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報い

 


 ある事件の生存者の若者Aが、親しい者に話した

ことだそうだ。

 時代は80年代かそれより前かもしれない。


 その若者は高校生の時、ある不良グループの一員で、

彼等はいつも5人ほどで行動していた。

 地元では何かあればこいつらの仕業に違いない、と

名前が挙がるようなメンバーである。

 その地域で1番恐れられている不良がリーダーで

あり、残りはただ黙々と従っている形だったそうだ。


 ある時、テレビか雑誌か何かで、近所の山中にある

心霊スポットが大々的に取り上げられた。

 夜になると興味本位でぽつぽつと心霊スポット巡りに

来る者達がいると知った彼等は、そこで1つ悪さを

しようと考えた。


 近くまで乗用車で乗り入れられるので、人が来る

まで車やバイクで待って、誰か来たら因縁をつけ、

暴行したり金を脅し取ったりしたのである。


 警察のパトロールをかわしながら、面白半分で

そういった行為を続けていたある日の夜。

 その事件は起こったのだという。



 いつものように車を出てスタンバイしていると、

「なんか、吐き気が。うぅ、頭、いてえ」

 メンバーの1番下っ端である少年が、気分が悪い

ような素振りでしゃがみ込み、それから少しすると、


「お前ら!」

 突然その少年が怒鳴りつけ、

「いつまでここを騒がせるつもりだあ!」

 などとリーダーに食って掛かったのである。

 何の前触れも無しに、だ。

 上下関係が特に厳しいとされる不良の世界では

ありえない行動だと言えるだろう。


 それはそれとして、1つおかしいのは、自分だけ

このグループの部外者であるかのような口振り

だったことだ。

 散々一緒に悪さをしてきたというのに。

 それらには気付かず、リーダーはただ、年下の

ナメた態度に激昂した。


「いきなり何言ってんだ!? てめえ、一体誰に

口きいてるのか分かってんのか!」

 リーダーの男がそう言った次の瞬間、

「ぐうえ……」

 彼の喉に刃物が刺さっていた。


 少年が、カツアゲの道具として所持していたナイフで、

リーダーを刺したのだ。

 躊躇やためらいなど、そこに皆無であるかのように。


 車のライトに照らされる中、リーダーの首元から

ドボドボと血が流れ、シャツが真っ赤に染まった。

 更に少年は奇声を発しながら、うろたえる他の

メンバーに襲い掛かった。

 彼等は応戦しようと、同じく持っていたナイフを

出したのだが、それらが使われるよりも早く、少年の

ナイフが2人の腹や首を斬りつけていた。

 まるで短刀術の達人のような手並みで。



 残った1人、この話を人に言い伝えた若者A、は

少年の暴走を止めることなどできず、自分のバイクに

飛び乗ってその場から一目散に逃げたという。


 それからどうしたらいいか自宅の部屋で悩んだ挙句、

朝方近くになってから警察署へと飛び込んだ。

 仲間が喧嘩、いや殺人を犯したと。

 いつも騒ぎを起こしている不良グループの若者が

青ざめた顔で警察署にまで来たのだから、これは

ただ事ではないだろうと、警察は現場に急行した。


 朝もやの山道を登って行くと、そこには血まみれで

息絶えている不良グループの死体があった。

 あれから何があったのか、ナイフを振るった少年も

顔や頭、体中傷だらけで亡くなっていた。



 すぐに若者への事情聴取と現場の保持が行われた。

 若者は重大な関与を疑われたが、鑑識の鑑定により、

凶器の指紋や状況から殺人に関わっていないことが

証明された。


 グループ内の力関係などを聞いた警察の見立てでは、

パシリ同然の扱いで理不尽な暴力も受けていた少年が

日頃の恨みを爆発させ、リーダーや他のメンバーを

刺したのではないか、というものだった。


 リーダーは仲間、特に格下の者への暴力が酷かったと

身内からも言われていて、今回の動機としては納得の

いくものだった。


 4人も死んだ事件だが、地方のメディアと週刊誌で、

『不良グループが喧嘩、刃物で死者数名』

 と何度か取り上げられただけで、全国区で大注目

されるほど騒がれることはなかった。

 校内暴力や暴走族など、凶悪化する少年犯罪の話題が

絶えることなく、日常的に事件が起こっていた時代の

出来事のせいもあるだろう。


 その地域でも、鼻つまみ者だった不良達が亡くなった

ため、同情より清々したと感じた者のほうが多かったそうだ。

 彼等の行いからすれば自業自得、仕方のないことだろう。


 事実上、不良グループは消滅し、Aは別のグループに

入るでもなく日常に戻った。

 だが嫌な記憶と得体の知れない悪夢に悩まされたという。

 前者は、少年が奇声をあげながら言った、

「今すぐここから出ていけ!」

 という趣旨の言葉が耳に残っていたこと。

 後者は大勢の何かが自分を睨み続けている、そんな夢だった。





 Aはこの話を知人に伝えた時点では生存者だった。

 その後、若者Aも死んだのだ。


 仲間を弔うつもりで、事件現場に花を置いてきた帰り、

交通事故で亡くなった。

 見通しのいい道路で、昼間にバイクの自損事故を

起こしたのだった。

 バイクの運転が達者で、仲間内からも一目置かれる

ほどだったが、事故の原因は分からない。


 ガードレールにぶつかったのが死因だというが、

猛スピードで接触してしまったせいなのだろうか。

 彼はヘルメットを被っていたのだが、衝突の際に、

首が切断されてしまったのだとか。



 彼等が長々とたむろして悪事を働いていた心霊スポットは、

戦国時代に多くの討ち死を出した城跡だったそうだ。

 鎧をつけた落ち武者の霊が出る、無念を抱えたまま首を

落とされて死んだ武士の亡霊が姿を見せると、話題になって

いたのだが、その殺人事件があってからというもの、城跡へと

続く山道には、厳重な立入禁止の看板と車両止めが設置された

という。



 仲間を殺害した少年が何故、突然キレだしたのか。

 警察は日頃の恨みが動機としてこの事件を処理しているが、

結局のところは謎のままである。


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