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Mönster

 山奥に来ると、蝶まで大きく感じる。

 何という名前なのだろう。(はね)は、鮮やかな青紫色をしている。

 ──ムラサキシジミ。開帳約三〇から四〇ミリ。

 開帳とは翅を広げた大きさのことだろうか。日本語は、漢字でなんとなく意味を掴めるところが便利だと思う。

 なだらかな山道を歩いている。三月の下旬、夜はまだまだ冷えるけれど、アウターは春物を選んだ。この寒さだってどうせもうじき感じなくなる。白いマウンテンパーカー。晶に選んでもらった服。私は、白い服や小物を身に着けていることが多い。以前、まこ姉さんが言ってくれたことが、とても腑に落ちたからだ。

 ──ココちゃんは肌も髪も白いんだから、それを活かした格好が可愛いと思うの。

 やっぱり芸術家──というより、まこ姉さんらしい。

 ふと、佐竹君と帰り際にした会話を思い出す。

 ──俺が見たとき、つくしは血だらけでした。だから、死んでいるってわかったんです。もう、助からないって。公衆電話まで走って、一一〇番して、警察を案内して、そのとき見つけたアイツは、もう綺麗になっていました。血の(あと)はなくなって、ベンチに横たわっていたんです。

 ──それは、ちゃんと説明したの?

 ──ええ、しました。けど、俺自身怪我をしていないつくしを見てしまっているので。事情を聴きに来た刑事さんは、同級生の遺体を見るなんて体験をしたんだから、そういう見間違いは不思議なことじゃない、責任を感じることはないって。

 ──どうして、それを私に言ってくれたの?

 ──わかりません。ただ、何か意味があることだと思えたので。

 どうしてみんな向こう側の私ばかり。

 大野木ココじゃない私ばかり必要とするのだろう。

 やがて、風が消えた。寒さが遠のいて。踏み心地は、湿った葉っぱを踏むしっとりとしたものから、さくさくと小気味良いものにとって変わった。

 視界を狭めていた日傘を畳む。

 世界が、赤く染まっていた。

 ヒヒイロゴケに覆われた門の前で足を止める。ブロック塀の向こうには、煉瓦でできた三階建ての建物がある。縦長の窓には、内側から木の板が打ち付けてあって、中の様子は窺えない。何の建物だったのだろう。もう、使われていないことだけはわかる。

 傍には、何故か緑のテープをぐるぐる巻かれたコーンが放置もとい展示されている。トーマ君の置いた目印だ。

 ウエストのドローコードを絞った。

 何か意味があることだと思えるからだ。

             

「もしかしてわざと怪我しているのかしら?」

 私は、包帯を巻かれている脚から、手当てをしてくれている風梨華へと視線を移す。

「私に手当てしてほしくてよ」

 風梨華がおどけたように言った。

 私は、微笑むことしかできない。もう、こんな手当てが要る身体じゃないのに。

 二人で薄暗い和室にいる。

 ここには、太陽の光がない。雪も降らない。

 未来界は今頃冬だろうに。

「斬ったら──相手を斬ったら少しは自分も斬られないとおかしい気がして」

 風梨華は目を見開いて、それから呆れたような眼差しを向けてくる。

「ホント、()い子ちゃんね。アンタ」

 ああ、違うのに。

 痛みを与えるなら、あるいはすでに与えたならば。

 自分も痛い思いをしなければ、申し訳なくなってしまう性分。

 風梨華は、多分そんなふうに誤解している。

「善い子じゃないよ。もうずっと、善い子じゃない。普通がいい」

 私は、そんなんじゃないのに。

「普通の──女の子がいい」

 風梨華が黙って私の後ろに回った。慣れた手つきで私の髪を結ぶと、顔の傍に手鏡を差し出した。そこには、白い大きな花と短い小花下がりのついた髪飾りが映っている。

 風梨華があらっ、とわざとらしい声を上げた。

「可愛い女の子みたいよ」

 私は笑って、元から女の子ですけどと言って、風梨華を小突く。

 幸せと言い切れない日々だった。

 ただ、このままでも良いと、そう思っていた。

             

 畳んだ日傘を振るった。

 後ろにあった壁が(えぐ)れる音がした。飛来した風の刃──軌道を逸らしたのである。

 日傘には、猿のような頭に蝙蝠(こうもり)のような翼を持った小さな異形が群がっている。パリの建築物に見られるガーゴイルを彷彿させる。弾けた。現れたのは一振りの太刀(たち)身幅(みはば)は狭く、()(もん)は不規則に小さく波打ちながら(きっさき)に伸びている。

()(せん)──日傘を素体にしたココの愛刀。

「何しに来たのよ」

 壁に凭れて座る風梨華が言った。腹部にはサラシが巻かれている。

 ココは答えない。ただ、中段に構える。

 風梨華が捨てるように笑った。(おもむろ)に立ち上がった。

 ああ、見抜かれている。

「嬉しいわ。その吹抜け面に目を(つぶ)ればの話だけど」

 言い終えるや、風梨華が跳んだ。放物線を描きつつ、ココの目前へ。

 着地。同時に放たれた下段突きによって、舞い上がる床の破片。

 その一片が、唐突に加速して迫る。

 息か。推進力の正体。

 振り上げた刀で弾き、下ろす刀で狙うは、交差する両腕に隠された風梨華の顔面。

 ココの腕に伝わる、受け止められた手ごたえ。それは、僅か一瞬のことで。

 仰け反るほどに、勢いよく弾かれた。

 これは知っている。


 ワンノート〈天津風(あまつかぜ)〉──風の刃が構成する攻防自在の籠手(こて)(すね)当て。


 左足を軸に回転、遠心力に跳躍した勢いも上乗せして、もう一撃。

 渾身の袈裟(けさ)切り。

 風梨華の前腕にそれが喰い込み、耐え切れず膝が床へと──。

 違う。

 水面蹴り。直感して、床を離れた両足が、しかし床に着くことはなく。

 しまったと思った時にはもう、上下が逆転していて。頭が、床を向いていて。

 そのまま、風梨華の連撃を受ける。受ければ、勢いのままに身体が回る。

〈天津風〉の応用──敵の自由を奪う風の檻。

 上下左右の把握すらままならない状況で、襲い来る(けん)(そく)を次から次へ。

 弾く。(かわ)す。受ける。ただただ、目まぐるしくて──。

 それでも、ココは敵が攻めづらい守りを心得ている。突き出した剣尖(けんせん)は、風梨華のストレートの軌道を反らしつつ、左目へ。裂いていったのは、それより数センチ下の頬。

 風梨華が背を向けた。

 直後、風の檻から解放される。

 そこへ迫り来る、地を()るようなアッパーカット。

 拳を、足の裏で受けた。

 回りながら飛ぶ身体。壁にぶつかる寸前、壁を掌で叩いた。正確には、掌によって弾いた空気──〈引飴〉で。衝撃を殺し、床へ着地する。

 風梨華が、高らかに何かを(ほう)った。

 同じ動作が二回、三回と続いたところで滑走。間合いを縮めながら、爪先を軸に方向転換。すぐ傍を、轟音と共に落ちたそれを、ココは目にせずとも知っている。

 大太刀──ばらまいた小豆(あずき)の化けた姿。それが、今から()いた数だけ落ちてくる。

 速度は落とさず、間を()って、躱し切れないとみるや花舟や〈引飴〉で弾いて。

 近付く。近付く。

 風梨華が飛んだ。今まさに、両者の間に刺さろうとしていた大太刀を掴むや、頭上で大きく振り回し、落下と共に斬り下ろした。

 スピードをマックスからゼロへ。

 間合いに入る一歩手前、足裏から出した圧縮波で、天高く身を放つ。そう、〈引飴〉によって空気を弾けるのは、何も掌だけではない。

 眼下には、こちらを見失っているだろう風梨華の姿。

 幹竹(からたけ)割り──。

 頭部を割った手ごたえではなかった。

 花舟を受け止めたのは、大太刀。が、刃先は僅かに届いていない。大太刀の(まと)う風に阻まれている。そして、その柄を風梨華は握ってなどいない。

 大太刀が真一文字に振るわれる。

 後方に滑走して回避。そのまま距離をとるココ。

 久しぶりに、見た。

 風梨華の傍らには、まるで守護者のように大太刀が浮かんでいる。

 同様の風は、周辺に墓標の如く乱立する大太刀にも流れている。

 風梨華が、にやりと笑った。うち六本の大太刀が宙に浮いて、剣尖をこちらに向けた。

 ミサイルの如く飛来する。

 顔の高さで水平に構えた花舟。その(むね)目がけて〈引飴〉を放つ。

 三日月状の圧縮波が、全ての大太刀を撃墜した。

 と、ココの足許に迫る影。這うほどに低い、床と身体がほぼ平行なタックル。

 がぶった。背中に覆い被さった。それでも、猛進は止まらない。

 壁を蹴った。その反動で、風梨華を跳び越えて、背後に回る。

 風梨華の振り向き様の裏拳。

 頭を下げて躱し、懐に飛び込みながら、花舟を逆手持ちに。柄頭(つかがしら)で上腕を突いた。そこは、〈天津風〉の守りが届いていない。

 もう一方で繰り出されるフックも同様、(もぐ)り込んで、一撃を与える。

 風梨華の両腕が僅かに下がる。ココからすればがら空きに等しい。

 ココは、構えて。

 乱れたサラシからは、苔が覗いている。もう、長くはない。

 ただ、構えて──。

 腹部に衝撃。多分前蹴りだろう。負力による局所防御が間に合ってなお、胃を押し潰されたような痛み。

 吹き飛びながら、目に映る天井。

 烏が輪を描いて飛ぶように、上方(じょうほう)を旋回していたいくつもの大太刀が。

 一斉に、こちらを向いた。

 飛来する。飛来する。次から次へと降り注ぐ。

 轟音が止んで、土煙が薄れて。

 ココは、立ち上がることができなかった。

 痛みは──あるにはあった。


 ワンノート〈木枯(こがらし)〉──ボンディングスキンへ耐刃特化の属性を付与するそれは、剣という概念から与えられるあらゆる衝撃を、それがいかなる曰くつきによるものであろうと、ほぼ無力化させる。


 けれど、立ち上がれなかった。

 風梨華を殺そう。

 そう誓って、振り絞った闘志が、もう見当たらない。()えたのではない。

 もう、完全に、心のどこにもないのだ。

 ふざけるなと風梨華が声を荒げた。

「ここで手ぇ抜いてどうする。アンタは何をしにここへ来たのよ」

 いつかお互い本気で戦いたい。風梨華はそう言っていた。

「私は──風梨華を殺したくない」

 だって。

「だって、もう思い出してる」

 わかる。トンネルで戦った時とは違う。言葉など交わすまでもなく。これだけ打ち合ったのだから、わかってしまう。

 思い出してるから何だって言うのよ──と風梨華が俯いたまま言った。

「アンタが私のしたことを(ゆる)したとして、私が私を赦せるとでも?」

 風梨華は、何者かに操られていた。とはいえ、加担した。つくしの死に。かつての友である自分の行く手を阻んだ。それは、曇りのない事実。

「今さら生娘(きむすめ)気取ってんじゃねぇよ。散々殺しておいてよぉ。殺すわよ。ここでアンタが死んだら、アンタの家族も、友達も、皆殺すわよ」

 そんなこと──するわけがない。

「ココ」

 嗚咽を殺した声。

「誓ったでしょ。鬼は鬼でも悪い鬼にはならないって。ここで死んだからって、人間の女の子として死ねるわけじゃないの。ここで死んだら、アンタはどちらにもなれなかった、ただの出来損ないだわ」

 いつだって、風梨華はそうだった。自分を女の子として扱ってくれた。女の子でいたい気持ちに理解を示して、ときには慰めてくれた。けれど、認めてはくれなかった。

 当たり前だ。悪鬼(あっき)にならないと誓った自分は、しかし二度と無知な少女には戻れないのだから。

 風梨華は、添えるように言う。

「もう、逃げないでよ」

 ココは、立ち上がった。

 そうだ。もう逃げられないのだ。家族も友達も、これ以上殺されないためには。

「風梨華」

 名前を呼んだ。

 すんと短く鼻を啜った。


「殺すよ」


 赤い稲光が駆け抜けて。

 風梨華の身長が、半分になった。

 下半身を失った風梨華に、(きっさき)を向ける。

「やれば──できるじゃない」

 手から、花舟が落ちた。

 その場にへたり込んだ。

「風梨華。お願いしたいことある?」

「そうねぇ。私の記憶をいじくって、友だちの家族を奪うような悪事に使って、友だちの心をこんなに傷付けて、(しま)いにはこの私を使い捨てるような悪党どもをやっつけて──なぁんて、あの頃ならお願いしたかもだけどねぇ」

 風梨華が、ココの肩を引き寄せる。ココに身を預けるようにして、続ける。

「したいことをしなさいな。お願いなんてカタチでアンタに強要はできない。こうして貴女は私を捨ててくれたし、私は貴女に捨てられてあげたんだから」

 ココは、風梨華の顔が見たかった。けれど、見てはいられないとも思った。だから、そのままでいた。

「ねぇ、ココ。ちょっとは本気出した?」

「うん。本気で手加減してた」

 嗚咽を殺し切れない声で、そんなことを言う。風梨華の知る自分は、こういう娘だったから。

「ホント憎ったらしいんだから」

 のし掛かるようだった身体が、腕の中で崩れた。


 足許には、風梨華だった苔がある。

 エンボスを見た。そっと撫でてから、目を閉じる。通信路(チャンネル)はすでに回復していた。

「ボス。今から会いに行って良いかな」

 テレパシーに肉声は要らない。それでも、言葉にせずにはいられなかった。

 頬に、静電気が走る。

 どうして、このタイミングで──。

 手の甲が、弾けた。エンボスのあった表皮が、血煙(ちけむり)と共に、消え失せた。

 二発目の撃発音で、花舟が手元を離れる。

 入口に、こちらへ向かって手を伸ばす、ガスマスクがいた。

 手元からは煙が上っていて、グリップらしき物体だけが握られている。銃身は発射の衝撃に耐えられなかったのだろうか。

 ラバースーツによって強調される、骨ばった幼い身体。双頭の蛇を(かたど)る銀のバックル。

 ──ゴーレム・マーズ。

 湧いた知識に、顔を(しか)めるココ。

 ゴーレム? エンボスのセンサーは、負力をキャッチしている。だが、この距離にしては微弱過ぎる。ギノーではないのか。これは。

 視界が、黒い拳で埋まる。

 首を捻るタイミングを合わせ、頬の上を滑らせるように、回避。

 肩から懐に飛び込むと、鳩尾(みぞおち)を肘で打ち上げた。

 (わず)かに浮いた身体を、すかさず背負い落とす。脳天からの垂直落下。鈍い音がした。

 ココの目に映るのは、逆さになった古めかしいガスマスク。

 レンズの向こうに、見えるのは。

 ヘッドスピン──大きく広げた脚が旋回してきて、頭を下げた、ほんの一瞬。

 ココの視界に、ガスマスクはいなかった。

 途端、腕に痛みが走る。いつの間にか、背後から腕を取られていた。

 空間転移ではない。ただ、速いだけだ。漂うヒヒイロゴケを追えば、ガスマスクの動きがわかる。ジャンプして、天井を蹴った反動で、自分の背後に回って、腕を取った。それだけである。

 指を──握り込まれている。壁に叩き付けられる。空いた手で、顔が潰れる事態を避ける。引っ張られた直後、前宙。片足でガスマスクの下腹部を蹴りつけて、極めを(ほど)く。

 目前に迫る爪先。ココは、まだ左踵の上に腰を下ろした体勢。だが、その体勢のまま闘う術なら、当に体得している。

 首を倒して蹴りを避けつつ、伸び切った脚に腕を絡めて、背負う。

 顔面から叩きつけた。大して通じないことは知っている。だから。

 取った脚の、膝裏を自分の膝で押さえて、足首を(ねじ)り折る。

 背中へ馬乗りになった。後頭部に掌打を一発。頭蓋を砕く手応え。

 だが、陥没(かんぼつ)は一瞬にして元通りになってしまう。

 一心に、不乱に、打ち下ろす。なのに。

 死なない。

 背中に衝撃。エビぞりで蹴られたのか。足は──治ったのか。

 転がりながら花舟を拾うや、水平に構えたそれで手刀を迎える。刃先と腕が接触した。そのとき、ココの足はすでにガスマスクの膝を捉えていて。振りかぶりなしで腕を切断。同時に、膝の関節を踏み砕いた。力づくで膝をつかせた。

 (のど)(ぶえ)を貫いた。何度も、何度も。

 その度に、ヒヒイロゴケが噴いて。コケ()まりができて。

 と、花舟が抜けなくなる。刀身に、黒いコードが(まと)わりついていた。

 こう──なれば。

 赤い稲光。刀身を伝って、ガスマスクの全身を駆け巡る。

 ガスマスクが顔面から床に倒れた。もう、動き出す気配はない。

 すぐには──苔にならないのか。

 ココは、手の甲を見る。血塗れのピンク色が覗いている。手をくるりと返した。掌にエンボスが移動していた。エンボスの緊急回避システムを使ったのである。

 あの静電気が走った直後に。

「──」

 もし、エンボスが破壊されていたら。

 ボンディングスキンが消えれば、確かに危険だろう。あれは宇宙服のようなものだ。なければ、ヒヒイロゴケに直接触れてしまう。だが、周辺にギノーの反応がなければ、未来界に戻ることはできる。

 この場合、襲われたら自分以上に危険なのは──。

 ハンドラーから、負力の供給を得られないコクーン体のギノー。

 ボスが、危ない。

 ココは、テレパシーを試みて──。

 ガスマスクだったヒヒイロゴケの山を見た。マスクやバックルなど、一部は元型を留めている。これが出現したときの静電気。あれは──酷く似ていなかったか。

〈ウインチェスターキューブ〉が発動したときの、あの感覚に。

 小人の内緒話みたいなノイズ。その向こうから、聞こえて来たのは、

 ──お嬢。

 本当に聴きたい声ではなかった。

 ──手荒な真似をしてすみません。俺の見立てじゃあ、今頃貴女は狸との戦いに身も心も磨り減っていて、マーズは必要以上に貴女を傷付けることなく、エンボスを取り除ける手筈(てはず)だったんですが、どのみち失敗しちまったようで。

「ボスは近くにいるの」

 ──近くっちゃあ近くですが、まあ目に見える範囲にはいますかねぇ。

 これが中々すばしっこくて捕まりゃしないと言って、トーマが幽かに笑う。

「どうして──」

 ──お嬢は何か勘違いなさっている。俺は貴女のことが好きですよ? ただ、理解されるべきだとは到底思っちゃいない。

 テレパシーが切れた。

 どうしてか、蓮華の花が脳裏を()ぎった。


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