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わかっていたのに、僕はもう後悔しはじめていた。同情で成り立つ関係は必ず破綻する。僕はそれを知っていたのに、向こうが自分の内側に入ってくることを拒まなかった。もっと未然に防ぐべきだったのだ。入ってこられたら、後は受け入れるしかなくなる。しかし、僕には拒絶することが、どうしてもできなかった。それはあまりにも酷い仕打ちで、とても耐えられそうになかった。受け入れてしまう方が傷が深くなるというのに、いまを誤魔化すことを選んでしまった。本当は、いますぐにでも止めるべきだったのに。
「ねぇ、この背中にある痕はどうしたの? 結構痛々しいけど……」
「あぁ、以前、事故にあってね。その時にできた傷だよ」
細い指先が傷痕を撫でる感触があった。最初は遠慮がちに、次第に慈しむように。
「誰かがいてくれると思うと安心する」
背中に抱きついてくる柔らかさを受け止めながら、僕は再確認する。やはりその想いは受け止められそうにないことを。
「猫を飼うといいよ」
「一緒にいてはくれないの?」
「他人は自分のためにいるわけじゃないからね」
「ちゃんとは答えてくれないんですか?」
「僕は清廉潔白な人間ではないけれど、ここで嘘をつかないぐらいには誠実なつもりだよ」
「それはご立派でいらっしゃるのね」
「僕だって人並みに狡いんだ」
「エクスキューズがあれば免責されると?」
「言質を引き出しても心は縛っておけないよ」
「約束しなければいいのでしょう?」
「それが欲しかったんじゃないのかい?」
「わたしはただ安心したいの」
僕らはきっと平行線だ。何が論点なのかも噛み合っていない。誤魔化してはいけないのに、面倒になった僕は、振り返ってその華奢な身体をまた抱き締めてしまう。そうやってやり過ごす術を知っているから。
そう、こんなにも僕は狡いのだ。
眼を閉じて僕に抱き締められる才谷さんは、いつもよりずっと子供っぽく感じられた。




