8. 惰性
惰性
早くに切り上げた為、家に帰り着く頃はまだ15時頃で随分時間に余裕ができてしまった。
殺しは夜にしたい。
例え本当は自分のせいでは無くても。
1日最悪の気分にしたくないから。
せっかくの日曜日を堪能すべきだ。
スーツのまま、掃除機をかけ拭き掃除をし、トイレ掃除に風呂掃除までした。それから窓を拭きあげ、洗濯をして茶碗を洗った。
気の済むまでに、自分がもう終わりだと思った頃にスーツをコインランドリー用のカゴに放り込み、浴室へと向かった。
風呂はいつも15分と決めている。それ以上は無駄な時間だと思ってしまう。普段は無駄な時間は嫌いじゃないんだが風呂の時間だけは早く済ませたい。
風呂から上がり、部屋着に着替えた後料理を始めた。この時点で19時になっていた。
ここまでの流れはほぼ毎週日曜日変わらない。このくらいの時間になると朝よりも更に増して憂鬱になる。体全体が重くなり、吐き気すらしてくる。毎週毎週この憂鬱な時間は料理をして過ごすんだ。
夕食を食べながら、ただ目の前のテレビを眺める。内容なんて見ていない。ただそれが日課としてあるからそれをこなしているだけ。掃除や洗濯もそうだ。なんだったら夕食も必要ない。でも今は生きる為に、…いや、死なない為に食べている。ただ惰性で生きる毎日。
俺が、例えば今、病気で死んだとして。誰が悲しむ?誰が損をする?そう、誰も何も変わらない。世界中から見ればたった1人のちっぽけな死なんて誰の目にも止まらない。だからと言って派手に目立ちたい訳でもないが。
ただ俺は。たぶん俺以外の他の人間も。
自分が生きた!という証をどこかに残したいはずだ。それは人としてこの世に生を受け、人として生きる欲望なんだ。…
そんな事を考えているといつの間にか眠ってしまっていた。
時間は夜中の1時を回っている。
食器もそのままに俺は何をしているんだ?
どこで切ったのか右の手首には小さなかすり傷があった。記憶にはないがこの程度なら掃除の時にどこかに引っ掛けたのだろう。
それより殺人サイトだ。確かめなければいけない事が沢山ある。
俺は俺の中に湧き上がる不思議な好奇心と嫌悪感を必死に抑えながらふと立ち上がり、パソコンにむかった。
パソコンから例のメールを開き、サイトのホームページのURLをクリックした。
大きく深呼吸をして、それから忘れていたとばかりに今日買った焼酎をお湯で割り、適当なつまみをもってパソコンに座り直した。