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エピローグ

 殺意に満ちた鉛色の兵士達に囲まれたノールとメルト。ふたりが助かる道は、もはやどこにも残されてはいなかった。彼らの心中を想像して、トラヴィスは嘲るような口調でありながらも賛辞を呈する。


「いやいや、しかし驚きましたよ。城で決着をつけるとは書きましたが、それは城門前で決まるものだと思っておりましたからねぇ。まさか、城に侵入されるとは思いませんでした。結末までは変えられなかったようですがねぇ」

「なぜ、俺達が別の場所から侵入するとわかった?」

「見た者がいたんですよ。城の壁を懸命にのぼっている君達の姿をね。大変な苦労だったと思いますが、残念でしたねぇ。報告を聞いた私が、ここで待ち伏せる作戦を考案したというわけです。ひっひっひっ!」


 全てが思い描いた通りになり、愉快に嘲笑うトラヴィス。

 絶望的な状況なのは誰の目にも明らかだったが、ノールもまた楽しそうに笑い声をあげた。


「くっくっくっ、優秀な兵士がいてくれて良かったな。次からは、想定外の事態にならねぇよう抜かりない物語を書くんだな」

「おやおや、ノールくんはこんな状況でも笑えるのですか。素敵な助言は大変ありがたいですが、次の機会があったとしても、君には関係のないことですよ。ここで死を迎える、君にはね」

「そう言うおめぇにだって、次の機会が訪れるたぁ限らねぇぜ。人生ってのは、何が起こるかわかんねぇもんだからな」

「随分と偉そうに言いますねぇ。私はもう充分に理不尽を経験しました。これからは、私が人の生を制御します。そのための力が、私にはありますからね」

「おめぇの人生は、ろくな結末じゃねぇんだろうな」

「君ほどではないでしょう。亡くなった両親の怨みに支配され、本の物語に踊らされた挙句に命を落とす君ほどの悲惨な終わり方は、数ある結末の中でも稀有な悲劇だと思いますよ。ひっひっひっ」


 法衣の袖から両手を伸ばし、トラヴィスは大仰に腕を広げた。


「数々の不幸を乗り越えて、憎き敵の討伐という幸福を掴みかけた主人公! しかしその嘆願は叶うことはなかった! 親から引き継いだ恨みは解消されることなく、また次の誰かに継承されるでしょう! この物語は、君達と私で作り上げた、次の世代に意志を繋げる素晴らしい作品でしたねぇ! ひっひっひっ!」


 法衣の裾を翻して、トラヴィスが王の間へと戻っていく。扉の前に立っていた兵士が、開いた扉を閉めていく。

 感情を昂ぶらせるトラヴィスを、ノールはなおも笑みを浮かべて見つめていた。

 けれども決して余裕があるわけではなく、焦りを隠すための虚勢である。

 兵士達は彼の笑いを不気味に思うが、トラヴィスはその心境を見抜いていた。閉じかけの扉の奥で振り返ったトラヴィスは、特段動揺した様子もなく選別を告げる。


「〝主人公とヒロインの国王討伐は叶わず、二人の旅はそこが終点となった〟。これにて物語は完結です。ひっひっひっ――」


 完全に扉が閉まると、トラヴィスの笑い声も分厚い壁に遮られた。それを合図とするように、ノールとメルトを囲む兵士達が彼らに詰め寄っていく。

 八方に立った兵士が剣を頭上に振り上げる。その表情は兜に隠されており、知る術はない。掲げた殺意だけが、確かな真実として振りかざされている。

 命が失われる寸前になっても、ノールとメルトは笑みを崩さない。傍から見たら余裕を感じさせる表情のまま、背中合わせで兵士達の剣を注視する。

 掲げられた剣がいつまでも静止しているはずもなく、八つの剣は、一斉にノールとメルトに向けて振り下ろされる。

 その刃によって、ふたりの物語に幕が下ろされた。

 ノールとメルトの国王討伐は叶わず、二人の物語はそこが終点となった。

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