13
眠い、辛い、しんどい、起きたくない……
人間関係の大変さを改めて知ったよ、俺。
ストレス解消にと、ゴブリンを土下座させた写真をネットに投稿したりしたが、全然、受けなかったし、本当に散々だ。
今日は休もう。人間には休息が必要だ。
ドンドンと、荒っぽいノックが俺の脳を覚醒させる。この次の展開は、長年の経験から、予測済みだ。
「起きなさい! 女の子がアンタを訪ねて来てるわよ!」
ノックの返事も待たず、母さんは扉を開ける。
これじゃあ、ノックの意味がないと、ずっと言ってるのに改善されないのは、そもそもからして改めようという意思がないからだろう。
「女の子って、どんな子だった?」
俺は怒る気力もなく、そう尋ねる。
「薄い金色の髪の可愛い娘だったけど、そういえば、この辺だと見かけない容姿ね」
間違いない。シアだ。
今となっては、敬称さえ付ける気は起きず、寧ろ敵意さえ持っている。
もし、ギルマスが間に入ってくれなかったら、俺の貞操さえ危なかったかもしれないんだからな。
そんな危ない女、絶対に会いたくない。
「ほら、早く行きなさい!」
「やだ! 絶対にやだ!」
布団に潜って、俺は拒絶する。
「なに、子供みたいなこと言ってるのよ」
なんと言われても構わない。会いたくないものは、会いたくないのだ。
「いい加減にしないと、また家から追い出すわよ」
その程度の脅しで、
「アンタがいない間、果たして、この部屋のコレクションが無事だと――」
「この鬼!」
力関係は明白で、俺は脅しに屈するしか他なかった。
早々と着替えを済ませ、アオを頭に乗せると、俺は階段を降り、玄関へと向かう。
「お待たせして、申し訳ありませんね」
心にもないことだが、一応の礼儀として、俺は謝罪する。
「気にしてないわ。私が無理矢理、押しかけたようなものだし」
「ですよね」
分かってるじゃないか。
いくら美少女でも、俺は遠慮しないよ。責める時は、これみよがしに責める男だと知るがいい。
「ええ、だから、アナタに合わせて、お昼前まで、待ってから来たのだけれど、どうやら、まだ寝ていたようね。申し訳ないわ」
嫌味か? 嫌味だな!
なんとか、言い返してやろうと、俺は頭を捻るが、
「おい、我らをおいて、勝手に話を進めるんじゃない!」
「え、ボクとしては面白かったですけど」
むうっと顔を顰める我っ娘と、それを楽しそうに眺めるボクっ娘。
どういうことだ? 来てたのはシアだけじゃなかったのかよ。
俺はそんなことに今更、気が付く。
「彼女達は、私の協力者で、パーティーメンバーよ。アナタと二人だと、万が一があった時、危険だし、同行を、お願いしたの」
「お願いしたなんて他人行儀ですね。もうパーティーを組んでから半年近くになるのに」
「わ、我も同意見だぞ」
「ふふ、そうね。ごめんなさい」
なんというか、こういうのは微笑ましい。正直、女子になって、是非とも交ざりたいという気持ちになる。そうすりゃ、胸とかだって揉み放題だろうし、ぐふふ。
「万が一、私がニトーに襲われそうになったら、助けてくれると助かるわ」
「万が一の心配ってそんなことなの!?」
危険な魔物が出たらとか、非常事態に備えてのことだと思ったのに、酷過ぎる。
「冗談よ。例え、寝込みを襲われても、私がアナタにに組み伏せられることはないわ」
もっと、酷いじゃねえか!
女ばっかのパーティーが嫌だといったクルスの気持ちが、少しだけ分かる気がした。
ギルドへ入ると、また野郎共が騒ぎ始める。
予想してたことだけどさ、これは鬱陶しい。
「お、お前、姫だけでなく、フィーナちゃんまで……畜生、俺はフィーナちゃん派だったのに!」
「お前、ロリコンかよ。俺は断然、ロゼッタちゃん派だな」
「そんな変わんねえだろ! てか、胸はフィーナちゃんのがデカイんだから、ロリコンはお前、なんじゃないのか?」
「い、言いやがったな……」
いや、予想してた以上に鬱陶しい。
どうやら、会話の流れからして、我っ娘とボクっ娘にも一定のファンが付いているようである。ちょっと、変わってるが、美少女だし、冒険者という付加価値もつけば、おかしくはないのかもしれない。
あれ、でもフィーナって……
「き、貴様達、随分と好き勝手言ってくれるな」
「ホントですね。誰の胸が小さいって?」
二人の声は怒りに震えており、男たちは顔を青褪めさせる。
「ゆ、許し――」
「駄目だ」
「そうですね、女の子の身体的特徴を馬鹿にするなんて、万死に値しますよ」
「ひ、ひいいいいいい!」
我っ娘とボクっ娘の脅しに、男どもは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
なんなの、この娘たち?