13. 近隣
近隣
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時に恐怖は、自分の中にある本当の部分を剥き出しにして、その恐怖の対象から必死に遠ざかろうとする。
俺の中にあるそれは酷く醜く汚い。
それを必死に隠して生きてきたのに。
時折、顔を覗かせてジロリと目を輝かせては満足して帰っていく
俺にとっての恐怖って…?
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この震えは今浴びた水のせいだ、と必死に自分に言い聞かせる。
ガタガタと震えが止まらないのでポットにお湯を沸かしスープを飲む事にした。
俺はわかめスープが大好きだ。
理由はよくわからないけどスープを飲む時はわかめスープに決まってる。
別に強いこだわりがあるわけじゃない。
ただ好きなだけ。
スープを飲み干し、毛布に包まると自然と眠気がやってきた。
それもそのはず時間は5時。
人によってはとっくに動き出す時間である。明日は朝はキチンと起きれるだろうか。もう寝坊はできないんだ。でもこの睡魔には耐えられない。そのままゆっくり眠りについた。
(ピンポーン)
3,4回間をあけてチャイムが鳴らされる。
「警察の者です。どちらかいらっしゃいませんかぁ?」
その後再度チャイムが鳴らされる。
俺は初めのチャイムの時点で目が醒めていたが無視している。胸がバクバクとしていた。
間違いなく昨日の事だろう。
そりゃあそうだお隣さんの事なんだから。俺の家にも来るさ。別に逮捕される訳でもない。問題なのは昨日の事を話すべきかどうかだ。俺が話しているのをどこかで犯人に聞かれてしまったら、次の日には俺の命はないかもしれない。
だけどこのまま無視していれば怪しまれる。
俺は仕方なく玄関を開けた。
そこには今にも帰りそうな警官達の姿があった。
(ちっ。もう少しすれば帰っていたか。)
そう思ったが時はもう既に遅し。
「あーいらっしゃいましたか〜。いや何度かお声かけしたんですが反応が無かったのでお留守だとばかり…
早速ですがですね。昨日お宅のお隣さんの家で殺人事件が起きてるんです。」
「は、はぁー…」
俺の言葉などほとんど耳を傾けずどんどん喋る警官。
「ん?薄いリアクションですねぇ〜。何かご存知ですか?」
「いえ…特に…今寝起きであまり頭が働いておりませんので。」
準備が不十分すぎる。相手の発する言葉に対するリアクションの準備。聞かれた事に対する準備。営業の時もそうだがいつだって完璧にカンペを作って行かないと、普通の人よりもあまり喋れない自信がある。
そうさせたのは今の会社なんだが…
この事態は予想していたにも関わらず呑気なもんだと、一度深呼吸をして
「先に着替えてもいいですか?」
と一言だけ伝えると逃げる様に家の中に入っていき、シャツとスラックスに着替え頭を整理させた。