゾンビを引き連れたまま町に入ると80.8%の確率でパンデミック(広域感染)に陥る恐れがあります】


 ポンコツにしては珍しくもっともな意見だ。このまま町に入るわけにはいかない。

 俺は川を渡り切ると、マルに声をかけた。


「なあ、さっきの電撃はまだ使えるのか?」

「ん? まあやり方はなんとなく覚えたからもう一回ぐらいなら……なんで首を掴むのだ!? やらんぞ! 絶対やらん!」


 俺は問答無用でマルの首根っこを掴むと、ゾンビのど真ん中に放り投げた。


「い゛い゛いや゛あ゛あぁぁぁぁ~~~ッ!!」


 ザッパーンッ。

 悲鳴を上げながら小さくなっていくマルが川に着弾すると、ゾンビが一斉にそちらを向く。

 しかし奴らが襲いかかる前に、パニックになって放ったマルの電撃が水を伝わり、川の中にいた全てのゾンビを感電死させた。

 川に入っていなかった何匹かはまだ生き残っていたが、後は個別にとどめを刺していけば良い。

 とにかくゾンビの集団が町になだれ込む事態は阻止されたのだ。


【反社会的行為ですが、この状況においては素晴らしいアイデアですね。#ゾンビと#幼児虐待のハッシュを付けてSNSに流しておきます。おや、NGが出ました。『ガイドラインに抵触』だそうです】

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