19 色欲
19 色欲
俺は慌てた。焦って出たら声がうわずって変に思われるかもしれないからまずは落ち着こうと努めた。でもあまり遅いと切れてしまうかもしれない。葛藤の中ようやく電話にでた。
「……もしもし。ドイです。」
なんとか声を絞り出して発声した。相手は少しお酒を飲んでいるようですこぶる上機嫌だ。
「もしもし!ねぇねぇいきなりだけどドイ君の家ってどの辺?」
「えっ…〇〇駅から〜〜です。」
「えーーわりと近いじゃーーん!遊びに行ってもいい??」
想像と違うキャラに戸惑っていると、いきなり遊びに来ると言っている。俺は気が動転した。なんて答えよう。部屋は片付いているが心の準備が全く出来ていない。部屋に女が上がるなんて今まで生きてきて一回もないかもしれない!それに相手はあのレイコさんだ!
「わかりました…とりあえず片付けして待ってます!」
「OK!じゃあ近くなったらまた電話するね!たぶん1時間後くらいかなぁ…」
「わかりました!では後ほど。」
「うん!バイバーイ!」
俺は急いでシャワーを浴びた。そして慣れていない整髪料をつけて制汗スプレーを体、そして床やシーツなどに吹きかけなんとか部屋をいい匂いにしようとした。胸が心臓はドキドキと高鳴り止まらない。落ち着かせるために酒を飲む事にした。焼酎をグラスにいれ氷を入れるとほぼストレートで飲み干した。それから続けて3杯。全く酔わない。それどころか心臓の高鳴りはさらに激しさを増し吐き気すら催す。
いよいよ約束の1時間後が来る。そこでまた問題だ。私服がない!今はボロボロのタンクトップにパンツ一枚。クローゼットを引っ掻き回してまともな服を探したがおばあちゃんみたいな臭いのする服しかない。仕方なく俺はシャツを着て下には唯一一枚あったジーンズを履いた。少しはマシだろう。
約束の時間から20分後、また携帯が鳴り響く。レイコからだ。
「もしもし〜!今〇〇の××の前だけどー…」
もうそこまで来てる!吐き気を抑えて俺は言った。
「わ わかった!迎えに行くからまってて!」
バタバタと靴を履き、全速力でレイコの元に向かった。そこには髪を下ろし、シャツやジャケットが少しはだけたレイコが電柱に寄りかかってこちらに手を降っている。
「やっほー!何してたのー!ていうか本当に遊びに行って大丈夫ー?」
「は…はい!ずっと寝てました!」
「…そっか…じゃあしゅっぱーつ!」
そういうとレイコは俺の腕にしがみついて来た。胸が当たっている。
「日本酒たくさん飲んじゃってさー…でもまだまだ飲めるから飲み直そー!」
相当量を飲んだんだろう。酒をの臭いが凄いがなんだろう。髪の匂いなのか甘い匂いがする。いわゆる女性の匂いが。俺は頭がクラクラして自分の家に帰り着くまでずっと喋っていたレイコさんを無視する形でいた。
「たっだいまー!わー家綺麗ー!!」
「ま まぁ一応頑張りました…お酒焼酎でいいですか?それくらいしかなくて…」
そう言ってレイコさんに背を向けて台所に行こうとしたその時、いきなり背中に抱きついてきた。
「ど、どうしたんですか!?」
「わたしにも色々あるのよ…今はこのままでいさせて…」
顔を見なくてもわかるほど、それは静かに涙を流していた。俺は静かに携帯に目をやると時刻はもう23時を回ろうとしている。