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「坊主、そりゃなんだ?」


「おいおい、見たら分かるでしょ? スライムだよ」


 俺は、やれやれと頭の上に乗せたスライムをつつく。


「…………まさか、寄生されてるってわけじゃないよな?」


「なんでさ?」


「いや、頭にスライム被った奴なんか初めて見たからな」

 

 つまり門番のオッサンは俺がスライムに脳を操られてるんじゃないかって思ってるらしい。

 だが、そんな心配は、まったくもって無用である。


「安心してくれ。スライムが俺の頭の上に乗ってるのは、強引に俺が乗せたからだからな!」


「なんで!? なんで、乗せたよ!?」

 

 テンション高いな。

 モンスターを頭とか肩に乗せて歩くってのは、普通にロマンだと思うんだけど。ほら、六キロのモンスター乗せて旅してる十歳とかいるしさ。


「ま、まあ、いい。なんで乗せてるかは、この際、措いとくとしよう。だから、取り敢えず、そのスライムは外に帰して来こい」

「え、なんで!?」

「なんでって、なんだよ!? 魔物だぞ! 普通に入れられるわけないだろ」

 

 驚きだ。そんな決まりがあったなんて、知らなかった。

 現状を考えれば当然なのかもしれないが、


「でもスライムを美容に使ってるセレブとかいるって聞いたことありますよ」


「あれは、キチンとしたルートで取り引きされているものなんだよ。一般人は駄目なの」


「それは、困るな」


「こっちはもっと困ってるからな!」


「そういう問題じゃない!」


「じゃあ、どういう問題だよ!?」

 

 こんなことで、俺の計画を崩されたら堪ったもんじゃない。

 しかし、このオッサンも仕事なのだ。簡単には折れてくれまい。


「分かった、なら折衷案と行こう」


「あのな、折衷案だろうがなんだろうが――」


「そう言わずに取り敢えず聴いてくれって」

 

 俺はオッサンの言葉を遮って言う。


「いいか? 俺はこのままこいつを連れて通り過ぎる。オジサンは見なかったことにする」


「………………え、終わり? 今のでOK貰えると思ったの? てか、どの辺が折衷案なの? 俺の意見、まったく採用されてなかったみたいだけど!」


「大丈夫、大丈夫。オジサンは見てなかっただけだから、まったく罪はないから、ね?」


「ね? じゃねえよ! それはじゃ、俺は無能の烙印押されて首だから!」

 

 ううん、良い案だと思ったんだけどな。


「どうかしたの?」

 

 背後から聞こえたのは、透き通った、落ち着いた声。

 振り返ってみると、絹のように艶やかなプラチナブロンドの髪と、深い瑠璃色の瞳の女がいた。

 

 ふわりと香る花のような匂いは、何かの香水だろうか。さっきまで、魔物がいる街の外にいたとは思えない。

 この辺りではあまり見かけない容姿だが、俺がこれまで見た中では五本の指に入るほどの美少女だ。

 見たところ冒険者仲間、いや、防具を胸や手首といった最小限のところにしか付けてないのは、軽さを重要視しているからだろうが、どことなく、騎士っぽい感じもする。

 なんというか、高貴な感じ。


「ああ、シア様。実は、この坊主がスライムをどうしても街に入れたいと言うので、難儀していたところなんですよ」

 

 様、とな? この街で様付けで呼ばれる奴なんか初めて見たんだが。この街の領主相手でさえ、普通に、さん呼びだしな。


「そう」

 

 美少女ことシアは俺のことを興味深そうに繁々と眺める。

 これは、なんというか…………興奮するね!

 だがしかし、そこで終わっては男として情けない。俺はSでもMでもいける男。やられっぱなしは趣味じゃない。


「…………ねえ」


「なんすかね?」


「どうして私の胸をジッと見ているのかしら?」


「え、お互いに視姦し合う時間じゃなかったんですか?」


「私にそんな趣味はないのだけれど」


「フッ」


「何かしら、その勝ち誇った顔。ムカつくわね」


 美少女の顔を歪めたという時点で、俺の勝ちだからな。


「というか、こんな鎧の上から見ても仕方ないでしょ?」


「何を言うかと思えば。それを想像で補ってこそ、真の男というものだろ」


「…………変態ね」


「誉め言葉として受け取っておきます」


 俺は恭しく一礼する。


「うわぁ……」


「お前、今、めっちゃ引かれてるからな。分かってるか?」


 引かれてる?


「オッサン、嫉妬は見苦しいぜ」


「どういう思考回路してんだよ、お前!」


「知らないのか、女子ってのは意外と下ネタが好きらしいぞ」

 

 ネット情報だけど。


「バッカ、そういうのは時と場合がだな……いや、そんなことはどうでもいい。お前、この方を誰だと」


「ビルマさん、それは」


「あ、すいません」


 シアに窘められ、オッサンは言葉を濁した。

 なんだ? 何か秘密でもあるのだろうか。

 実際、様付けで呼ばれてたわけだし、何かはあるんだろうが。

 まあ、こういうのには極力関わらない方がいい。好奇心、猫を殺すって言うしな。

 シアは、ごほんと一度、咳払いし口を開く。


「それで、アナタは、どうしてそのスライムを街へ入れたいの?」

 

 この態度からして、やっぱ一冒険者ってわけではないのだろう。

 つまり、シアを納得させさえすれば、こいつを連れていける可能性は高まるってことだ。


「こいつが俺の仲間だからさ」

 

 高度な話術が使えるわけでもない俺は、ただ正直に答えた。


「仲間?」


「Yes」


「スライムに人を仲間だと認識する知能はなかったと思うのだけれど」


「そんなことないよ。なっ?」


「す、スラ……」


「……ねえ、そのスライム、凄く項垂れているわよ」


「ああ、多分、疲れてるんだよ。戦って仲間にしたばかりだし」


「戦って仲間に?」


「うん。だよな?」

 

 倒して仲間にする、もしくは弱らせて捕まえるのは昔からの伝統だろう。


「スラァ~」


「確かに、ちゃんと受け答えは出来てるようね。…………覇気がないのが、やっぱり、気になるけれど」

 

 シアは、人差し指を口元へ当て、何かを考える素振りを見せる。


「いいわ、その子が街に入るのを許可してあげる」


「ちょ、本気ですか、シア様?」


「ええ、このような時代だしね。戦える冒険者が一人でも増えるなら、その方がいいでしょ」

 

 おおっ! なんて話の分かる娘なんだ。


「最悪、役に立たなくても、民間人を守る壁くらいにはなるはずよ」


「え?」

 

 今、サラッと物凄いこと言わなかった? 気のせい?


「それに、もしスライムと、この男が暴れたところで、私一人で対処出来るもの」

 

 やっぱ、凄い毒吐かれてるんですけど! それとも、ただ自信の表れとかなんですかね?

 いや、どっちにしろ、軽く見られてるのは確かだ。

 それに、このスライムが暴れ出したら、俺まで罰されるっぽいのは、やめて欲しい。俺、やることはやっても責任は取らない派なんだよな。

 とはいえ、それを口にしたら、街に入れて貰えなくなりそうだし、黙っとくしかないんだけど。


「分かりました。そういうことでしたら」

 

 オッサンは渋々といった感じで頷く。


「助かるわ。ここの領主には、私から話を通しておくから」


「はい、よろしくお願いします」

 

 オッサンはそう言って、俺に視線を向ける。


「おい、坊主、今回はそういうことだから通してやるが、絶対に悪さするんじゃねえぞ」

「うっす! 了解っす」

「…………ホントに分かってるんだろうなぁ~」

 

 俺の敬礼が不服だったのか、オッサンは肩を落とす。

 俺としては完璧な敬礼のつもりだったんだけど、残念だ。

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