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採取した薬草の数が目標より多かったということで、予定より多くの報酬を貰えた俺は、武器屋へと訪れていた。
俺も、もう初心者ってわけじゃないしな。やっぱ、武器には拘るべきだろう。
だけど、思っていた以上に高い。
ざらに十万以上のものがある、というか、ほとんどがそうだ。
俺の今の全財産は約三万。この調子でいけば、十日も頑張れば買えそうだが、流石に武器に十万も使うのはどうか。
やっぱ弘法は筆を選ばずか。
そんな金があるなら、ゲームに課金したい。
「おっちゃん、一万くらいで買える、安い武器ない? 出来れば、剣がいいんだけど」
「一万だ? お前、命を預けるもんをケチったところでいいことないぞ」
「ははは、冗談キツイな~。それじゃあ、冒険者やってりゃ命の危険があるみたいじゃんか。この商売上手め」
「あるだろ! いつだって命賭けだろ! だから、報酬がいいんじゃねえか」
成る程、そういう考え方もあるのか。
つっても、俺はいつも安全を第一に考えてるし、危険を冒すつもりもない。そう考えたら、やっぱ武器はカッコよければそれでいい。
金をかけるなら、防具だけで十分だ。
「てなわけで、かっこいい武器をくれ」
「どういうわけだよ!?」
おっちゃんは、がしがしと頭を掻く。
「ああ、もういい。そこにまとめて置いてるのは全部一万だ。中古品がほとんどで、手入れもほとんどしてないが、好きに選べ」
「えぇ……中古はちょっとぉ~」
「文句が言える立場とでも!?」
そうは言われても、処女厨の俺としては、ここは譲れないというか。
ていうか、武器の中古ってなんかイメージ悪いんだよな。ほら、呪われてるとかあるじゃん。
「仕方ねえな。んじゃ、俺の依頼を受けてくれよ。そしたら、一本、格安で売ってやる」
「おお、マジかよ」
それは冒険者っぽいというか、ゲームっぽくていいな。クエストクリアして、掘り出し物の装備を貰えるとか、あるあるだし。
けど、
「見たら分かると思うけど、俺って駆け出し冒険者だぞ。俺に出来る仕事なのか?」
危険な仕事はやらないぞ、と暗に伝える。
「分かってるって。寧ろ、お前みたいな駆け出し冒険者にしか頼めないような依頼だよ」
それはそれでなんか嫌だな。
「で、内容は?」
「なあ、これって最悪捕まるんじゃない?」
「スラ?」
別に悪いことをしてるわけじゃない。ただ、悪いことをしてるように見えるだけだ。
だが、それが不味い。
今は、女、子供に、ただ挨拶しただけで通報される世の中だ。
こうして一人の女をガン見してるだけで、それはもう通報まったなしだろう。
しかし、依頼内容が、娘の様子が最近、おかしいから、彼氏が出来たのかもしれない。調査してくれって、もんだからどうしようもない。
幸いなことにファミレスに入ってくれたから、ストーカーのように尾行せずに済んだが、それでも冷や冷やものだ。
「あの、ご注文は?」
「コーヒーで」
ドリンクバーを頼んで、ジュース入れに行ってる間に見失ったりしたら、それこそ最悪だからな。
一人で読書に耽ってるあたり、誰かと待ち合わせしてるのは確かだろうし。
つうか、あの、おっちゃんの娘だってのに、結構、可愛いんだよな。てことは母親の方が綺麗だってことか。許せん。
「お待たせしました」
俺はウェイトレスさんから、受け取ったコーヒーを一口啜る。
「あ、やっぱチョコレートパフェ追加で」
「はい、畏まりました」
今更だけど、コーヒーって苦手だわ。てか、同じ黒い飲み物ならコーラでよくね?
やれやれ、無駄にカッコつけちまったぜ。
にしても、待ち合わせしてる彼氏ってのはどんななんだろうか。やっぱイケメンなのかね。
一方の俺といえば、武器一つ安く売って貰うためだけに、ストーカー紛いの尾行。
やめよ。考えても落ち込むだけだ。
時刻はそろそろ、夕方の六時を回る頃になった。
ここに来てから、約二時間。流石に、来ないんじゃないだろうか。てか、本当に、待ち合わせだったのか。
これは完全に骨折り損かもしれない。そう思った時だった。
「ご、ごめん、待った?」
…………え?
俺は武器屋の娘さんに声をかけた人を目にし、愕然とする。
「ううん、全然。ちょっと前に来たとこだから。本も読んでたし、気にしないで。仕事だったんでしょ?」
いやいやいや、めっちゃ待ってたじゃん。二時間だよ、二時間! ここはちょっと、怒ってもいいとこだぞ。
「うん、そうなんだけどね。なんか、変な化け物を見たって人がいて。あ、変な化け物を見たって人も変な人なんだけどね」
うん、ここまで聞けば、お分り頂けただろう。
間違いなく、その変な人ってのは俺のことである。
そして――――待ち合わせしてたのって、ナナさんかよ! そういえば、彼女がいるとか言ってたよね。
「大変だね。やっぱ、命に係わる仕事だろうし」
「そうね。一応、仕事だから、ちゃんとやらないと。仕事だから」
そこ二回も言う必要あったかな。
「スラ?」
と、今更かもしれないが、アオを隠いとこう。ナナさんには、一発で俺だとばれるだろうし。
俺は頭に乗せていたアオを、腕に抱える。
「それじゃあ、行こっか」
「うん!」
ナナさんの言葉に、武器屋の娘さんは喜々として答える。これは完全に女の顔をしてますぜ、旦那。
冗談はさて置き、俺も二人の後を追う。
「ありがとうございました」
さて、どこに向かうのか。女の子同士のデートって、どこに行くのが鉄板なんだろう。
因みにだが、俺に百合を否定するつもりはまったくないぜ。薔薇? 死ねよ。
だが、
「これは流石に予想外過ぎるんですけど」
てか、一人でここ歩くのって結構、精神的にくる。
二人が向かったのはホテル街。周囲はラブホばっか。
しかも、
「入って行ったよ。マジで入って行ったよ」
まだ、夜にもなってないってのに、何回ヤルつもりなの? いや、ただの休憩ってことも……
やめておこう。そんなことを想像するより、今はただ、帰りたい。
「それで、どうだったよ?」
「彼氏はいなかったぞ」
「そうか! ホントか? それは良かった!」
まあ、彼女ならいたけどな。
これは親としてはどっちの方がいいんだろう。
俺は喜々とした表情を見せる、おっちゃんに、同情を禁じ得なかった。