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藍色に熔ける  作者: 藍澤ユキ
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j:

 彼はどこか傷ついていて、大切な何かが欠けている。その不完全さが、わたしにはとても愛おしい。

 わたしの腕の中で寝息を立てている彼は、なんとも言えず可愛い。

 一回り以上年上の大人の男性を可愛いと言うのは、ひょっとすると変なのかもしれないが、事実、そう感じてしまうのだから仕方がない。

 でも、そう友達に話すと、みんな同世代の男の子の方がいいと言う。もしくは、欠損のなさそうな余裕のある年上の大人。

 たぶん、そう見せているだけで、そんな大人はいないと思うのだけれど、彼女たちは知らないのだろう。それに、同世代の男の子たちの可愛さは、子供っぽさと同義だったりする。同じクラスの海斗のことがいいとか言う娘もいたけれど、わたし的にはあり得ない。

 なんといっても彼らには傷が足りない。思春期のナイーブさによって付いた傷など、気持ちの悪い自意識の自作自演に過ぎない。

 わたしは、傷つけられて擦り切れそうになっている、でも、そういう脆さを必死に取り繕おうとしている、そんな大人がいい。

 わたしの与える愛情を余すことなく吸い込んでしまう。

 そんな渇いた人がいい。

 わたしを無駄にしない人。

 そうしたら、

 すべて受け入れてあげる。

 そうしたら、

 すべて与えてあげる。

 だから、わたしは彼が嫌がるようなことはしない。わたしまでもが彼を傷つけてしまったら、それはあまりにも可哀想だから。

 みんな貰うことばかり考えているけれど、与えることの快楽には終わりがない。

 だって、それは還ってくるのだから。

 わたしは眠っている彼の髪をゆっくりと撫でる。わたしのとも違う、繊細で滑らかな手触りを感じる。

 それから髪の中へ指を差し入れて、優しく丁寧に梳きおろす。さらさらと指の間を溢れていく柔らかな感触。

 彼は静かに寝息を立てたまま、触れられていることには気づかない。

 その寝顔は、まるで在りし日の少年のようで、わたしは抑えきれない胸の昂りを宥めるように、彼をぎゅっと強く抱き締めた。

 この確かさを、わたしは失いたくない。力を込めるほどに、わたしの輪郭は鮮明になる。

 自分は確かにここにいるのだ。

 眼を閉じて、彼の額にそっと唇で触れてみた。

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