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「どうよ、どうよ?」
俺はギルドにて、新たな武器、新月をこれでもかと見せつける。
こいつを見せた時の反応は主に二つだ。
「どうと言われても、なんで黒いんですか?」
冷静すぎる奴と。
「ち、ちょっと触らせてくれ!」
目を輝かせるほど、興奮する奴。
「ふ、ふん、なんだそりゃ。武器に色なんざついてても、なんの役にも立たねえっての」
ああ、素直じゃない奴を合わせて、三つだったか。
しかし、分かりやすいのは、男には受けが良く、女にはそうでもないということだ。
まあ、男のロマンは女には分からないってことかな。
「おはようございます」
「うげっ」
「…………なんですか、その反応は?」
ナナさんはジトっとした目で俺を見つめる。
不味った。昨日のことで、変に動揺してしまった。
けど、この時間に出勤してきたってことは、まさか、朝まで一緒だったとか? さ、流石にそれはないよな。
「い、いや~、朝からナナさんみたいな美女を間近で見て、ビックリしちゃってさ」
「そんな、お世辞が通用するとでも?」
「お、お世辞じゃないですって!」
少なくとも、ナナんを可愛いと思ってることは嘘じゃない。驚いたのは別の理由だけどさ。
「まあ、いいです。でも、女の子の顔を見て、うげっ、とか言うのは最低の屑ですから、今後、気を付けて下さいね」
ナナさんは問い詰めるのを諦めたのか、ただ面倒になったのか、それ以上の追求はしてこなかった。
「はい、猛省します」
俺は素直に謝罪する。
「ああ、そう言えば、俺が見た化け物について、なんか進展ありました?」
「いいえ、まったく。現状では、ニトーさんが幻覚を見たんじゃないかという説が有力ですね。私の中では」
酷い。
「ただ、念のためマスターには報告しておいたので、ご安心下さい」
「ん、了解です」
けど、なんの情報も得られなかったとなると、俺の幻覚だったのだろうか。でも、アオも見たと言ってるし。
探偵よろしく、顎に親指と人差し指を当て考えてみるが、当然、答えはでない。
取りあえず、昨日のとこに行くのは避けるのが吉ってとこか。
無暗に危険は冒さない。それが俺のモットーであることに変わりないんだからな。
「しっかし、今日で四日連続で勤労とは」
ニートの誇りは何処へやったと言われてしまいそうである。
勿論、俺にだってサボりたいという気持ちはあるんだ。けどな、毎日、母ちゃんが、わざわざ起こしに来るんだよ。包丁持ってさ。
そりゃあ、もうどうしようもないだろ。
せめて週休二日くらいは許して貰いたいけど、どうなることか。最悪、奴隷解放運動を起こさなければいけないかもしれない。…………俺一人でだけど。
「スラ!」
「お、見つけたか?」
やはりアオは鼻が利く(実際に、鼻があるかは不明だが)。
今日も採集の依頼を受けたわけだが、三十分足らずで、目標値に届きそうだ。これで、一万ギル貰えるってんだから、ほんとボロい商売である。
いや、俺が同じ量、見つけようとしたら、かなり、苦労するわけだし、簡単な仕事というわけではないんだろう。
だからこそ、この依頼には達成量だけではなく、最低採取量も定められているわけで……
よし、今日はアオに、好きなもん食わせてやるとしよう。こんな金ず――じゃなくて、素晴らしい相棒に、見捨てられたら、大損だからな。ん? 大損という言い方も不味いか。気を付けよう。
でも、待て。こうなると、もっと大量に採って帰るのも一つの手かもしれない。これだけ早く済むのだ。明日の分の仕事もやっとけば、明日はサボれる。素晴らしい、名案じゃないか。
というわけで、
「アオ、もっと、もっとこの草を集めてくれ。そうすりゃ、今日は御馳走だぞ!」
「スラ!?」
「ああ、勿論、ホントだ」
俺の言葉に、アオは今まで以上の速度で、草を集めて行く。
これはもう、
「笑うしかないな!」