表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

10

「てなわけで、約束通り武器一万で売って貰うからな」


「いや、一万とは誰も……いいけどよ」


 確かに格安としか言ってなかったが、おっちゃんは言っても無駄だと諦めたのか、やれやれと頷いた。


「で、どれにするんだ?」

 

 そう言われても、特に決めてたわけじゃないんだよな。


「別に俺、剣の心得があるわけでもないし」

 

 それなりに見た目が良くて、壊れなければなんでも……


「なあ、あれは?」


 俺が指差した方を見て、オッサンは目を見開く。


「おい、ちょっと待て」


「ん?」


「それは駄目だ。分かるな?」


「はい?」


 なんで駄目なのか。格安で好きな武器を売ってくれるって約束だったはずだ。ん? 好きなって付いてたっけ?

 まあ、いい。ダメだと言われたら、欲しくなるのが人の性ってもんだろ。


「いいか、冷静に、あの武器の値段を見てくれ。中々、売れなくて安くはなってるが、それでも百万だぞ、百万。一万で売れると思うか?」


「でも、売れないんだろ?」


 だったら良いじゃん。物ってのは使われるためにあるんだぜ。


「売れないのは、冒険者には向かないのと、扱うのに技術がいるからなんだよ。この街じゃ、武器を美術品として飾る金持ちも、そういないしな」


 そもそもからして、ガチの金持ち自体が、あまり、いないんじゃないだろうか。だって、ここ辺境も辺境。ゲームだったら、旅立ちの町って名付けられそうな所だからな。


「なら、俺が有効活用してやるって」


「お前、さっきなんて言ったよ? 剣の心得があるわけじゃないっていったよな? だったら、仮に誰かに譲るにしても、もっと役立ててくれそうな奴に譲るわ!」

 

 これは完全に折れる気なしって感じだな。

 けど、あの輝かんばかりの刀身。美しい波紋。かっこ良さなら、あれを超えるものはそうない。

 やっぱ欲しい。

 仕方ない、この手は使いたくなかったが。


「なあ、おっちゃん、自分の娘を、冒険者に尾行させるような父親だって、知られてもいいのか? え?」


「お、お前、それは言っちゃダメだろぉー!」


「ハハハッ! 欲しいものはどんな汚い手を使っても手に入れるのが、俺の、やり方なんでね」

 

 同情してたんじゃなかったのかって? 

 それはそれ、これはこれだよ。


「きたねえ! きたねえぞ、お前!」

 

 ああ、弱者の遠吠えは心地いいな~。


「それで、どうするんだい?」

 

 おっちゃんは、崩れ落ち地面を、力強く叩く。


「畜生、お前みたいなキモオタ屑ニートに頼んだばっかりに」


 ………………それはちょっと言い過ぎじゃないかな。てか、俺がオタとか、ニートとかどこ情報だよ。


「ああ、分かったよ。持ってけ、泥棒!」


 とはいえ。


「あざっす」


 予想以上の、良品を手に入れらてた事だし、よしとするか。


「あ、でも、泥棒って言い方は人聞きが悪いんで止めてくださいね。ちゃんと一万は払うんで」


 俺の言葉に、どうしてか、おっちゃんは、涙を流した。 




「かっこいい」


 自室に戻って鞘から抜いてみたが、やっぱ、最高という他ない。

 ゲームや漫画でも十分にかっこいいが、実物はレベルが違う。

 これはもはや、かっこいいを通り越して、美しい。

 例えるなら魔性だ。なんていうか、ついつい、人を斬ってみたくなる。


「す、スラ?」


「安心しろって、お前で試し斬りなんてしないからさ」


 俺が、でへへ、と笑うと、アオはビクっと震えた。

 こう言ってるが、当然、人だって斬るつもりはないから安心して欲しい。俺だってその程度の良識は持っているのである。

 しかし、


「これだけ、かっこよければ、改良すれば、もっと良くなるんじゃないか?」


「スラ!?」


 例えばそう――――黒くするとかどうだろう?

 ああ、分かっている。この剣は、芸術品としても価値が高い一品だろう。それを俺の手で、染めるなんざ、悪の所業だ。

 けど、けど、

 思い立ったら、止められない。

 それが男ってもんなんだ。


「てなわけで」


 俺は昔、プラモを塗装するために使った、金属塗装用のスプレーを取り出した。

 簡易魔法により、色ムラなく塗れるって謳い文句だけあって、塗装は素人でも簡単だ。

 約三十分程度で、俺は刀を染め上げることが出来た。




「うむ」


 少々、高級感は失われたし、折角の美しさが、かなり損なわれた気もするが、やはり、こっちの方が中二心を擽る。

 ………………悪くない、よね?

 ああ、後悔はしている、反省もしている。


「スラ?」


「別に、やっちまったなんて思ってないぞ。こんなことせずに売って金にすれば良かったとも思ってない」


「す、スラ」


 アオは、よく分からないと言った感じに頷く。

 折角だ。名前を決めよう。そうすりゃ、後悔も薄れるだろう。

 そう言えば最初から、村なんとか、って名前が付いてた気もするが、こうして染めてしまったら新しい名前が必要だろう。

 刀を置き、腕を組んで考えること数分。

 よし、


「新月ってのはどうだ?」


「スラ?」


「この刀の名前だよ」


 別に、あの刀を意識してつけた名前じゃないぞ。月がない夜のように暗いから、新月。それだけだ。

 けど、やっぱ、ちょっと不味いかな? 仮にも似た、黒い刀だし、もうちょっと捻った方がいいかもしれない。

 例えばニュームーンとか、いや、ないわ。流石にないわ。でもなぁ~……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ