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返る恨み

 

 ある人が知人から聞いた話だそうである。


 その知人の知り合いに、痴漢冤罪を装って

示談金を騙し取っていた女性がいたそうだ。

 この手の犯罪には仲間とグルになってやる

パターンもあると言うが、彼女は1人で、

適当な相手を見つけると車内で痴漢だと

叫んで無実の男性の手を取ったり、電車を

降りたところで因縁をつけるように迫り、

ここで騒ぎを起こされたくなかったら慰謝料を

払えと脅すのだそうだ。


 その場は逃げる、弁護士に電話する、などの

解決法がよくネットに載っているが、そんな

器用な方法を取れる者はおらず、社会的信頼や

地位、職を失うことを恐れて金を払ってしまう

のだそうだ。


 中には騒ぎを同僚に見られ、それが会社で広まり、

クビになってしまった者もいたと、人づての噂で

知人は聞いたことがあったという。

 定かではないが、自殺した者もいたらしいと。

 彼女は多くの罪なき者の人生を潰していたのだ。


 その女性にすぐ止めるように忠告したが、こんな

楽に遊ぶ金を手に入れられることを止めるなんて

馬鹿馬鹿しいと取り合わなかったそうだ。



 そんなある日、その女性が病院に運ばれた。

 電車の人身事故で大怪我を負ったのだという。

 ある程度落ち着いてから一応見舞いに行ってみると、

彼女の右腕の肘から先がなくなっていた。


 女性が言うには、電車を待っていると、突然

突き飛ばされたようにホームから転落したという。

 だがその時、自分を突き飛ばせる距離には誰も

いなかったのだそうだ。


 ブレーキをかける電車が目の前まで迫っていたが、

起き上がって衝突を避けるだけの余裕はあった。

 だが何らかの力が自分を押さえつけていたのだと

女性は言った。

 何人もの人間に覆い被さられたように体の自由が

利かず、それでも何とか体を転がして横に逃げた。

 これで轢死(れきし)はまぬがれる、そう思った瞬間、右腕が

自分の意思とは無関係に伸ばされ、目の前を通る

車輪に巻き込まれたのだそうだ。


 知人はそれを聞き、彼女が金を騙し取ってきた

男性達の怨みつらみがこの事故を引き起こしたの

ではないだろうか、と自然に頭に浮かんだという。


 生き霊というものがあると聞く。

 それは強い怨念を持つ者が、無意識に念や霊体を

飛ばし、相手に被害を与える、のだとか。

 冤罪で金を取られてきた男性達も自分の意思とは

無関係に痴漢だと言われ、腕を引っ張られたでは

ないか。

 だから同じように彼女も、『腕を引っ張られた』、

のではないだろうか。


 知人は彼女を少しだけ気の毒にも思ったが、その

身勝手な性格に嫌気がさし、自然と疎遠になって

いったらしい。


 それから数年ほどして、その女性はまた電車の

人身事故に遭い、今度は亡くなったのだと聞いた。

 その最期は原形を留めないほどであったそうだ。

 自ら命を絶ったのか、単なる不運な事故か。

 それともまた『彼等』から報復を受けたのか。


「どちらにせよ、自業自得だ」

 女性の死を知った知人は、そう、吐き捨てるように

言ったという。

 異論を唱える余地もない。

 まさにその通りだろう。


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