16. 時間
俺は仕事に没頭した。もう本当に入社当時の様な勢いで終わらせた。周りの人間の悪口や嫌味なんてなんとも思わなかった。ただレイコの事を考えるだけで幸せになれた。
月日は一気に流れた。光陰矢の如しとは大人向けな言葉だと思う。ガキの頃には何も感じなくただ何と無く生きているだけで一日はゆっくりと流れたから。
火曜日も水曜日も木曜日も金曜日も何も起きなかった。少し前の俺ならまた前までの俺に逆戻りだなんて思うかもしれないけど、今の俺は前向きだ。20時には退社し、さっさと飯を食って布団の中で彼女の事を考えた。
いよいよ明日は土曜日だ。今日の為にまえもってほとんどの仕事は終わらせたから何も問題はないさ。心臓はバクバクと、それは外に聞こえるんじゃあないかってくらいなった。
俺はそれを搔き消す様に必死に、それはそれは執拗に自分を慰め果てた。
土曜日の朝、いつもより朝が静かに感じた。毎日が今日ほど静かならトースターの音を毎日楽しむ事が出来るのに。
コーヒーを片手にポストを確認し新聞を取り出し、机にドカっと投げた。
ソファに腰掛けるといつも通りテレビをつけた。
それはもう習慣づいた動きで、これをしないと仕事には行けない。まぁ今日は仕事に行く訳ではないが。
今日もニュースでは各地の事件や事故が報道されている。
俺はこのニュースにいつも疑問を抱いている。
「こいつらは誰に何のために報道しているんだ?」
ほとんどの事件や事故は他人には関係のない事だと思う。それを全国の人間にお知らせする必要がどれほどあるのだろうか?当事者同士やその関係者に伝えるだけで十二分なんじゃないかといつも思う。むしろこのニュースが犯罪を助長させている様な気がするんだ。
例えば、どこかの県のどこかの警察官が女子校生を盗撮して捕まったとする。その盗撮方法を公開してどうするんだ?被害者にならないように注意喚起や対策を考えろということかもしれないが、誰が警察官がそんな事すると思うのだろうか。むしろあーこんなやり方があるのかと犯人が増えそうに思うのは俺だけだろうか?
被害者がどれだけ気を付けていても防げない事もある。であれば少しでも犯罪者を減らす事を考えた方がよっぽど意味があると思うのだが…
まぁ俺にはどうにも出来ない。
ボーっとしているとそろそろ彼女が出勤してくる時間だ。急いでスーツに着替え髪をジェルでセットした。
実を言うとこのジェルは昨日急いで買った物でいい匂いがする。
玄関に立つと姿見があった。久しく見ていなかったので存在自体を忘れていたが一応身だしなみをチェックした。心臓がバクバクとなり、手足が震えた。最近にもこういう感覚は身に覚えがあって、凄く身近に感じた。慣れとは怖い。
外に出ると、景色はいつもより少し明るく小鳥も多く鳴いていて何かの花の匂いがした。それはサクラかもしれないがあまり詳しくないのでよく分からない。
気づけばすっかりに春になっていた。