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6

 ギルドに戻ってきた俺は機嫌よく、ナナさんの元へ向かう。


「ああ、ニトーさん、戻ったんですか?」

 

 心底、嫌そうな顔と口調。

 本気で俺が死ぬのを願っていたのかもしれない。


「その態度、幾ら俺でも傷ついちゃうんですけど」

 

 それに、そういうプレイに目覚めちゃったら、どう責任をとってくれるのか。家まで押し掛けられる準備は出来てるんだよな?


「大体全部、アナタの責任だと思うのですが」


 大体全部って……

 言葉が、おかしい気もするけど、それだけ俺のことを嫌ってるということは分かった。

 だが、その程度で、めげる俺ではない。


「そこは仕事として割り切りなよ。君、社会人でしょ?」


 やれやれと肩を竦めてみせる。


「そういうニトーさんは、昨日までニートだったんですよね」


「そうですけど何か?」


 そのことを一切、恥ずることはないので、俺は即答した。


「………………」


 ナナさんとしてはかなりの悪口を言ったつもりだったのか、数秒の沈黙が続く。


「ま、まあ、いいです。ただ、愛想よくして欲しいなら、私ではなく、別の受付に行くのがいいと思いますよ」


 確かに他の受付さんも悪くはない。受付を担当しているだけあって美人だし、俺の視線に気づいて、にこりと会釈してくれたのも好印象だ。

 けれども、


「それは出来ない。何故ならナナさんの方が、ちょっと好みなので」


 これは決まったな。


「…………気持ち悪」


「やめて! そこはキモイとかで済ませて!」


 気持ち悪いって言葉、強力過ぎるよね。

 多分、攻撃力では最高レベルだと、確信を持てる。

 

「それで、依頼の方はどうなったんですか?」


「ああ、これこれ」


 俺は持って帰ってきたゴブリンの耳を取り出す。


「確かに」


 ナナさんは、特に嫌悪感を見せることもなく、耳を受付の横にあるボックスへしまう。俺との扱いの差に、少し傷つく。


「ああ、それと一応、ギルドカードを確認させて貰ってもいいですか?」


「了解ですっと」


 俺は言われた通りギルドカードを取り出し、手渡した。


「…………あの」


「なんです?」


「ゴブリンを討伐したことになってないんですが」


 まあ、それは当然だろう。


「だって、倒してはないんで」


「………………はい?」


 ナナさんは顔を引きつらせたような笑顔で、キョトンと小首を傾げる。


「だから、ゴブリンは倒さずに耳だけ貰ったんだって」


 今一、理解出来てないといった様子のナナさんに、俺は親切丁寧に説明した。


「あ、あの、討伐依頼だって分かってますよね?」


「でも、依頼内容はゴブリンの耳を持ち帰ることって、なってますけど」


「え、え?」


 俺が指で示した文を見て、ナナさんは目を白黒させる。

 確かに、この依頼は討伐依頼に分類されるものだ。

 というよりも、基本的には討伐と採取の依頼には二パターンしかない。

 極々、稀に護衛や捕獲の依頼も出るそうだが、それは今は置いとく。


「す、すいません、少しお待ちを」

 

 そう言って、ナナんはギルドの奥にある階段へと小走りで向かい、一気に駆け昇る。


「マスター! マスター!!」


 昨日は忙しい人だからと呼ぶのを渋っていたナナさんだが、今回は相当、動揺しているらしい。ギルマスを呼ぶ声が、ここまで聞こえた。

 そして、


「また、お前か」


「いや~」


 俺は後頭部に手を当て、恥ずかしそうに頭を下げた。


「褒めてるわけじゃないぞ」


 分かってるよ、お約束だね。

 ギルマスも昨日の今日で、結構、精神的にきているようで、ピクピクと額を痙攣させている。


「それで、ゴブリンを倒さず耳だけ持って来たって話だが」


「そうすっけど」


 俺の言葉にギルマスは、額を押さえる。


「一応、訊いとくが、どうやってそんな状況になったんだ?」


「どうって言われても、殺されるのが嫌なら耳だけ渡すかって尋ねたら、オッケー貰えただけっすよ」


「その説明で納得出来ると思うのか?」


 実に単純明快な答えだったと思うんだが、納得して貰えなかったようだ。

 というか、何が不満なのかさっぱり分らない。


「逆に何が悪いのか、ちょっと」


「マジか……」


 ギルマスは溜息を吐くと、再び口を開く。


「まあ、確かにこの依頼文に問題がないかと問われれば、否定は出来ないかもな。つっても、今までの歴史でこんな達成法をした奴、聞いたこともなかったわけだが」


「あの、それって今度こそ、褒めてくれてるんでしょうか?」

「嫌味だよ!」


 なんだ嫌味か。男ならハッキリ言えよな。


「それでも今回はこっちが悪い面もあるのは確かだ。依頼は達成したことにしといてやるよ」


 また小便漏らされたら堪らないからな、という声が聞こえた気がした。

 もうこのオッサンが見た目ほど怖くないと分かった今となっては、漏らす理由もないのだが、これからも脅しに使えそうだし、黙っておくことにしよう。


「というわけで報酬だ」


 三千ゴルド。家があって、飯も出てくる俺が一日で稼ぐ分には十分な額だ。きっとママンも喜んでくれることだろう。



 

「そう、良かったわね」


 俺の想像とは違い、特に喜ばれることもなく、労いの言葉さえなかった。


「か、母さんの給料ってどのくらいなんだよ!」


「そうね、日当に換算すると、五万くらいかしら」


 ………………俺、働く意味なくない?

 地味に傷つく俺だった。

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