15. 初恋
初恋
ふと目がさめると俺は公園のベンチで子供達やその親たちに囲まれていた。
「あ…あの、大丈夫ですか?」
心配と言うよりも迷惑や嫌悪感のある表情で聞いてくる。きっと不審者に間違えられたのだろう。時間を確認すると15時を指していた。
「あ、大丈夫です…ちょっと疲れてただけなので…。」
そう伝えると、スッと立ち上がり寝ぼけた頭のまま歩き出した。とりあえず会社に行かなければならない。ちょっと遅くなりすぎた。これじゃあ犯人だと疑われて署まで同行して事情聴取でも受けてきたのかと思われそうだ。
途中何台かのパトカーが公園の方に向かって行ったのをみてかなり焦った。もう少し遅ければまた時間を取られるところだ。
会社に到着すると、来客があった。
恐らく同期で女のスナダの客だろう。土木関係の会社の社長とその秘書らしき女が事務所のソファに腰掛けていた。
「どうも…いらっしゃいませ。いつもお世話になっております。」
よくわからないがとりあえず挨拶だけしておいた。無言で座る訳にも行かないから。
課長に今朝あったことを説明すると気味が悪い冗談だ、と最後まで取り合ってはくれなかった。俺にとってはこれくらいが凄く丁度いい。
話も終わり自分の席につくと丁度スナダとその客の話が聞こえてきたので何の気なしに聞いていた。そしてふと気がついた。
「この秘書めちゃくちゃいい女じゃないか!」
歳は若くはないだろう。だが独特の色気や立ち振る舞いはとてもその歳相応には見えない。俺は普段はこんな風には思わない。殺人サイトを始めてから俺は人間らしい感情が次々に沸いていることに気がついた。他人に興味が出たのは本当に珍しく自分の中でも意外なほど興奮していた。
そして、会話の中から勤めている会社などを聞いた。休みは平日だという事も。よし、次の休みは営業ということで行ってみよう!別にこの人をどうかしようとは思わないがなぜか、物凄く気になるんだ。
なんて俺は行動的になったんだろう。
ここ何年も休みの日に外出しようとか、あの日になにかしよう等計画を立てるという事もなかったのに。
そうと決めるととりあえず、あと4日間は耐えなければならない。でもなぜかあの人にもう一度会えるかもしれない!と思うだけで残りの日々を頑張れそうな気がした。こんな気分になったのは生まれて初めてだ。
珍しくハツラツとした表情で作業をこなしていたのか、帰り際に課長が
「どうしたドイ…朝は大変だったね。もしあれだったら…この後…」
「飲みですか?結構です。」
言い終わる前にかぶせるようにそう言いつけた。課長はそうかと不機嫌そうに帰って行った。初めて誘われた飲みも二つ返事で断ってしまった。なぜなら俺はそれどころではない。あの秘書に惚れてしまったからだ。
「名前は確か…レイコと言ったかな…」
誰もいなくなった事務所で1人ポツリとつぶやく。
俺は今生きるのを楽しんでいた。喜怒哀楽をフルに使う今を。この世も捨てたものではないと。
今夜も事務所をネットカフェがわりに1日を過ごした。