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ナナさんはまだ出勤して来てなかったため、別の、お姉さんに依頼を受けることを伝え、俺は街を出る。
因みに、採集の任務は基本、ダンジョンでは行えないから、報酬が良いそうだ。勉強になったな。
「でもさ、なんでこの依頼を受けようと思ったんだ?」
「スララ」
「採集の依頼なら戦わなくて済むから?」
「スラ!」
成る程。確かに一理あるな。
てか、こいつ文字まで読めるのか? 驚きなんだが。
「まっ、そういうことなら、お前にもちゃんと手伝って貰うからな」
「スラ!」
アオも自分で選んだ依頼だけあって乗り気なようだ。
「こんな感じでいいか」
「スラ」
採取の任務チョロイわ。あっさり冒険者バッグ一杯の薬草を集めることが出来たんだけど。
というよりも、予想以上にアオが役立った。どの草を取るかってことを教えたら、あっという間に、同じ草を集めて来るのだ。
ひょっとしてこれって才能なんじゃないだろうか。これからはこういった依頼だけでやっていくのもありかもしれない。
だが、一つ俺は大事なことを考えていなかった。
それは、依頼が依頼たる理由だ。
本当に敵を倒さず、且つ、安全に採取を行えるなら、それこそ自分でやったらいいことだ
それを誰かに頼むってことは、つまり、それ相応の危険があるというわけで、
「なあ、あれなんだ?」
「す、スララ?」
アオも知らないらしい。
「植物ってわけじゃないよな?」
「スラ……」
よく見れば大きな鼻と耳もある。それに、ゆっくりとだが、自分の足で動いていた。
そんな植物がいるとは思えない。
てことは魔物か。だとしたら相当、ヤバいんじゃないか。
何せ、デカイ。とにかくデカイ。
体は、周囲の樹と変わらないほどに高く、全身は毛で覆われている。
今まで、魔物だと思わなかったとの無理はない。これほどデカイ魔物がこんなところにいるなんて、想像もしてなかったんだから。
けど、魔の森に結構、近づいてはいるが、少なくともここはまだ平原地帯だ。強力な魔物であれば、こんなところまで来る理由はないだろう。
てことは見かけ倒しってことだろうか。
ここは悩みどころだ。
戦うか、否か。情報だと、ここに強力な魔物が現れる可能性は低い。
「よし――帰ろう!」
「スラ」
いやね、幾ら安全かもしれないからって、危険を冒すのは馬鹿のすることですよ、やっぱり。
折角、楽して金稼げる方法を見つけたんだから尚更だよ。
安全第一。素晴らしいね。
「今回は、ちゃんと依頼達成のようですね」
今回は、ってところを強調するナナさん。けれど、この嫌味が、ちょっと癖になりつつあるので、俺としては問題ない。
こうなったら、可能な限りナナさんに受付して貰いたいし、そのうち勤務時間を調べさせて貰うとしよう。
あれ、これってストーカー? 違うよね?
「そりゃね。俺だって、いつまでも面白いネタを提供出来るわけじゃないですよ。芸人じゃないんで」
「面白いと思ったことなんて、一度もありませんからね」
「えぇ……」
これでもネトゲ仲間には、お前芸人になった方がいいよ、って言われてたんだけどな。
と、そんなことよりも、
「そういえば、採取が終わった後なんだけど、樹と同じくらい大きな化け物を見たんですよね。あれって大丈夫なんですか?」
「樹と同じくらい大きな化け物、ですか?」
「はい。多分、五、六メーターはあったんじゃないですかね。あと耳はエルフみたいに長くて、鼻も異様にデカかったですね」
測ったわけじゃないから、ひょっとしたら、もっと高かったのかもしれないが、少なくとも巨大な怪物であることに変わりはない。
「そんな魔物があの辺りにいるとは聞いたことがありませんが」
そうなのか……。
「見間違いではありませんよね?」
「それはないですって、アオも見たもんな」
「スラ!」
「ね?」
「ね? と言われましても。私にはその子がなんと言ってるのか分らないので」
「分かるでしょ、雰囲気で!」
「分かりませんよ!」
マジかー、てっきり、このくらいなら誰でも分かると思ってたんだけど。
「ですが、ニトーさんが見たという、化け物のことは気になりますね」
ナナさんは軽く握った拳を顎に当て、少し俯く。ううむ、考える姿も可愛い。
「分かりました、一応こちらで調べておきますね。場合によっては依頼に出すことになるかもしれませんので、その時はニトーさんも御同行して頂くことになるかもしれませんが」
少なくとも、俺一人の目撃証言だけで、依頼を出すのはまだ早いということなんだろう。
「了解っす」
「では、今日の報酬です。お疲れ様でした」