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殺人サイト.com  作者: Toshi
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1. 発見

発見


「プッ、プッ、プッ、、プー…

ただいま、午前2時をお知らせします。」


この音で目が覚めた俺はふと我に帰る。あー俺は残業中だ。

しかも自分の仕事はほとんど終わらせている。あいつらはいつも俺に全てを押し付けて帰るんだ。


1時間置きに鳴る、この古ぼけたコピー機がまさか目覚まし代わりになるとは思わない。昼間はうるさいほど賑やかな事務所もこんな時間だ、もちろん物音一つしない。

シーンと張り詰めた空気。

まだ少し肌寒い中、暖房一つ入れずに寝ていたので肩が凝っている。

んー、と少し背伸びをして部屋の隅にあるコーヒーメーカーに電源を入れる。

ここには自分1人しかいないので電気も限られた場所しかつけていない。

さほど広くはないが暗闇は部屋を一層広く見せ、まるで出口などないような錯覚に陥る。

だけどこういう時間は嫌いじゃない。

一人で何をやってたって構わない。

俺はこういう時はよく歌を歌う。

夜は自分の弱い所や、惨めな所を隠してくれる。

そんな気がして好きなんだ。


昼は苦手だ。

人がたくさんいる。

俺は人と関わるのが得意じゃあない。

コーヒーを飲みながらふと、昼間の出来事を思い浮かべる。


〜今日


小さな事務所にはいつも、テレビの音。課長の電話の音。来客などで常にガヤガヤしている。そんな中でこんな会話が聞こえる。


同僚男「なぁ、あいつの話聞いた?久しぶりに営業に行ったら取り引き先に怒られて帰ってきたらしいぜ?パソコンばかり触ってるから、頭おかしくなったんじゃないか笑。」


同僚女「私も苦手なの〜あの人。顔も含めて笑。いつ辞めるんだろうね〜。」


おいおいそういう会話はもっと本人に聞こえない所でしろよ。

ここは建設関係の営業の事務所。

入社して6年が経つ今、営業での実績が上げられずに同僚だけでなく後輩や部下にも陰口を叩かれる始末。

おかげで部下の顧客名簿の管理や書類まで全て任される。

俺が他人の仕事をせっせとしていると後輩と課長が


後輩「僕の分も全部やってくれるんですよー本当助かりますよねぇ!まぁ普段暇でしょうから妥当ですよね笑」


課長「あー。君は営業向きだからああいう仕事は得意な人に任せておけばいいんだよ。あいつの役職は書類担当!なんてのも面白いよな笑」


こんな会話が日常的に聞こえてくる。

最近では他人の仕事をしすぎて営業に行く事すらしてない。

というより行かせてもらえてない。

たまに営業を頼まれたと思ったら課長の尻拭いだ。

営業課なのに営業に出れないのは普通耐えられないだろう。

課長は俺より一年後に入ってるんだ。いつからこんなに差が開いてしまったんだろう。後輩からは呼び捨てにされている。


「ドイ!いつまでその書類やってんだよ早くしろよ!」


あー俺の名前はドイ ケイスケ。自分の名前の自己紹介なんて生まれて数えるほどしかしていない。

後輩はカワセ、嫌な性格の男だ。

同期の男のあいつはタナカ。女はスナダ。

課長がイワタ。

この三人と俺の四人はほぼ同期なんだが俺は全く相手にされていない。

俺に対する無視はもう当たり前の事のようだ。なんの罪悪感も感じていないという顔で無視をする。

他に事務のおばちゃんが居るはずなんだがここ何年か見ていないので名前を忘れてしまった。

小さな事務所なのでたまに社長や上司が来るがほとんどこの5人で営業している。


「すんません…」


内心腸煮えくり返る気持ちだが、少し笑いかけながらとりあえず謝る。

俺の席は事務所の中でも、一番の端っこであり窓際だ。

夏の暑い日も日差しに晒されながら書類を仕上げている。

ここのとこ一番酷かったのは弁当の中身が捨てられていた事。

あー俺イジメられてるんだ。

いい大人なのに。と シミジミ思ってしまった。

給料も、もう何年と上がっていない。

なんで俺ばかりこういう目に合うんだ。

俺は誰よりも頑張っていると自負している。だが顔も目立って良くはない、性格や特技もない、成績も良くない。

なにも良いところなどない。

世の中は数字が全てであり、営業で成績を出せない人間はこの業界では屑の様な扱いを受ける。だからと言って他に転職する勇気も元気も無い…




今日の昼の事を思い出すつもりが何年分かを思い出し、気づいたら涙が出ていた。

変わらずシーンと張り詰めた空気の中、俺はコーヒーを飲み干す。

気を取り直して、俺はパソコンに向かった。とは言っても仕事はとっくに終わっている。家に帰ったって電気代もガス代も勿体無いからここで残業する振りしてインターネットを楽しんでいるんだ。

幸い近くにコインランドリーも銭湯もあるから帰らなくても大丈夫。

もちろん残業手当なんて無い。

17時にはタイムカードが押されてるんだ。

だけどこの時間が唯一の楽しみだ。

何をしてても許される空間。

ただそんな時間も流石に飽きてくる。

何年もこうしているから。

正直生きてる意味を完全に失っている。

死に方や、死ぬ意味を見つけて無いだけであって。

いつ死んでもいいと常日ごろから思う。

独身で、父や母にも連絡はとっていない。

今死んでも誰も悲しまないんだろうなぁと日々思ってしまう。



そんな事を考えながら何気なくサイトを上から順番に見ていた時、あるサイトをクリックすると画面が真っ暗になってしまった。

自分のやつれた顔が映る。


それからしばらくして赤い文字で「殺人サイト.com」と恐ろしげな文字がぬらりと出てきた。

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