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「さて、まずはギルドに向かうかね」

 

 門でひと悶着あったせいで、結構、精神的には疲れていたのだが、義務は義務として果たす必要がある。

 俺って立派だね。

 

 ………………待て、さっきのギャグとしてどうよ? 門でひと悶着。悪くないよね? 機会があれば是非、誰かに言いたい。

 

 俺は頭上に集まる視線を無視して、ギルドの方へと足を進める。

 やはりスライムを頭に乗せている奴ってのは、珍しいのだろう。しかし、乗せてみて分かったことだが、ひんやりとしていて、ちょっと気持ち良かったりする。

 ひょっとしたら、これはブームになったりするんじゃないだろうか。

 特許を申請しておいた方がいいかもしれない。

 俺はギルドに着くとドアを開け、中へと入る。

 夜は酒場になるそうだが、今は、カフェとしても機能しているらしい。恐らく、ギルドへの依頼者などが多く使用するのだろう。


「すいません」


「はい。確か、今日、冒険者になられた……ニトーさん、でしたよね?」


「そうです。アナタが美しいのでまた来ちゃいました」

 

 俺はテヘっと微笑する。

「…………ええと、それで何か御用でも? あと、そのスライムは?」

 

 なんか、引かれた気がするのは、思い違いだろう。

 それどころか、もう名前を覚えてくれてるなんて―――これは脈ありと見て、問題ないんじゃないだろうか?

 まあ、俺も、今やニートじゃないからな。こういう浮いた話が出てくるもの無理はない。いいや、当然と言っていいだろう。

 だが、だからこそ、落ち着くべきだ。

 ギャルゲ―から、エロゲーまで、それこそ無数の数をこなしてきた。ここで、この女を落として、孫の顔を見せてやることこそが、ママンへの贖罪になる。そうすりゃ、代引きで、ゲーム買いまくってたことも許して貰えるはずなのだ。


「最初に訊いときたいんだけどさ、君って彼氏いるの?」


 …………あれ、ちょっと早急過ぎたかな? よくよく考えてみれば、最近プレイしてたゲーム、抜きよりだったかもしれない。


「いえ、彼女ならいますけど」


「oh……」

 

 失敗したと思ったら、とんでもない情報を引き出してしまった。

 これは、今度から別の受付さんに声をかけるべきか。それとも、どんなプレイをしてるのか、詳しく聞くため仲良くしておくべきか。人生、最大の難問である。


「あ、そう言えば、依頼の報告に来たんだった、すいません」

 

 俺は取り敢えず、保留することを選んだ。


「そ、そうですか。確か、依頼はスライムの討伐でしたね。それで、どうでしたか?」


「はい、この通りです!」

 

 依頼達成の証として、俺は元気よくスライムを指差して答えた。


「……えっと、どの通りなんでしょうか?」

 

 強引に顔に貼り付けたような愛想笑い。

 どうやら、俺が言ってることを理解出来てないらしい。


「だから、倒したスライムを持ってきたんですって」


「で、でも、そのスライム、生きて、ますよね?」


「当然」

 

 いくらなんでも、死体を頭に乗せる趣味なんかないっての。ちょっと考えれば分かるだろ、普通。そんなんじゃ、いくら可愛くてもこの社会じゃやっていけないよ。


「あの、ニトーさんが受けたご依頼は、スライムの捕獲ではなく、討伐だったはずですよね?」


「大丈夫ですよ。ちゃんと倒した上で仲間にしたんで」


「その、そういう問題では……」


「じゃあ、どういう問題なんですか!?」


「ええっ!?」

 

 まったくもって酷い言い掛かりである。これじゃあ、俺がクレーマーみたいじゃないか。


「わ、分かりました。ニトーさんは冒険者になったばかりですもんね。正直、こんな状況になった方は初めてなんですが、詳しく説明させて頂きます」

 

 どこか毒がある言い方なのは気のせいだろうか。

 額もピキピキ引きつってるし。

 俺は一切、悪くないはずなんだけどな。


「まず、ニトーさんが受けた依頼内容はスライムの討伐です。討伐とはつまり、指定された魔物の殺害が目標となります」

 

 だから、俺は間違ってるというのか。しかし、結果が同じなら、問題ないと思うのだが。いいや、寧ろ、敵を仲間にするというのは、最良の結果と言ってもいいはずだ。

 決まりを守るためベターな選択をするのと、よりよい成果をもたらすであろう決まりを破ったベストの選択。

 俺なら後者を選ぶね、うん。


「そしてもう一つ大事なのは、討伐の証です。今回であれば、水スライムの核ですね。これは、ただ、倒したことを証明するだけでなく、この証。つまり魔物から得られる素材を目的としている場合もあります」


「………………」

「あの、どうかされましたか?」

 

 倒すことではなく、倒した結果、得られる物が目的だって? それは不味い。だとしたら、俺は正当性を失い依頼に失敗したことになってしまうじゃあないか。


「も、もし依頼に失敗したらどうなるんですか?」


「えっと、今回の場合、違約金として千ゴルドをお支払頂くことになります」


「俺に借金しろというのか、アンタは!?」


「ええっ!?」

 

 なんて血も涙もない。しかも、達成料と同額ときている。こういうのは、基本、半額だろ。


「Dランク任務は一律、同じ額を支払って貰うことになってるだけなんですけど」


「なんでだよ!?」


「なんでと言われても、決まりですので!」

 

 決まり? 恐ろしい言葉だ。

 決まりこそが、人類の進歩を阻害していると言ってもいい。


「どうやら、君相手じゃ埒が明かないみたいだな。上司を呼んで来てくれ」


「すいません、マスターは、お忙しい方ですので」


「マスターってのは、ギルマスのことだよな? 他に上司はいないのかよ?」


「幹部の方々は、最近の魔物の活発化によって、別の街に出向いているんです」

 

 へぇ、わざわざ危険なところに出向いてるのか。ギルドの重役ってのは、大変なんだな。

 だがしかし! 俺は遠慮しないぜ。違約金を払うとか、絶対に、ごめんだからな。

 そのためには、土下座から、暴力に至るまで、どんな手でも使う覚悟だ。


「なんだ? 随分と騒がしいな」


「え?」

 

 階段から降りて来た男の姿に俺は目を見開く。

 な、なんなの、この人? ヤバ気な雰囲気メッチャ出てるんだけど。つか顔、厳つ過ぎな。子供が見たら失禁するんじゃねえの、ってくらいのレベル。もはや凶器。

 そのくせ、ヤクザを想像させるような、派手派手なスーツ着こんでるんだから、質が悪い。

 けど、けどな!


「べ、別に、強面の男、連れて来たくらいで俺はビビらねえかんな!」


「いや、お前、何言って――」


「なんだ? 戦争か? カチコミか? なんにせよ、俺は絶対、自分の信念を曲げねえ!」


「まっ、待て、落ち着け。俺は今ここに来たばっかで、状況も理解出来てないんだぞ」

 

 なんだ、このオッサン? 俺を油断させる作戦か。だがな、俺はこう言った状況を何度も妄想してきた。故に、簡単に騙されるほど、甘くもない。


「つうか、お前、ズボン……濡れてないか?」

 

 俺はオッサンの言葉に促され、視線を下ろす。

 …………さっき、俺は言ったよな、このオッサンの顔、ガキなら失禁するレベルってさ。どうやら、俺、そのガキだったみたいです。

 こうなったら仕方がない。


「これは脅しだ。いいか、黙って要求を聞かないと、撒き散らすからな!」

「何を!? つうか、俺、その要求ってのを聞いてないんだけど!」

 

 受付さんが、今までの経緯をヤクザに説明すること数十秒。


「つまり、お前は、違約金を払いたくないってことなんだな?」

 

 驚いた、いや、恐ろしいことに、このヤクザは、用心棒やボディーガードでもなく、ギルドのマスターであるらしかった。

 俺は、ギルマスの問いにコクリと頷く。


「分かった。今回は、こっちの説明不足だったってこともあるようだし、本体そのものを持って来ちまったとはいえ、ちゃんと達成条件の核だってあるわけだ。特別に依頼達成を認めてやるよ」

 

 撒き散らされたら堪らないからな、という、ギルマスの呟きが、小さく聞こえた。

 どうやら、相当の脅しになったようである。これは俺の技の一つに撒き散らす、を追加しておくべきだろう。

 

 ――――――ニトーは撒き散らすを覚えた。

 

 まあ、発動する度、俺の人間としての尊厳は、著しく低下していくことになるだろうから、軽々しくは使えないけどな。


「でもな、別に違約金っつっても、直ぐに払う必要はなかったんだぞ。依頼の期限は三日あったんだ。これからも冒険者を続けるなら、明日行っても良かっただろ?」


「………………」

 

 そんなこと考えもしなかったですが、何か!?

 

 

 

 ギルマスは強面ながら、とても気のいい人で、新品の服をくれ、濡れたズボンと下着を変えさせてくれた。


「これちゃんと洗濯して返しますんで」


「いらねえよ!」

 

 そうなのか。多少、俺の小便がついてるかもしれないが、洗えば綺麗だと思うけどな。

 何であれ、これで街中を濡れたズボンで歩かなくて済むってわけだ。

 俺は素直に礼を言い、冒険者ギルドを後にしたのだった。

 こうして俺の冒険者としての初任務は、見事、成功を収めたのである?

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