鶯内裏
人に成れないカイジューが、人にやさしくあるために
気分はオルゴールの人形。ぜんまい仕掛けの足取りで回る。
花が降っていた。狭い小路にひらひらと、瓦板塀にうずたかく積もって、ふぞろいな丸石が縁取る溝にこぼれてゆく。花は、まるで落ち椿のように、いずれも咲いた形をしていた。葩は色濃く瑞々しくて。この天変に付けられた名前を思えば、すべて春の花なのだろう。
花の積もっていない箇所を探して歩く。
白足袋に、深い緑の鼻緒を挿げた下駄。女というより女の子の脚。──おんなのこ。
空を仰いだ。足許から目を背けた。
色とりどりの雨。一際目を引く紅紫は、傷付いた蝶のように、掌へ落ちて。
風が吹いた。
振り返ると、来た道がなかった。足跡は、花に覆い尽くされていた。
不安になった。もし、次の一歩を踏み出したら、この下にもう地面は眠っていなくて、どこまでも墜ちてゆくのではないか。軽く握っていた手を開くと、蓮華の花があった。無性に、握り潰したくなった。葩に陰りが差して──。
ふわりと、足許に影がひろがった。
黒い傘を翳す、貴方がいた。
咎めるようで、けれど淋しげな、その眼差しに。
私は──うまく笑えているだろうか。
蓮華が宙を舞った。私の吐息に乗って、緋色の苔に変わるや、崩れて落ちた。
同じ傘の下、貴方の隣をついて歩く。貴方の革靴が前へ出る度、花の一つひとつが逃げるように、私たちから遠ざかってゆく。
貴方は気付いているだろうか。私が、あまり貴方を見ないことに。
傷付いては──いないだろうか。
どこか疲れたその横顔。昏い瞳に光を探して──。
酷く申し訳ない気持ちになった。
お胎に手を伸ばす。
ああ、まだ目立ちはしないけれど。温もりを感じる。動いている。だから。
生きなければ。
「ココ」