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「その、迷惑かけて、すいませんでした。ドアの代金は、必ず、弁償させますので」
ドアを壊され、バリケードまで解体させる手伝いをさせてしまった、店主に、俺は頭を下げて謝罪し、外へ出る。
取り敢えず、ギルドに向かえばいいんだよな……
それは分かっていても、簡単じゃない。
「頼むから、襲いかかってくるなよ」
ある程度実力があるなら、戦いながら進むのも手なんだろうが、俺の場合、一体に手古摺ってる間に囲まれるリスクの方が高い。
幸い、シアの、お陰が、数も減ってるようだし、避けながら進むことも不可能ではないだろう。
――――――と、信じるしかないだけだけどな。泣ける。
俺は恐怖に堪え走るが、。
「やっぱ、追って来ますよねー!!」
大して足が速いわけでもないし、逃げられないこともないが、前後左右、あらゆる方向から、襲ってこられたら、かなり厳しい。
何より、俺は、最近までニートだったのだ。長時間、走り続けられる体じゃないことは、誰にだって分かるだろう。
気合いで持ちこたえるにしても限度がある。
「こ、こうなりゃ、一か八かだ」
狭い路地裏にでも逃げ込めば、四方八方から襲われることはなくなる。前から来たら、ほぼ詰みだけど。
俺は覚悟を決め、細めの路地へと突っ込んだ。
ここを進めば、ギルドへは最短ルートだ。理にも適っている。
あとは運に――
「もうっすか!?」
路地に入ってから数メートル進んだところで、死霊が反対側から入り込んで来るのが見えた。
これは運がないより、恥ずかしい。カッコつけて一か八かだ、とか言っちゃったのに。
な、なんとかしないと……
「レクイエム!」
「え?」
突如として、前から突っ込んで来ていた死霊が、消え去った。
それどころか、追い掛けて来てたやつらも、
「くくく、我から逃げられると思ったか!」
「フィーナ!」
「ぬっ、ニトーではないか。どうしてこんなところに?」
それはこっちの台詞なんだが。
「つまり、お前は逃げ惑う死霊共を追い回し、ここに来たってわけだな」
「うむ」
成る程、死霊どもは俺に向かって来たんじゃなくて、こいつから逃げて来ただけだったのか。
なんにせよ、助かった。
「生者と変わらない姿の死霊は、倒し終わったのか?」
「全てと確証があるわけではないが、見当たる限りのものは倒したぞ。それに、住民のほとんどは家の中だし、そう心配することもないだろう。今は、街全体を浄化して回っているところだ」
「そうなのか」
シアと違い、死霊はドアを蹴破って、入ってくることはないみたいだしな。
そう考えると、宿屋の店主は本当に憐れだ。弁償代に色付をつけるよう、言っておこう。勿論、俺は払わないけど。
「それで、そっちはどうだったのだ?」
「しまった、急がないと、大変なことになっちまうんだよ!」
「むっ、それはどういう」
「話してる時間がない。そっちが片付いたなら、ギルドに戻ってくれ。俺は先に行く」
「それなら我も一緒に――」
俺は呼びかけてくるフィーナを無視して、ギルドへ急ぐ。
とにかく、間に合わなければ話に――
「なっ!?」
「おい、ニトー、あれは……」
シアのやつ、止められなかったのか。
こんな離れたところからでも目視、出来る巨体。
「マジでトロールが復活しちまった」