鏡を視る
気が付くと、俺は鏡に映る俺自身を見つめ返していた。
どうやら俺は椅子に座っているようだ。そして頭を動かせない。
……俺は今まで何をしていたんだ?
そうだ。
意識を失う前まで俺は、レインコートの怪しい奴からいたぶられていたのだ。様々なところを浅く深く切り刻まれながら、最後は頭に向けて包丁を振り下ろされたところまでは覚えている。
側頭部が痛い。受けたダメージで視界がチカチカとする。
頭を触りたかったのだが、両手の自由が利かないことに気が付いた。どうやら俺は、椅子に座らされた状態で縛り付けれているらしい。椅子の背に手錠か何かで両手ががっちり固定されている。
正面の鏡を見て確認できたのだが、両足もご丁寧に椅子の足に縛られていた。
しかし、一番の問題はまばたきができないことだった。目が乾燥してたまらない。
頭自体は、処刑人がよく座っているような電気椅子の要領で固定してあるみたいだった。
鏡を通して顔をよく見ると、俺の目はテープで閉じられないようにしてある。そのために俺は切り傷だらけで血に汚れた自分の顔を、ただ見つめていることしかできなかった。
かろうじて動く眼玉だけをぐりぐり動かし、部屋の様子をうかがう。俺が拘束されている部屋は四方八方を鏡が塞いでいた。
椅子に座らされた無残な姿の俺がたくさん鏡の中にいる。レインコートの人物がこんなことをやったのだろう。
なんとも悪趣味で吐き気がする。
そんなことを思っていると、俺の背後でがちゃりと音がした。
後ろの鏡が仕掛け扉のように開いて、誰かが入ってくる。
「オ、そろそろ目が覚める頃ダと思ったヨ」
レインコートのアイツだった。
さっきまでの一方的な暴力に自然と顔がひきつったのが分かった。
「そんなに怖がらなイでよ、傷つくなア」
親友のように気さくに話しかけてこられても恐怖が収まることはない。
「さテ、ちょっと試してみたいことがあってねエ。君には、このお部屋に来テもらったの」
レインコートは俺の周りをスキップしながらぐるぐる回る。
「何年か前に、ここでの“お遊び”がバレてしまってネ、最近やっと落ち着いたから今回はいろいろ試したいんダ」
「マさか君も来てくれるとは思わなかったカラね。君にはもう少し頑張ってモらうヨ」
とん、とん、とん。
奴は足音をそろえて俺の前に立った。
頭を傾げて俺の顔を覗き込む。相変わらず顔は隠れてよく見えないが、にやにやとする口から覗く、矯正を入れている歯だけははっきりと見えた。
「サて、今から君にやってもらうのは自分の顔を見つづける、ただそれだけたヨ」
君の目が覚めた瞬間からこのお遊びは始まっているんだけどネ、と話す。奴が至近距離で話すと、クチャクチャと唾液で粘つくような音がした。
「このお遊びは、鏡を見つづけるというよりモ自分の目を見つづけることに意味があるんダ」
「人ってね。見つめ続けられることが結構なストレスになるらしいのヨ」
「ま、べたな話だけど、少しの間見つめ続けているだけデ在りえないものが視えちゃっタりするって」
さて、君にハどんなものが視えるかナ?
そうセリフを残してレインコートは鏡の向こうに消えた。
5分経ったと思う。
今のところ何も変化は感じない。
しかし、自分を、正確には奴のいったとおり自分の目を見つづけることはかなり疲れる。
なんとか目を逸らそうと努力していたのだが、自然と誰かに見られているような気になり、そわそわと落ち着かないのだ。
もっとも、見ているのは鏡の向こうの俺自身なのだが。
10分経ったのか?
時間がゆっくりと流れているように感じる。
鏡の自分自信を見つづけるのにだいぶ慣れてきた。
じーっと見つめあうことだってできる。
30分経った……?
なぜだが無性に見つめられることが怖い。
なんともない、見慣れた俺の顔なのだが時々、顔中に目がいっぱいあるようにも視える。
口や鼻、眉毛が無くなって目がいっぱいあるように。
50分。
幸せなような、悲しいような、辛いような、そんあ人の表情が視える。
なんでそんな顔おしてるの?
俺みたいに笑うといいヨ。
2じかんたったy・
ひゅはあhああ。
たのsいようナ。
こwいよう
鬼がいっぱい居るyお。
えhえhえへ・
かゆいヨ・
かおじゅうがかyいよ。
ぽ。
6じかn
おなkすい……
お手てをだbたいよ・
えへへえh。